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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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花時計は止まらない

神戸市中央区。三宮の喧騒を一歩抜けた先に、色とりどりの花で描かれた円形の時計がある。花時計前は、昔から待ち合わせの定番だ。観光客も、仕事帰りの会社員も、恋人たちも、ここで時間を重ねる。神戸らしい、どこか洒落た空気が漂う場所だった。


その夜、西日本特別諜報班――NSTは、その花時計を挟んだ一角で動いていた。旧居留地のカフェに、元県知事一派と繋がるブローカーが現れる。海外ルートと資金を結ぶ重要な接触。派手に動くことは許されない。証拠を静かに押さえる、それだけが目的だった。


主役は春日美咲。地味で目立たないが、冷静制圧と情報保持に長けた女だ。花時計から少し離れた街路樹の影に立ち、タブレット端末を構える。呼吸を整え、ターゲットの入店を待つ。


「美咲、相手は二分後や。焦るなよ」


無線の向こうから彩香の声。播州弁がいつもより硬い。

「了解です」


だが、美咲の胸はわずかにざわついていた。中央区の雑踏は予測不能だ。人の流れが、思惑を簡単に押し流す。


その予感は、すぐに形になった。


「やっぱりここ、きれいですね」


聞き覚えのある声。三好さつきだった。今日は完全なプライベートらしい。上品なコート姿で、花時計前に立っている。隣には、スーツ姿の男。彼氏らしき相手だ。笑い方がぎこちなく、いかにも待ち合わせの初々しさがある。


美咲の血の気が引く。


その立ち位置が、最悪だった。カフェの窓と花時計が一直線。さつきがスマートフォンを構えれば、ガラス越しに店内も映り込む。


「まずい……」


ターゲットが入店する。さつきが笑顔で写真を撮る。画面の光が、ガラスに反射する。ブローカーがわずかに顔を上げた。


警戒。


接触が流れる可能性が高い。


「どないすんねん……!」


彩香の声が緊張を帯びる。美咲は一瞬、判断を失った。計画が崩れれば、次の機会はいつになるか分からない。


そのとき、背後から落ち着いた声が届く。


「プランBや」


岡本玲奈。長身の影がネオンに溶けている。切れ長のアーモンドアイが状況を瞬時に読み取る。声は低く、神戸訛りの関西弁。


「美咲、Wi-Fiの口を探せ。迫田ツインズは観光客に紛れろ。あかりは裏口を押さえる。彩香、出口だけ絞れ」


矢継ぎ早だが無駄がない。


美咲は深呼吸し、裏通りへ回る。カフェの外壁から漏れる電波を拾う。接続に成功。ログが流れ込む。送金前の暗号通信が残っている。接触そのものよりも、事前のデータ移動が鍵だった。


一方、花時計前では迫田ツインズが偶然を装って人波を誘導する。さつきと男の前に自然な壁ができ、視線が遮られる。あかりが配達員のふりで裏口付近に立つ。逃走経路を無言で潰す。


「取れました。資金移動ログ、確保」


美咲の声が安定を取り戻す。


カフェの中では、ブローカーが接触を短縮し、早々に退店する。だが肝心の資金データは押さえた。任務は成功。接触は流れたが、致命傷ではない。


花時計前では、さつきが何も知らずに微笑んでいる。


「神戸って、夜もおしゃれですね」


男が頷く。「君といるからやろ」


ロマンスの気配が、潮風に混ざる。


玲奈はその様子を一瞥し、美咲の横に立つ。


「焦ったな」


「……はい。でも、戻れました」


「戻れたらそれでええ。怖いのに手を動かせた。それが強さや」


花時計の針は淡々と進む。誰の事情も待たない。


「玲奈さんがいなければ、無理でした」


美咲がそう言うと、玲奈はわずかに笑った。


「うちは判断しただけや。動いたんはあんたや」


神戸の街は今日も、善意と悪意を同じ顔で包み込む。

花時計は止まらない。NSTも止まらない。


さつきの背中は恋に向かって軽い。

美咲は次の任務に向かって歩き出す。


静かなる美貌のボスは、声を荒げずに状況を制圧する。

岡本玲奈がいる限り、組織は崩れない。


花時計は、ただ静かに時を刻み続けていた。

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