鋼鉄の甲板に響く足音
黒い航跡が交差する。
日本海の朝は冷たい。
潮が白く砕け、煙幕の残りが風にちぎれる。
不審船の甲板が、ついに目前に迫る。
「今や!」
彩香の声が裂ける。
美音が波を読んで舵を切る。
漁船が横波を利用して持ち上がる。
船体が一瞬、浮く。
その刹那――
澄香がワイヤーを放つ。
金属が鳴り、敵船の手すりに絡みつく。
「固定!」
美音は船体を絶妙な距離で並走させる。
現役モーターボートレーサーに勝ったあの日と同じ目。
恐れはない。波も敵も、読むものだ。
「行くぞ!」
彩香が跳ぶ。
ブーツが鋼鉄の甲板を打つ。
澪香が続く。
あかりも甲板に転がり込む。
背後で海上保安庁の巡視船が警告放送を流す。
上空には若林あおいのヘリ。
ローター音が空気を震わせる。
「甲板、三名武装。右舷側注意」
あおいの冷静な声が無線に響く。
敵乗員が銃を構える。
威嚇射撃。弾丸が手すりを弾く。
彩香は低く構え、突進する。
距離を詰める。
澪香が横から蹴り飛ばす。
武器が甲板を転がる。
海が荒れる。
船体が揺れる。
足場は不安定。
それでも退けない。
「玲奈はどこや!」
敵が船倉へ走る。
彩香が追う。
金属階段を駆け下りる。
油と塩の匂い。
暗い通路。
灯りが揺れる。
背後であかりが叫ぶ。
「右、二人!」
澄香が一瞬で制圧。
呼吸だけが荒い。
船倉の奥。
鉄扉。
中から、低い声。
「……遅い」
玲奈だ。
彩香の胸が一瞬だけ熱くなる。
だが止まらない。
鍵は外側。
澪香が工具を差し込む。
上では再び銃声。
甲板で海保が突入開始。
あおいのヘリがサーチライトを降ろす。
敵は最後の抵抗に出る。
「爆破装置だ!」
あかりが配線を見つける。
タイマーが点滅。
玲奈が足で装置を押さえている。
拘束は緩んでいる。
自力で外しかけている。
「彩香、上や」
扉が開く。
玲奈の顔。
傷だらけだが、目は鋭い。
言葉は短い。
「状況は?」
「取り返しに来た」
それだけでいい。
爆破装置の残り時間、三十秒。
あかりが必死に配線を辿る。
海が揺れる。
船体が傾く。
上空であおいが指示を飛ばす。
「敵増援、小型艇接近中!」
時間がない。
彩香がナイフで拘束を断ち切る。
玲奈が立つ。
ふらつくが、倒れない。
タイマーが二十秒を切る。
「あかり!」
「赤か青か……赤!」
配線が切れる。
沈黙。
タイマー停止。
一瞬の静寂。
その瞬間、甲板で爆発音。
敵が煙幕を再展開。
「全員、甲板へ!」
彩香が叫ぶ。
玲奈を支えながら階段を上る。
朝日が甲板を照らす。
海が光る。
敵の小型艇が迫る。
だが巡視船が進路を塞ぐ。
若林あおいのヘリが低空で旋回。
サーチライトが敵艇を固定する。
包囲完成。
黒い航跡は止まる。
彩香と玲奈が並ぶ。
海鳴りが、戦いの終わりを告げる。
だが敵の主犯は、まだ姿を見せていない。
玲奈が小さく言う。
「まだ終わってへんで」
彩香が頷く。
鋼鉄の甲板に、二人の足音が重なる。
日本海海戦は、最終局面へ。




