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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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滑走路の向こう側、海へ続く灯

伊丹は、暮らしの音が絶えない街だ。

空港の発着音が頭上をかすめ、住宅地の窓には夕餉の灯りがともる。町工場のシャッターが下り、商店街では総菜の匂いが漂う。派手な事件は似合わない。だからこそ、目立たない流れが紛れ込む。


NSTが追っているのは、元県知事一派に連なる資金の動線だ。

名目は医療研究資材の搬送。だが伊丹の物流倉庫を経由し、北へ抜けるルートがある。日本海沿いへ向かう細い線。玲奈失踪の時期と重なる記録が、かすかに光る。


臨時リーダーの彩香は、倉庫から少し離れた車内で全体を見ていた。

「騒ぐな。ここは生活圏や。動いた証拠だけ抜く」


県警に知らせない。摘発はまだ早い。

迫田ツインズが動く。


澪香は離れた地点から出荷データと発着記録を突き合わせる。車両の出入り、冷却温度のログ、伝票の癖。数字の隙間を読む役だ。

澄香は“取引先の調達担当”として倉庫に入る。華やかな容姿だが、声は低く落ち着いている。相手のわずかな動揺を拾い、逃げ道を塞ぐ。


「温度管理の記録、先週分も確認したいんです」

柔らかい言い方。だが拒否できない間合い。


責任者の笑顔が一瞬だけ崩れる。

澄香はそこを逃さない。搬入口の奥で、ラベルが二重に貼られた箱を見つける。医療資材にしては説明が曖昧だ。


そのとき、倉庫の外から明るい声が流れ込む。

「さつき、白菜これで足りる? 鍋、絶対おかわりするで?」

落ち着いた声が返る。

「美月、声が大きい。近所に響くわ。……豆腐も入れる?」


スーパーの袋を提げた二人が、住宅街の道を歩いている。

明るいハーフツインテールの小柄な女性。美月。

上品で清楚な長い黒髪の長身の女性。さつき。

完全なプライベートだ。さつきは伊丹で一人暮らし。美月が遊びに来て、今夜は鍋パーティーらしい。


二人は任務の存在など知らない。

ただの休日、ただの買い物、ただの他愛ない会話。


「この前な、彩香がなぁ~。静かにせえ言うて、自分が一番焦っとってん」

「ふふ。彩香は真面目すぎるのよ」


その声は、風に乗って倉庫の方へ届く。


車内で無線を握る彩香のこめかみが跳ねた。

(……聞こえとるわ)

小さく、しかし確かに呟く。

「やかましいわ」


怒鳴れない。ここは現場だ。

だが、その“うるささ”が空気を変えた。


倉庫責任者は、外の声に過剰に反応した。

撮影か、と疑う。ここは住宅街。騒ぎになれば困る。

焦った彼は、奥の荷物を急に移動させる。別の車両へ積み替え、出荷先を変更する。


澪香の声が無線に入る。

「動いた。白いバン、北へ。港じゃない。山側から抜ける」

彩香の視線が鋭くなる。

北。日本海沿いへ続く幹線道路。


澄香はその隙に、移動中の箱のラベルを一瞬だけ撮る。

符号は《Sea-Line 7》。

以前掴んだ通信記録と一致するコード。


決定打ではない。だが、疑いは確信へ傾く。


スーパー袋を揺らしながら、美月が笑う。

「さつきん家の鍋、絶対うまいで。伊丹の水、なんかええ感じするし」

「根拠が曖昧すぎるわよ。でも楽しみね」


二人はそのまま住宅街へ消える。

NSTにも、倉庫にも気づかない。

ただの生活音が、敵の動きを早めさせ、尻尾を掴ませた。


彩香は深く息を吐いた。

「……日本海沿い、ほぼ確定や」

澪香が静かに答える。

「玲奈の搬送記録と、時期が重なる」


滑走路の灯りが、遠くで瞬く。

飛行機が離陸し、夜空へ吸い込まれていく。


玲奈は、あの向こうにいるのかもしれない。

日本海へ伸びる線は、もう隠しきれない。


彩香は短く言う。

「次は海側や。伊丹は終わりや」


生活の街は、何も変わらない。

スーパーのレジも、空港のアナウンスも、鍋の湯気も。


だが、滑走路の向こう側には、まだ見ぬ海がある。

NSTは静かにその方向を見据えていた。

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