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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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静寂の講壇 ―夢の幕は、嘘を許さない―

川沿いに佇む、白く気品ある大劇場。

赤い絨毯、大階段、整えられたロビー。

昼下がりの柔らかな光の中で幕が上がる、誰もが憧れる“夢の舞台”。

昼の光のもとで、夢は静かに磨かれる。


その夢の裏に、冷たい金が流れていた。


NST西日本特別諜報班。

臨時リーダー彩香の机に置かれたのは、慈善公演収益の不審な送金履歴。

名義は、人気絶頂の男役スター。

凛々しい立ち姿、低く通る声、完璧な所作。

観客の憧れを一身に受ける存在。


だがその口座は、元県知事派の資金ルートと繋がっていた。

寄付金を装い、政治工作の資金へと回す巧妙な経路。


彩香が低く言う。


「ここは夢の場所や。

派手に潰したら、ファンまで傷つく」


視線は美咲へ。


目立たないが、芯の強い彼女がゆっくり頷く。


「……夢の舞台を汚すようなことは、許せません」


声は静かだが、決意は揺れない。


公演当日。

昼の回。満席。


客席は静謐で、観客は上品にプログラムを広げる。

ここは芝居を観る場所。夢を味わう場所。


美月は中央ブロックで身を乗り出している。


「うわ……やっぱり格が違うな。これが本物や」


彼女は売店で買った公演プログラムを握りしめ、完全に観劇モードだ。


その頃、NSTは裏で動く。

美咲が財務記録を整理し、送金の証拠を固める。

あかりが舞台映像系統の回線を確認。

澄香と澪香がタイミングを計る。


表に出るのは、舞台の流れを壊さない“真実”だけ。


物語は最終幕へ。


男役スター――彼女が舞台中央に立つ。

長身のシルエット、鋭い眼差し。


「この命を賭して、真実を守る!」


観客は息を呑む。


その瞬間、背景の舞台装置に微細な変化。

演出の一部のように、古文書風の書簡が映る。

だがその中身は送金履歴。慈善収益から海外団体への移動記録。


観客はまだ演出だと思う。


続いて、低い声が舞台音響に重なる。


《劇団の名声は最高の隠れ蓑だ》


スターの瞳が一瞬揺れる。

だが彼女は役を崩さない。

舞台の人物として、堂々と台詞を続ける。


それが、かえって皮肉だった。


「誇りは、決して汚されぬ!」


その背後に、口座ログと送信元IP。

学内ではなく、彼女の個人アカウント。


ざわめきが客席に広がる。

だが舞台は止まらない。

群舞も音楽も、作品世界は完璧なまま進行する。


美咲が袖で呟く。


「……ここまでです」


クライマックス。

大団円のポーズ。


そしてカーテンコール。


スターが一歩前に出た瞬間、

スクリーンに劇団本部の公式発表が映る。


《内部調査のため、本日付で当該団員は活動停止》


観客は一瞬、静まり返る。

だが作品の余韻は崩れない。

舞台は最後まで夢の世界を保った。


彼女は微笑みを浮かべ、深く一礼。

その姿はあくまで美しい。

だが、その背後の栄光は静かに剥がれ落ちていた。


終演後。


美月は満足げに息を吐く。


「いやぁ……斬新やな。作品の中に社会問題まで織り込むとか、攻めすぎやろ」


隣の観客が小声で。


「……あれ、演出ちゃうで」


「え?」


美月は目を丸くする。


数日後。

男役スターは公式サイトに短い文を残し、“卒業”の形で去った。

誰も騒がない。

劇団は静かに次の配役を発表する。


夢は壊れない。

壊れるのは、夢を利用した者だけ。


NSTの会議室。


美咲が一枚の通信ログを差し出す。


「……玲奈さんの痕跡です」


失踪直前、玲奈が劇場裏手の倉庫街で通信を残していた。

スターの送金先企業と、その倉庫会社が一致する。


「全部は見えません。でも、線は続いてます」


彩香が頷く。


「舞台の裏には必ず搬入口がある。

そこから、玲奈さんも何かを掴んだんや」


美咲は静かに拳を握る。


「舞台は守れました。

でも、まだ終わっていません」


昼の光に包まれた大劇場は、今日も気高い。

観客は夢を見る。


そしてその裏で、

夢を守る影が、またひとつ任務を終えた。

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