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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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スタンドに鳴る裏金の拍動――白球は嘘を跳ね返す

海からの風が、アルプスの旗を揺らしていた。

関西を象徴するあの球場。

土は黒く、芝は深く、歓声は天井知らず。

ここはただの野球場じゃない。街の血流だ。勝てば経済が動き、負ければ空気が沈む。そんな場所だ。


だが今夜、その血流の一部が腐っている。


NST西日本特別諜報班。

臨時リーダー彩香の机に置かれたのは、一冊の薄い帳簿のコピーだった。

球団幹部名義の裏資金ルート。親会社の大手私鉄から出向してきた“やり手”の男。財務畑出身、数字に強く、愛想もいい。だがその数字が、元県知事派の資金網に繋がっていた。


「球場は聖地や。政治の汚れを持ち込ませるわけにはいかへん」


彩香が言い、視線があかりに向く。


「……私、野球わからないんですけど」


本気の顔だった。


あかりはルールも曖昧だ。三振とアウトの違いも怪しい。応援歌も知らない。

だが彼女は数字と流れを見る。スポーツを知らない代わりに、金の流れは読める。


「野球を知らんから、逆にいい。感情でブレへん」


彩香はそう言った。


ナイトゲーム。満員。

勝てば優勝争いに踏みとどまる大一番。


試合は劇的だった。九回裏、逆転。スタンドは揺れ、ジェット風船が夜空を裂く。


美月は三塁側で跳ねていた。


「最高やん! これぞ関西の底力や!」


その頃、あかりは球場地下の制御室にいた。

古い設備と最新のシステムが混在する、歴史と実利の交差点。


大型ビジョンの管理回線を掌握する。

手は震えない。


「勝利セレモニーまで、あと三分」


澪香の声がイヤーピースから届く。


球場は祝祭へ向かう。

ヒーローインタビュー。花束贈呈。紙吹雪。


そして、球団幹部がスーツ姿でグラウンドへ。

勝利を祝うスピーチのためだ。


「本日は皆様のご声援に――」


大型ビジョンが切り替わる。


選手の笑顔ではない。

グラフ。送金履歴。海外口座。

元県知事派への迂回献金ルート。


一瞬、スタンドが静止する。


「……なんやこれ?」


続いて、録音音声。


《球団の熱狂は最高のカモフラージュだ》


場内ざわめき。


幹部は振り返る。

マイクを握る手が汗で滑る。


ビジョンには、裏帳簿の決定的ページ。

そして親会社名義の内部メール。


観客席からどよめき。

応援団の太鼓が止まる。


幹部は必死に笑顔を作る。


「これは……フェイク映像で――」


その瞬間、紙吹雪のキャノンが誤作動。

真上から金色の紙片が滝のように降る。

動揺した幹部は足を滑らせ、豪快に尻もち。


大型ビジョンに映るのは、尻を押さえたまま呆然とする姿。

その横に、赤字で表示される“内部調査開始”。


スタンドから拍手とも笑いともつかない波。


制御室であかりは息を吐いた。


「野球って……勝ったらみんな幸せになるんですね」


彩香が応える。


「せや。だからこそ、汚すやつは許されへん」


警察は公式ルートで動く。

NSTの名は出ない。

球団は“自浄作用”を強調する会見を開く。


観客席。


美月は呆然としながらスマホを構えていた。


「……すごいセレモニーやな。最近の球団、演出凝ってるわ」


隣の観客が言う。


「演出ちゃうで。ガチや」


美月は目を丸くする。


「え、マジで?」


グラウンドでは、幹部が担架ではなく自力で退場。

背広に紙吹雪が貼りついたまま。


まるで祝福されているかのように。


数日後。


NSTに新しい報告が入る。

球場セキュリティの一時アクセスログ。


玲奈のIDが、かつて球団施設に入館していた記録。

失踪直前だ。


「……ここにも来てたんやな」


あかりが呟く。


野球を知らない彼女が、

野球の聖地を守った夜。


白球はただのスポーツじゃない。

人の感情と誇りを運ぶものだ。


そしてその夜、

裏帳簿はグラウンドに晒され、

腐った金は太陽の下に引きずり出された。


歓声は再び戻る。


スタンドに鳴る拍動は、

今度こそまっすぐだった。

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