鋼鉄は裏切らない ――鋼鉄の裏契約
港の東側、巨大なクレーンが空を切り裂く。
造船、鉄道車両、航空機、エネルギープラント。
日本の重工業を象徴する一大事業所が、海沿いに広がっている。
重厚なゲート、塗装の匂い、鉄の軋み。
ここは“ものづくりの牙城”だ。
だが鋼鉄の奥に、腐食がある。
ヒロ室西日本分室。
彩香が資料を机に放る。
「軍民両用技術の横流し。
しかも元県知事派の資金源や」
常務取締役。
技術畑出身、社内で叩き上げ。
今や国の産業政策に影響力を持つ男。
だが裏では、先端制御技術を権威主義国家へ水面下で供与。
表向きは“国際共同研究”。
「証拠は揃ってる」
澪香が冷静に言う。
彩香は視線をあかりに向ける。
「今回はあかりや。
現場、任せる」
あかりは短く頷く。
「やる」
数日後。
事業所内で新技術発表会が開かれる。
自律制御エンジンの発表。
国内外の報道陣が集結。
大スクリーン、眩しい照明、拍手。
壇上に立つ常務。
堂々とした声。
「我が社は、日本の未来を担う技術を――」
観客席には、神戸放送のカメラ。
さつきがマイクを握る。
「最先端技術の現場からお届けします!」
背後であかりが動く。
整備スタッフに紛れ、制御室へ。
澄香が通信を確保。
「サーバー接続。裏契約フォルダ確認」
発表は佳境へ。
常務が胸を張る。
「透明性と信頼こそが――」
その瞬間、スクリーンが切り替わる。
設計図の一部。
機密扱いの輸出制限文書。
そして裏契約書。
会場がざわつく。
常務の笑顔が凍る。
「これは……誤表示です」
続けて音声。
「政治は裏から動かす。
技術は金に変わる」
常務の声。
報道陣が一斉にカメラを向ける。
あかりが舞台袖から出る。
「裏から、ですか」
常務が睨む。
「君は誰だ!」
「現場や」
あかりの声は低い。
「鋼鉄は嘘つかん。
嘘つくのは人間や」
スクリーンに送金記録。
元県知事派企業への資金移動。
会場騒然。
さつきの声が生中継で響く。
「現場で予期せぬ映像が流れています……!」
スタッフが慌てるが、カメラは止まらない。
常務は弁明を試みる。
「国家のためだ!」
あかりが一歩前へ。
「国家ちゃう。
自分の保身や」
記者のフラッシュが焚かれる。
常務は後退し、
ステージのデモ用ロボットにぶつかる。
ロボットが不自然に作動。
腕が伸び、
常務のジャケットの裾を掴む。
――ビリッ。
会場からどよめき。
常務は裾を引きちぎり、
足を滑らせて転倒。
巨大スクリーンに、
尻もちをつく常務の姿と裏契約書。
絵面は完璧な“赤っ恥”。
さつきが小声で。
「……これは予定外の展開ですね」
だがカメラは回り続ける。
常務は立ち上がろうとするが、
散乱した資料に足を取られ再び転ぶ。
鋼鉄の企業イメージは守られた。
腐った部分だけが、晒された。
後日、常務は解任。
社内調査委員会設置。
株主総会で追及。
ヒロ室西日本分室。
彩香が報告を聞く。
「……ようやった」
あかりは肩を回す。
「鉄より硬いもん、折ったな」
夜の港。
クレーンが静かに立つ。
鋼鉄は裏切らない。
裏切るのは、人間だ。
NSTは影のまま。
だがその影は、確実に鋼をも断つ。




