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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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火種は静かに、机の上で燃える

ヒロ室西日本分室の空気は、乾いていた。


六甲の銃撃戦以降、状況は明確に変わった。

元県知事一派は、もはや裏で糸を引くだけの存在ではない。

銃を撃ち、爆弾を飛ばし、市街地を巻き込む。


穏便という選択肢は消えた。


彩香は会議卓の端に立ち、資料をめくる。


「敵は焦っとる。だが、焦りは破滅だけやない。暴走にも繋がる」


信頼できる情報筋からの報告書が並ぶ。


――政財界に協力者多数。

――経済界の一部要人が資金ルートを隠蔽。

――権威主義国家と水面下で接触。

――国家転覆を視野に入れた政治的圧力。


室内が静まり返る。


美咲が低く言う。


「武器だけやない……政治そのものが動いてる」


澄香が腕を組む。


「内部にスパイがいる。県警にも、もしかしたら……」


彩香は頷く。


「次の任務はあぶり出しや」


爆弾より厄介だ。


銃声は聞こえる。

だが裏切りは聞こえない。


県警幹部から正式に通達があった。


NSTは、政財界の要人に潜む協力者を特定せよ。


合法と違法の境目を歩く任務。


あかりが拳を握る。


「銃撃より嫌やな」


「撃たれる方がまだ分かりやすい」


彩香は静かに息を吐く。


「やるしかない」


玲奈は不在。


だが、戦いは止まらない。


この県を守るのは自分たちだ。


士気を高めようとした、そのときだった。


ドアが勢いよく開く。


「お土産やでー!」


明るい声。


美月。


その後ろに、落ち着いた黒髪のさつき。


手には箱。


「ヒロ室広島のノムさん企画や。“戦隊ヒロインもみじ饅頭”!」


机に並べられる丸い菓子。


表面には可愛らしい刻印。


戦隊ヒロインのイラスト。


「うわ、可愛い~」


あかりが目を輝かせる。


「ノムさん、センスあるね」


澪香が微笑む。


さっきまで国家転覆の話をしていた空間とは思えない。


美月は誇らしげだ。


「広島といえばこれやろ。戦隊ヒロインも世界平和も、まずは甘いもんからや」


彩香は苦笑する。


「因果関係わからんわ」


一口、頬張る。


しっとりとした生地。

甘い香り。


緊張が少しだけ緩む。


そして始まる。


「やっぱ、こしあんやろ」


彩香が言う。


美月が即座に反応。


「なんでや、つぶあんの方が食感あってええやん!」


「滑らかさが正義や」


「粒感がロマンや!」


ヒロ室名物、子供じみた論争。


美咲が小さく笑う。


「あんこで戦争は起きませんよ」


「起きとるやろ!」


あかりは両方を手に取る。


「どっちも美味しい」


そして、もぐもぐ。


気づけば、彩香の分が一つ減っている。


彩香が静かに振り向く。


「あかり……」


「あ、これ彩香の分やった?」


無邪気。


「後で話がある……」


怒りムード。


だが、あかりは気にせずもう一口。


さつきは微笑みながら言う。


「甘いものは、緊張を和らげますから」


美月は頷く。


「せやせや。眉間にしわ寄せとっても、スパイは見つからんで」


彩香は一瞬黙る。


甘さが、喉を通る。


机の上のもみじ饅頭。


刻印されたヒロインの笑顔。


戦いは銃声だけじゃない。


裏切り。

金。

思想。


火種は、机の上で静かに燃える。


彩香は箱を閉じる。


「甘い時間は終わりや」


全員の視線が集まる。


「次は、顔の見えへん敵や。

疑う覚悟、持っとき」


窓の外、大阪の空は灰色だ。


だが、ヒロ室の灯りは消えない。


玲奈がいなくても。


この街を、兵庫を守る。


火種はまだ小さい。


だが確実に、燃え広がろうとしている。

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