雪解け水は赤く染まる
六甲山系の奥は、まだ冬を引きずっていた。
雪は解けかけ、ぬかるんだ山道を冷たい水が流れている。霧が低く垂れ込み、視界は悪い。春の気配と、火薬の匂いが混じっていた。
元県知事一派が山中に武器貯蔵庫を設けている――。
情報を掴んだNSTは、兵庫県警と共同で突入する。
「今回ばかりは遊びやない」
彩香の声は低い。
県警の特殊部隊が前列を固め、NSTは機動役として山を駆ける。
廃ロッジ跡地。
朽ちた木造建築の影に、鉄製コンテナが並ぶ。
突入の合図と同時に、銃声。
山に銃撃が反響する。
違法拳銃の弾丸が木を砕き、雪解け水を跳ね上げる。
「あかり、右!」
彩香の指示に、あかりが滑るように前進。
拳銃を構える男の懐に飛び込み、体勢を崩して地面に叩きつける。
澄香と澪香が左右から制圧。
美咲が後方からドローン発進を確認。
その瞬間、空から不気味な唸り。
小型ドローンが複数、木々の間を縫って飛来する。
「爆薬搭載!」
彩香が叫ぶ。
ドローンが急降下。
着弾と同時に爆発。
土と雪が吹き飛び、白が赤く染まる。
崖縁に追い詰められるNST。
足元は滑る。
「下がったら落ちるで!」
澪香が崖を背に踏ん張る。
二機目のドローンが接近。
そのときだった。
「うわ~六甲の自然、最高やなぁ!」
場違いな声。
霧の向こうに、見慣れた後ろ姿。
明るい色のハーフツインテール。
その隣に、上品な黒髪の長身。
美月とさつき。
CS放送の「六甲・春の絶景ハイキング特集」のロケ。
彩香が絶句する。
「……なんでおるねん」
美月は山道の石を拾い、はしゃぐ。
「これ投げたら谷まで飛ぶかな?」
軽いノリで放った石。
偶然、低空で旋回していたドローンのプロペラに直撃。
機体がバランスを崩し、方向を逸らす。
爆発はNSTから数メートル外れた場所で起きた。
衝撃波はある。だが直撃は免れる。
さつきは霧の中を見渡しながらカメラに向かう。
「こちら六甲山系、雪解けの季節です。あちらで何やら騒がしいですが、春の訪れでしょうか」
背後で銃撃戦。
スタッフが震える。
「危ないです!」
だがさつきは落ち着いている。
そのカメラの照明が、山小屋裏に潜んでいた敵幹部を照らした。
「あそこや!」
彩香が駆ける。
幹部は逃走を図る。
崖方向へ。
足場が崩れ、幹部が滑落しかける。
あかりが飛びつき、腕を掴む。
崖下は数十メートル。
「離せ!」
幹部が暴れる。
彩香が近づき、冷たく言う。
「玲奈はどこや」
一瞬の沈黙。
幹部の目が揺れる。
その隙に県警が拘束。
ドローン残骸から爆薬を回収。
武器貯蔵庫を押収。
これまでにない規模の摘発。
だが、美月とさつきは何も知らない。
美月は満足げに言う。
「やっぱ自然はええな!ストレス吹っ飛ぶわ!」
さつきも微笑む。
「偶然の出会いがありましたね」
彩香は額に手を当てる。
「……毎回、命拾いしてるのはあいつらのせいなんか、運なんか」
雪解け水は赤く濁って流れていく。
確保した幹部は連行される。
その口から、ひとつの言葉が漏れた。
「……まだ、利用価値はある」
玲奈を示唆する言葉。
彩香の目が鋭くなる。
六甲の霧は晴れつつある。
雪は解ける。
だが、流れた血の色は消えない。
戦いは、次の段階へ入った。




