市街地に落ちる火花
昼の三宮は、人の波が途切れない。
高架下エリアは昼間から賑わい、立ち飲み屋の暖簾と古着屋の看板が雑多に並ぶ。列車が通るたびに、鉄骨が低く唸る。
その喧騒の下に、火薬が仕込まれていた。
元県知事一派が計画したのは、市街地同時多発爆破。
狙いは混乱。
行政機能を麻痺させ、クーデターの土台を作る。
NSTと兵庫県警は合同捜査に入っていた。
彩香は高架柱の影で地図を広げる。
「設置ポイントは三カ所。配線は地上に出るはずや」
県警幹部が険しい顔で言う。
「指揮は県警が執る。君たちは補助だ」
彩香の目が細くなる。
「時間がない。爆弾は移動式の可能性がある」
「現場は市街地だ。勝手な行動は許可できん」
指揮権を巡る空気が一気に張り詰める。
銃声が響いた。
乾いた破裂音が高架下に反響する。
人々が悲鳴を上げ、散り散りに逃げる。
違法拳銃を持った男たちが路地を走る。
「動くで!」
彩香は走った。
県警が制止する声を振り切る。
必要とされている場所で、結果を出す。
その瞬間、父の話が脳裏をよぎる。
都市対抗野球近畿予選敗退。
その後、大阪市の保険会社チームから補強選手として呼ばれた。
外様の自分が予選を戦ったチームを離れ、本戦出場チームに加わる。複雑だったという。
それでも父は言った。
「必要とされたところで結果を出す。それが仕事や」
一回戦敗退。
だが三安打。
献身的な守備。
補強先の監督は感謝したという。
若い選手の見本になった、と。
彩香は足を止めない。
必要とされている。
なら、やるしかない。
高架柱の裏に爆弾らしき装置を発見。
配線は三方向に分岐。
同時に、敵が発砲。
弾丸がコンクリートを削る。
あかりが飛び出し、路地で敵を制圧。
澄香と澪香が挟み込む。
美咲が配線を解析する。
「時間は?」
「三分!」
その時だった。
「こちら神戸三宮・高架下からお伝えしております!」
聞き覚えのある、落ち着いた声。
さつき。
神戸放送の「高架下グルメ特集」取材中。
カメラとマイクを手に、銃撃戦の現場に立っている。
あかりが叫ぶ。
「さつきさん伏せて!」
弾丸が看板を撃ち抜く。
さつきは一瞬身を屈めるが、すぐに顔を上げる。
「現在、現場では銃声のような音が……市民の皆さんは安全な場所へ――」
スタッフが慌てて言う。
「危ないです!撤退しましょう!」
だが、さつきの目が変わる。
「今、伝えなければいけないことがあります」
女子アナウンサー志望の矜持。
ジャーナリスト魂に火がついた。
銃声の中、淡々とレポートを続ける。
その照明が、配線の色分けを鮮明に照らした。
美咲が気づく。
「赤と青、逆や!」
爆弾解除。
残り五秒で停止。
敵は最後の一人が高架上へ逃げるが、県警が包囲し確保。
静寂が戻る。
さつきはマイクを握ったまま、息を整える。
「現場は現在、警察によって制圧されました――」
その映像は夕方の神戸放送ニュースで流れた。
スタジオのアナウンサーが真顔で言う。
「高架下での緊迫した様子です」
その背後で、さつきの落ち着いたレポート映像。
NSTは画面を見て沈黙する。
彩香は苦笑する。
「……なんで巻き込まれるんや」
あかりがぽつり。
「結果、助かりましたけど」
県警幹部が歩み寄る。
「今回は……感謝する」
指揮権争いは一旦収まる。
だが、元県知事一派はまだ健在。
玲奈の手がかりは、ない。
高架下のコンクリートには、まだ火花の跡が残る。
彩香は空を見上げる。
列車が通過し、鉄骨が震える。
必要とされた場所で、結果を出す。
それが自分の役割だ。
市街地に落ちた火花は、
まだ消えていなかった。




