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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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鋼のレールに刻まれた秒針

港町と大阪を結ぶ、古い私鉄がある。

車両は年季が入っていて、塗装はくすみ、ドアの開閉音もどこか昭和の名残を引きずっている。

だがその“古さ”こそが街の血流だった。

通勤客、学生、買い物帰りの主婦。

ボロいが、止まらない。それが誇りだ。


その鋼のレールが、狙われた。


元県知事一派は焦っている。

資金の流れを断たれ、武器庫を押さえられ、物流も監視されている。

追い詰められた連中は、理屈を捨てる。


列車脱線爆破。

混乱を最大化し、その隙に行政機能を麻痺させる。

“非常事態”を作り出すのが目的だ。


NSTに入ったのは、保線区間での異常報告。

ボルトの緩み。深夜の不審侵入。

そしてレール下に埋設された異物反応。


彩香は即断した。


「保線作業員に扮して入る。

一本ずつ確認や。

派手なことはせん。地味に、確実に潰す。」


その声に迷いはない。

臨時リーダーという肩書きは、もう形だけだ。


夜の線路は冷たい。

ヘッドライトだけが頼り。

美咲が工具を持ち、澄香がボルトを確認し、澪香が後方警戒、あかりがレール下を覗く。


カン、カン、とハンマーの音が闇に溶ける。


派手な銃撃戦も、爆破もない。

あるのは地道な確認作業だけ。

だが失敗すれば、数百人が死ぬ。


あかりが小声で言う。


「彩香さん、これ……緩い。」


一本のボルト。わずかな緩み。

偶然ではない。意図的だ。


彩香はすぐに判断する。


「全部チェックし直せ。

爆薬は近い。焦るな。焦ったら終わりや。」


その時、遠くで列車のライトが見えた。

次の便まで、あと十数分。


澄香がレールの継ぎ目を調べ、指を止める。


「……下です。」


レール直下の砂利を払う。

黒い塊。簡易爆薬。

脱線誘導用の小型装置。

タイマーは作動中。


残り八分。


あかりが一歩踏み出す。


「私、外す!」


彩香が即座に制す。


「待て。順番守れ。

美咲、構造見ろ。

澪香、時間読み上げ。」


役割は明確。

感情より段取り。

これがチームだ。


美咲はしゃがみ込み、冷静に観察する。


「二重構造。脱線後に衝撃起爆。

解除可能。ただし振動厳禁。」


残り六分。


列車は近づいている。

ボロい車両の揺れが、すでにレールを震わせる距離だ。


彩香の脳裏に、父の声が過る。

最後の一球まで、諦めるな。


「解除や。

止められへん。ここで止める。」


あかりがレールを押さえ、振動を最小限にする。

澪香が秒数を刻む。


「四分三十秒……四分二十……」


美咲の手は震えない。

カバーを外し、配線を確認。

切る順番を一つ間違えれば終わりだ。


列車の音が大きくなる。

レールが唸る。


残り二分。


彩香は息を整える。


「……美咲。信じてる。」


一言で十分だった。


パチン。


配線が切れる。


沈黙。


タイマー表示が止まる。


澪香が息を吐く。


「……解除成功。」


直後、列車が通過する。

鉄と鉄が擦れる音。

ボロい車両が、いつも通り揺れながら走る。


窓の中に、乗客の顔。

その一つに、見覚えのある横顔。


さつきだ。


ロケ帰りらしい。

イヤホンをして、窓の外の夜景を見ている。

何も知らない。

数十秒前、自分が死の上を走るところだったことを。


列車が過ぎ去り、静寂が戻る。


あかりが座り込む。


「……怖かった。」


澄香が淡々と言う。


「任務成功です。」


美咲は工具を片付けながら、ようやく肩の力を抜いた。


彩香はレールに触れる。

冷たい。だが、生きている。


「守れたな。」


誰も大きな声は出さない。

派手な勝利ではない。

だが確実な一勝。


玲奈は出てこない。

手がかりもない。

だがNSTは、守るべきものを守った。


遠くで、列車の走行音が小さくなる。


あかりがぽつりと笑う。


「さつきさん、たぶん今、

“この電車ちょっと揺れるね”とか言ってるよ。」


彩香が鼻で笑う。


「ボロい言うな。

あれは味や。」


だが内心、全員が肝を冷やしていた。


敵はもう、無差別に踏み込んでくる。

焦りが見える。

だが同時に、後戻りはない。


彩香は夜空を見上げる。


「……次は、攻める。」


鋼のレールは、何も語らない。

だが今夜、秒針は確かに刻まれた。


守るために戦う。

その意味を、NSTはもう一度噛みしめた。

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