表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/240

雪山に消えない足跡

但馬の山は、音を吸う。


養父市の山岳地帯。

白一色の世界は美しいが、同時に残酷だ。足跡は嘘をつかない。誰が通ったか、どれだけ重い荷を背負っていたか、どこへ向かったか――全部、雪が覚えている。


NSTが掴んだ情報は、その“白”の中にあった。


第三国経由で流れ込んだ武器。

新しい資金洗浄ルートの終点。

そして、玲奈が一時的に“そこを経由した可能性”。


県警幹部は「最悪の想定」を口にしたが、彩香は切り捨てた。

足跡が残る限り、人は消えない。


今回の先行は、迫田澄香だった。


双子のうち、より静かな方。

澪香が感情で動く瞬間でも、澄香は刃のように冷える。

雪山で必要なのは、熱よりも冷静さだ。


彩香は短く言った。


「澄香。単独で先行。

倉庫群の外周、監視網、移送車両の経路。

焦るな。足跡は消えへん。」


澄香は頷き、白い息を吐いた。


「了解。雪は味方です。」


――――


山中の廃スキー場跡。

営業をやめたリフトが凍りつき、風がワイヤーを鳴らす。

その麓に、コンテナが並んでいた。簡易倉庫。だが、中身は観光用の土産ではない。


澄香は地元の除雪業者に紛れ、静かに近づいた。

作業着、ニット帽、スコップ。完璧な偽装。


コンテナ裏に回り、タイヤ痕を見る。

大型トラックが何度も往復している。しかも最近。

雪の上に残る黒い粉末。火薬の原料。


澄香は無線を押す。


「彩香、確認。武器搬入拠点。

中に複数。警戒は甘い。急いでいる様子。」


彩香の声は低い。


「焦っとる証拠や。

……玲奈さんの線、何かあるか?」


澄香は雪面に目を落とした。

そこに、細い溝。

ブーツとは違う、引きずられた跡。

そして、白い繊維。


心拍が一瞬だけ跳ねる。


「……可能性あり。

拘束状態の移送痕跡。

サイズ、女性。」


玲奈かどうかは断定できない。

だが“通った”のは確かだ。


その時、遠くから場違いな音がした。


「はい、こちら但馬の雪景色です〜!」


マイク越しの明るい声。

カメラの回る音。


澄香は目を細めた。


(……最悪。)


神戸放送の情報番組。

準レギュラー、さつき。


白いコートをまとい、上品に笑う彼女が、雪の中に立っている。

番組は「但馬の雪景色特集」。

タイミングが悪すぎる。


さらに悪いことに、澪香が別方向から偵察に入っていた。


カメラマンが澪香を見つける。


「すみません!地元の方ですか?少しインタビューいいですか?」


澪香が固まる。

耳に無線が入っている。今は任務中。

だがカメラは回っている。逃げれば怪しい。


さつきがマイクを持って近づく。


「こんにちは。今日はどちらへ?」


澪香は一瞬、澄香を見る。

澄香は遠くからわずかに首を振る。

“任務続行”。止まるな。


澪香は覚悟を決めた。


「……ええと、雪見に。

但馬の雪、きれいですね。」


カメラが寄る。

さつきがにこやかに続ける。


「おすすめの景色、ありますか?」


澪香は山の斜面を指差す。

だがその方向は、実は“敵の監視位置”。

カメラとスタッフがそちらへ移動する。


結果的に、倉庫周辺の男たちが動揺した。


「撮影?聞いてないぞ」

「まずい、顔が映る」


警戒が一瞬崩れる。


澄香はその隙を逃さなかった。


コンテナ裏に滑り込み、南京錠を確認。

簡易。急造。

蹴りではなく、ピンポイントで破る。


中には木箱。

銃器部品。

爆発物。

そして、拘束具の予備。


確証には足りない。

だが、線は繋がる。


澄香は無線を押す。


「彩香、確定。武器庫。

今、外が騒がしい。撮影隊の影響。

……今なら行けます。」


彩香は一瞬だけ沈黙し、決断する。


「全員、挟み込む。

澪香はそのまま一般人を装え。

……さつきは、使える。」


澄香が小さく笑った。


「まさか、ロケが援護になるとは。」


――――


撮影スタッフが雪景色に気を取られている間に、NSTは配置についた。

迫田ツインズが左右から入り、あかりが後方遮断。


男たちはカメラを警戒して武器を出せない。

「テレビに映る」ことは、彼らにとって最悪だ。


制圧は短時間で終わった。


さつきはまだ雪の話をしている。


「この辺りは空気が澄んでいて、本当に静かですね〜」


澪香はマイクを向けられ、最後に一言。


「……足跡は、消えないと思います。」


意味深だが、視聴者には風情あるコメントにしか聞こえない。


――――


夜。


倉庫は押収された。

武器と爆弾は確保。

新たな資金ルートのログも回収。


だが玲奈は、もうそこにはいなかった。


澄香は雪面に残る跡を見つめる。

移送車両は南へ向かっている。


彩香が静かに言う。


「……あと一歩や。」


悔しさはある。

だが今日は違う。


生存の可能性は上がった。

拘束具の刻印。

移送の痕跡。


雪は、確かに覚えていた。


遠くで、さつきがスタッフと笑っている。


「あ、さっきの方、印象的でしたね〜」


澪香が小さく息を吐く。


「……まさか、あの人に救われるとは。」


澄香が答える。


「偶然も、戦力です。」


彩香は白い山を見上げた。


県警が何を想定しようが関係ない。

足跡は残っている。

玲奈は通った。

消えていない。


雪山は冷たい。

だが、冷たいからこそ、嘘を隠せない。


NSTはまた一歩、影に近づいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ