二時間無料に、命を懸けるな ――伊丹・巨大複合商業施設、黒鷹「駐車サービス券」偽造事件
伊丹は、車が似合う町だった。
大阪と神戸の間。
鉄道。
幹線道路。
空港。
住宅地。
商業地。
市域そのものは大きくない。
だが。
人。
車。
物。
動く。
大阪へ向かう。
神戸へ向かう。
尼崎。
宝塚。
川西。
西宮。
どこへも出やすい。
だから。
巨大な商業施設がある。
大型スーパー。
専門店。
映画館。
家電量販店。
飲食街。
休日。
家族連れ。
平日。
近隣住民。
そして。
何千台もの車。
巨大な立体駐車場。
その中。
誰も気にしない。
一台。
また。
一台。
車。
入る。
買い物客。
映画客。
送迎。
待ち合わせ。
その雑踏。
黒鷹は。
連絡網。
作っていた。
問題。
発覚。
きっかけ。
あまりにも。
情けなかった。
県警本部。
大型モニター。
偽造駐車サービス券。
西川彩香。
無言。
資料。
見る。
玲奈。
見る。
また。
資料。
見る。
「……玲奈さん」
「はい」
「これ黒鷹ですよね?」
「黒鷹です」
「国家転覆企んどる?」
「はい」
「産業スパイやっとる?」
「ええ」
「元県知事とまでつるんどる?」
「その通りです」
彩香。
指。
画面。
「ほんで駐車券偽造?」
玲奈。
「そうです」
彩香。
一拍。
「セコっ!」
麻衣。
横。
下。
向く。
美咲。
資料。
読む。
美音。
無表情。
玲奈。
当然。
真顔。
偽造されていたのは。
二時間無料。
追加一時間。
映画利用。
買い物金額。
組み合わせ。
複雑。
駐車サービス。
黒鷹。
内部協力者。
作った。
偽造券。
使う。
ところが。
それだけ。
なら。
NST。
出ない。
問題。
その車。
だった。
同じ車両。
特定曜日。
特定時間。
巨大複合商業施設。
駐車場。
入る。
数分。
別車両。
近づく。
ドア。
開く。
封筒。
小型端末。
記録媒体。
渡す。
黒鷹。
連絡網。
商業施設なら。
車。
多い。
目立たない。
彩香。
「それなら分かります」
玲奈。
「ただ」
資料。
一枚。
出す。
「駐車サービス券の偽造が露骨すぎます」
「罠?」
「可能性があります」
「ウチら誘う?」
「あるいは」
一拍。
「単純に脇が甘いだけか」
彩香。
「……それが一番嫌ですね」
玲奈。
「確認します」
彩香。
姿勢。
直す。
玲奈。
静か。
「任務に大小はありません」
彩香。
「はい」
もう。
この言葉。
強い。
反論。
できない。
「ただ」
彩香。
小声。
「ほんまに駐車代節約したかっただけなら、黒鷹の格だだ下がりですけど」
玲奈。
「それは捜査後に判断します」
「真面目やなぁ……」
潜入。
麻衣。
美咲。
駐車場運営スタッフ。
麻衣。
精算。
誘導。
サービス券。
出口。
案内。
小柄。
童顔。
客。
頼りやすい。
「二時間無料どうやって付けるん?」
「一階サービスカウンターでレシート提示してください」
「出口どっち?」
「次のスロープを下って右です」
「券反応せえへん」
「確認しますね」
完全。
馴染む。
美咲。
管理室。
入出庫。
ナンバー。
精算履歴。
防犯映像。
事務。
得意。
静か。
一台。
見る。
「この車」
麻衣。
「何?」
「今月十九回」
「常連?」
「買い物記録ほぼなし」
「映画?」
「なし」
「駐車場好き?」
美咲。
「そういう趣味なら止めないけど」
一拍。
「全部サービス券使ってる」
麻衣。
「黒鷹かな」
「たぶん」
そして。
外周。
待機。
河合美音。
浜松。
遠州の勇者。
短い。
鮮やかな。
バイオレットカラー。
ショートヘア。
大型自動二輪。
横。
立つ。
レザージャケット。
ヘルメット。
静か。
彩香。
通信。
『美音、待機長うなって悪いな』
「平気」
『逃げたら頼む』
「了解」
それだけ。
クール。
黒鷹。
会話。
傍受。
幹部。
なぜか。
詳しい。
「今日は平日だから最大料金が安い」
部下。
「二時間無料使った後どうします?」
「一回出庫する」
「また入るんですか?」
「その方が得だ」
「映画サービスは?」
「映画見てないだろ」
「チケット買ったら」
「余計な金使ってどうする」
監視室。
沈黙。
彩香。
「……」
麻衣。
「かなり詳しいですね」
美咲。
「料金表暗記してますね」
美音。
通信。
淡々。
「節約家」
彩香。
「褒めるな!」
玲奈。
『情報収集能力は高いようです』
彩香。
「玲奈さんまで!」
午後。
対象。
入る。
黒。
セダン。
白。
ワゴン。
灰色。
ミニバン。
三台。
美咲。
『確認』
彩香。
『接触すんな。追うだけ』
「はい」
麻衣。
場内。
移動。
美咲。
カメラ。
切り替え。
その時。
別。
車。
入る。
ごく。
普通。
乗用車。
運転席。
若い男。
助手席。
長い。
真っすぐな黒髪。
すらり。
上品。
麻衣。
モニター。
見る。
止まる。
「……」
彩香。
『何や』
麻衣。
「さつきさん」
一拍。
彩香。
「……は?」
三好さつき。
伊丹。
在住。
今日は。
完全に。
休日。
彼氏。
買い物。
彼氏。
NST。
知らない。
悪意。
ゼロ。
安全運転。
丁寧。
一時停止。
完全。
歩行者。
優先。
駐車枠。
探す。
ゆっくり。
彩香。
「何でこういう日に来るん……」
麻衣。
「伊丹市民ですから」
「理屈は分かる!」
黒鷹。
一台。
動く。
予定。
早い。
美咲。
『動きました』
彩香。
『追える?』
「はい」
麻衣。
『私乗ります』
彩香。
『車は?』
美咲。
「私の」
彩香。
「……何?」
地下。
スタッフ用。
駐車区画。
一台。
軽自動車。
小さい。
低い。
少し。
古め。
丸み。
ある。
四角い。
昔ながら。
軽ハッチバック。
前後。
若葉マーク。
彩香。
見た。
沈黙。
「……これ?」
美咲。
「これです」
「任務車両?」
「私物です」
「他は?」
「ありません」
麻衣。
助手席。
扉。
開く。
「逆に最強のカムフラージュですよ」
彩香。
「最強いうか……」
見る。
若葉マーク。
細いタイヤ。
小さな車体。
どう見ても。
秘密諜報班。
特殊任務車両。
違う。
買い物帰り。
初心者。
それだけ。
彩香。
「黒鷹もまさか追跡車やと思わんやろな」
美咲。
「それが狙いです」
彩香。
「狙って買うたわけちゃうやろ!」
エンジン。
かかる。
音。
控えめ。
美咲。
ハンドル。
握る。
少し。
緊張。
麻衣。
「美咲ちゃん」
「何?」
「大丈夫?」
「たぶん」
「“たぶん”なん?」
「運転まだ慣れてないから」
麻衣。
「……」
彩香。
『ほんまに大丈夫なん?』
美咲。
「安全運転します」
彩香。
「追跡やぞ!」
黒鷹。
前。
美咲。
後ろ。
距離。
取る。
黒鷹。
バックミラー。
見る。
軽。
若葉。
一台。
工作員。
「後ろの軽?」
幹部。
ちら。
「初心者だろ」
「さっきから同じです」
「ここ駐車場だぞ」
納得。
する。
気づかない。
麻衣。
助手席。
「次右」
美咲。
「右?」
「うん」
曲がる。
少し。
大きい。
麻衣。
「あ、美咲ちゃん内側」
「怖い」
「壁まだあるよ」
「あるから怖い」
「そっか」
次。
スロープ。
黒鷹。
速い。
美咲。
遅い。
麻衣。
「もうちょい行ける?」
「これ以上無理」
「分かった」
追跡。
なのに。
安全。
第一。
妙な。
緊迫感。
ない。
でも。
バレない。
黒鷹。
気にしない。
むしろ。
理想。
美咲。
毎日。
駐車場。
歩いて。
把握。
していた。
「麻衣」
「何?」
「次上行くと遠い」
「左の短絡?」
「うん」
麻衣。
地図。
見る。
「一般車通れる」
美咲。
ウインカー。
出す。
左。
細い。
連絡路。
抜ける。
黒鷹。
上階。
回る。
美咲。
一段。
ショートカット。
次。
交差。
前。
出る。
黒鷹。
運転手。
驚く。
「さっきの軽!」
幹部。
「何で前にいる」
工作員。
「偶然でしょう」
誰も。
まだ。
疑わない。
若葉マーク。
強い。
その時。
前。
さつき。
彼氏。
車。
交差。
彼氏。
歩行者。
見つける。
停止。
横断。
待つ。
さらに。
右。
入ろう。
する。
美咲。
前。
塞がれる。
ブレーキ。
「……!」
麻衣。
「止まって!」
完全。
停止。
黒鷹。
横。
別レーン。
抜ける。
麻衣。
「あぁー!」
彼氏。
バックミラー。
見て。
申し訳なさそう。
軽く。
手。
上げる。
全然。
悪くない。
むしろ。
優良。
運転手。
美咲。
反射。
軽く。
会釈。
麻衣。
「美咲ちゃん会釈しなくてええ!」
「でも譲ってくれたから」
「今追跡中!」
そして。
助手席。
さつき。
ふと。
軽。
見る。
目。
大きく。
「あれ?」
窓。
少し。
開く。
「美咲ちゃん!?」
美咲。
前。
見ながら。
「こんにちは」
麻衣。
「自然に返事せんといて!」
さつき。
今度。
麻衣。
見つける。
「麻衣ちゃんまでおる!」
麻衣。
顔。
引きつる。
「こんにちは」
彩香。
通信。
『挨拶すんな!』
さつき。
嬉しそう。
「何してるん!?」
麻衣。
「仕事です!」
「駐車場で?」
「はい!」
「二人一緒?」
「偶然です!」
さつき。
「最近その偶然多くない?」
麻衣。
「人生には色々あります!」
彼氏。
横。
「知り合い?」
さつき。
「うん、友達!」
彼氏。
また。
丁寧。
会釈。
麻衣。
つられて。
会釈。
美咲。
また。
会釈。
彩香。
監視室。
頭。
抱える。
「何で任務中に彼氏紹介会になっとんねん!」
さつき。
全然。
気づかない。
「今度ご飯行こうね!」
麻衣。
「はい!」
彩香。
『約束まで取り付けんな!』
黒鷹。
どんどん。
離れる。
ようやく。
彼氏。
駐車。
さつき。
降りる。
何も。
知らない。
美咲。
追跡。
再開。
黒鷹。
出口。
向かう。
精算機。
偽造。
サービス券。
投入。
表示。
料金0円
バー。
上がる。
幹部。
満足。
「ほら。二時間無料だ」
部下。
「さすがですね」
「こういう積み重ねが大事なんだ」
麻衣。
車内。
通信。
聞く。
沈黙。
「……これ、本気なん?」
彩香。
『今は追え!』
黒鷹。
施設。
出る。
国道。
向かう。
美咲。
追う。
一般道。
速度。
上がる。
車。
増える。
美咲。
表情。
硬い。
麻衣。
横。
見る。
「無理せんといて」
「うん」
前。
黒鷹。
離れる。
軽。
エンジン。
頑張る。
でも。
追いつかない。
麻衣。
判断。
『彩香さん』
『何や』
「美咲ちゃんここまで」
美咲。
「まだいける」
麻衣。
「無理したらあかん」
美咲。
少し。
悔しい。
でも。
頷く。
「分かった」
麻衣。
通信。
「美音さん」
返事。
即。
『見えてる』
道路脇。
大型自動二輪。
エンジン。
低く。
唸る。
美音。
ヘルメット。
シールド。
下げる。
バイオレットカラー。
ショートカット。
一瞬。
風。
靡く。
次。
アクセル。
開く。
大型二輪。
前。
出る。
速い。
でも。
乱暴。
違う。
車列。
読む。
信号。
読む。
車間。
取る。
黒鷹。
追う。
遠州の勇者。
麻衣。
軽。
助手席。
遠ざかる。
美音。
見る。
「……格が違う」
美咲。
「うん」
彩香。
通信。
『比較したるな!』
黒鷹。
バックミラー。
大型二輪。
見る。
「追ってきた!」
幹部。
「曲がれ!」
運転手。
「高速乗ります?」
幹部。
即。
「ダメだ!」
「え?」
「料金かかる!」
一瞬。
車内。
静か。
運転手。
「今それ気にします?」
「当たり前だ!」
美音。
通信。
聞く。
一拍。
「……セコい」
彩香。
『美音さんまで言うた!』
美音。
「事実」
クール。
速度。
保つ。
美音。
無理。
追い詰めない。
進路。
読む。
国道。
次。
交差。
県警。
待機。
封鎖。
美音。
黒鷹。
逃げたい方向。
潰す。
右。
出れば。
二輪。
左。
出れば。
覆面。
直進。
検問。
幹部。
焦る。
「脇道!」
運転手。
曲がる。
美音。
先。
回る。
大型二輪。
狭い。
進路。
でも。
自在。
先頭。
出る。
黒鷹。
急。
止まる。
美音。
安全な位置。
停車。
スタンド。
出す。
ヘルメット。
外す。
短い。
バイオレット。
髪。
風。
揺れる。
男。
車。
降りる。
「どけ!」
美音。
静か。
「嫌」
男。
来る。
美音。
半歩。
かわす。
腕。
取る。
身体。
流す。
一人。
床。
二人目。
逃げる。
県警。
出る。
確保。
幹部。
車。
戻ろう。
する。
美音。
前。
立つ。
目。
冷たい。
「終わり」
その時。
サイレン。
玲奈。
率いる。
県警特殊部隊。
到着。
「そこまでです」
黒鷹。
連絡車両。
確保。
端末。
封筒。
記録媒体。
偽造サービス券。
全部。
押収。
取調べ。
長い。
期待。
あった。
罠。
かもしれない。
高度。
撹乱。
かもしれない。
ところが。
結果。
単純。
黒鷹。
幹部。
本気。
駐車料金。
惜しかった。
捜査員。
「なぜ偽造した」
「毎回払ってたら馬鹿にならん」
「……」
「月何十回停めると思ってる」
「……」
「年間で計算しろ」
「……」
「経費削減だ」
県警。
会議室。
彩香。
資料。
見る。
長い。
沈黙。
玲奈。
「どうしました」
彩香。
「罠じゃなかったんですか」
「違いました」
「囮でも」
「ありません」
「ほんまに駐車代?」
「ええ」
彩香。
椅子。
深く。
沈む。
「情けな……」
玲奈。
「ただし、結果として連絡網を潰せました」
「それは分かってます」
「任務に大小はありません」
彩香。
「それも分かってます」
一拍。
「でも国家転覆組織が駐車料金二時間無料に全力注ぐん、何かこう……」
言葉。
見つからない。
玲奈。
「セコい?」
彩香。
見る。
「玲奈さんから言うた!」
後日。
ヒロ室西日本分室。
彩香。
座る。
麻衣。
美咲。
美音。
玲奈。
いる。
彩香。
机。
上。
資料。
見る。
「なぁ」
麻衣。
「あ、始まりました」
美咲。
「はい」
彩香。
指。
資料。
「浜松から美音さんまで呼んで……」
美音。
コーヒー。
静か。
飲む。
バイオレットの短い髪。
空調。
僅か。
揺れる。
表情。
いつも通り。
クール。
「別にいい」
彩香。
「よくないんですよ!」
美音。
「任務だから」
彩香。
「玲奈さんみたいなこと言わんといて!」
玲奈。
「正しいです」
彩香。
「また増えた!」
そして。
資料。
叩く。
「何で浜松から大型二輪のエキスパート呼んで、追いかけた理由が」
一拍。
「駐車料金二時間無料やねん!」
麻衣。
吹き出す。
美咲。
少し。
笑う。
美音。
無表情。
「連絡網もあった」
「分かっとる!」
彩香。
立つ。
播州弁。
強く。
「おどれらセコいんや!」
麻衣。
「本人いません」
「知っとる!」
「元県知事とつるんで国家転覆!」
一本。
「産業スパイ!」
二本。
「国外工作!」
三本。
「ほんで!」
四本。
「二時間無料!」
美咲。
顔。
伏せる。
彩香。
止まらない。
「しかも平日最大料金まで把握!」
麻衣。
「かなり詳しかったですね」
「高速逃げる時まで料金ケチる!」
美音。
淡々。
「結果、国道で捕まった」
彩香。
指。
美音。
「そこですよ!」
「何?」
「高速代ケチって捕まっとる!」
美音。
「合理性がない」
「美音さんから言われると余計惨めや!」
美音。
少し。
首。
傾ける。
「そう?」
「そうです!」
でも。
美音。
気にしない。
クール。
一口。
コーヒー。
飲む。
麻衣。
小声。
「美音さん格好ええなぁ」
美咲。
「うん」
彩香。
「ウチのボヤキ聞いて!」
さらに。
彩香。
美咲。
見る。
「それとな」
美咲。
「はい」
「美咲ちゃんの車」
「はい」
「……あれ、すごいな」
美咲。
少し。
嬉しそう。
「運転?」
彩香。
「ちゃう」
美咲。
「……」
「どう見てもNST車両に見えへん」
麻衣。
「そこは本当に完璧でしたね」
彩香。
「黒鷹、最後まで一般客やと思っとったもんな」
美咲。
「若葉マーク強いですね」
彩香。
「特殊装備よりカムフラージュ効いとるやん」
麻衣。
「ただし追跡速度は」
美咲。
「言わなくていいよ」
彩香。
「そこは練習しよか」
美咲。
「はい……」
麻衣。
笑う。
「でも途中のショートカットは完璧でしたよ」
美咲。
少し。
笑顔。
「毎日歩いてたから」
彩香。
「そういうとこは美咲ちゃんらしいわ」
一拍。
麻衣。
思い出す。
「それより」
彩香。
「何」
麻衣。
「さつきさんの彼氏、ほんま安全運転でしたね」
彩香。
顔。
歪む。
「そこ思い出させんな!」
美咲。
「歩行者優先、完全停止、譲り合い」
美音。
「良い運転」
玲奈。
「模範的です」
彩香。
「全員褒めんな!」
麻衣。
「全然悪くないですから」
「分かっとる!」
彩香。
両手。
頭。
「分かっとるから怒れへんのが一番腹立つんや!」
美咲。
「さつきさんも全く気付いてませんでしたし」
麻衣。
さつき。
真似。
「『美咲ちゃん!? 麻衣ちゃんまでおるやん!』」
美咲。
「『こんにちは』」
彩香。
「そこで自然に返事すんな!」
分室。
笑い。
彩香。
さらに。
考える。
「決めた」
麻衣。
「何をです?」
美咲。
「また罰ですか」
彩香。
「今度黒鷹が駐車料金ケチったらな」
美音。
「うん」
「伊丹の立体駐車場全部回らせて」
指。
立てる。
「一階」
二本。
「二階」
三本。
「三階」
「全部の精算機で一円単位の料金比較表作らせたる!」
麻衣。
「それ実用的ですね」
美咲。
「節約に使えます」
美音。
「黒鷹が喜ぶ」
彩香。
止まる。
「……」
一拍。
「却下!」
麻衣。
大笑い。
「自分で言ったのに!」
彩香。
「何で罰が福利厚生になるんや!」
美音。
淡々。
「効率はいい」
彩香。
「美音さん、そっち側行かんといて!」
その時。
玲奈。
少し。
離れた。
机。
報告書。
読む。
口元。
ほんの。
僅か。
緩む。
彩香。
即。
見る。
「玲奈さん」
「はい」
「今、笑いました?」
「いいえ」
麻衣。
「笑ってました」
美咲。
「私も見ました」
美音。
「見た」
玲奈。
三方向。
包囲。
一拍。
「……気のせいです」
彩香。
「絶対ちゃうやろ!」
玲奈。
報告書。
ページ。
めくる。
「任務に大小はありません」
彩香。
一瞬。
止まる。
「……それ出されたら何も言えへん」
美音。
バイオレット。
ショートヘア。
風。
僅か。
揺れる。
表情。
一切。
崩れない。
「でも」
彩香。
見る。
「何です?」
美音。
短く。
「セコかったね」
沈黙。
次。
全員。
吹き出す。
彩香。
机。
叩く。
「美音さんまで認定したぁ!」
玲奈の口元が。
また。
ほんの少し。
緩んだ。
伊丹。
巨大複合商業施設。
翌日。
平常営業。
車。
入る。
車。
出る。
買い物。
映画。
食事。
家族。
恋人。
何も。
知らない。
精算機。
表示。
駐車料金 0円
誰かにとって。
ただの。
二時間無料。
黒鷹にとって。
命を懸けるほど。
惜しい。
数百円。
国家転覆。
産業スパイ。
政治工作。
その末端。
駐車サービス券。
犯罪に。
格。
ない。
玲奈の言葉は。
正しかった。
ただし。
西川彩香。
この事件を。
思い出すたび。
一生。
同じこと。
言う。
「……セコっ!」
そして。
浜松から呼ばれた。
遠州の勇者。
河合美音だけは。
いつものように。
バイオレットの短い髪を風に靡かせ。
何事もなかったような。
涼しい顔で。
大型自動二輪。
走らせていた。




