国家転覆組織、ポイント五倍デーに堕つ ――加古川・巨大ホームセンター「一ポイントたりとも、黒鷹に渡すな」
加古川は、何でもある町だった。
加古川が流れる。
住宅地がある。
工場がある。
農地が残る。
幹線道路をトラックが走る。
職人が働く。
休日になれば家族連れが車を走らせる。
播磨の真ん中。
神戸にも姫路にも出やすく、少し郊外へ出れば土地にも余裕がある。
だから。
ホームセンターがよく似合う。
家庭用洗剤。
園芸用品。
木材。
電動工具。
セメント。
砂利。
農業資材。
ペット用品。
自転車。
収納ケース。
一つの巨大な建物に、暮らしと仕事が無秩序なほど詰め込まれている。
加古川市郊外。
幹線道路沿いに建つ大規模ホームセンター。
広い駐車場。
生活館。
園芸館。
資材館。
プロ向け工具売場。
巨大なバックヤード。
フォークリフトが動き。
トラックが出入りする。
休日。
開店前から客が並ぶ。
そんな庶民の店へ。
黒鷹は。
潜り込んでいた。
黒鷹。
政財界。
国外勢力。
産業スパイ。
次世代技術。
国家機密。
そして。
元県知事とも結託し、国家転覆まで企てているとされる巨大地下組織。
その黒鷹が。
今回。
何をしていたか。
県警本部。
作戦会議室。
大型モニター。
表示された文字。
会員ポイント不正取得事案。
西川彩香。
腕を組んだまま。
無言。
一度。
見る。
二度。
見る。
それから。
岡本玲奈を見る。
「……玲奈さん」
「はい」
「これ」
指。
画面。
「黒鷹やんな?」
「黒鷹です」
「国家転覆とか」
「はい」
「産業スパイとか」
「はい」
「兵器技術盗んだりする」
「ええ」
「その黒鷹?」
玲奈。
何の迷いもなく。
「そうです」
彩香。
一拍。
「セコっ!」
会議室。
静か。
あかり。
口元。
押さえる。
麻衣。
視線。
逸らす。
美咲。
資料。
読む。
玲奈だけ。
表情。
変わらない。
黒鷹の末端組織は、ホームセンターの会員ポイント制度を悪用していた。
ポイント五倍デー。
架空会員。
大量購入。
返品。
再購入。
一部ポイント処理の盲点。
不正な会員統合。
内部協力者による履歴修正。
そうして作ったポイントで。
換金性の高い。
電動工具。
バッテリー。
高級作業用品。
生活家電。
購入。
転売。
現金化。
活動資金。
彩香。
資料。
めくる。
「一件何円?」
玲奈。
「数百円から数千円程度です」
彩香。
顔。
上げる。
「国家転覆狙っとる秘密結社が、数百円?」
「積み重ねれば無視できない額になります」
「理屈は分かりますけど」
資料。
さらに。
見る。
「これ……箱ティッシュまで買っとるやん」
「転売対象ではなく、購入額調整に使った可能性があります」
彩香。
額。
押さえる。
「ポイント端数合わせるために箱ティッシュ買う黒鷹見たないわ……」
玲奈。
静か。
「彩香」
「はい」
「任務に大小はありません」
声。
落ち着いている。
だが。
芯。
ある。
警察官。
鑑。
そんな言葉が。
似合う。
犯罪者がセコいか。
格好悪いか。
笑えるか。
被害者には。
関係ない。
一円。
一ポイント。
盗まれれば。
犯罪。
玲奈。
「小さな不正だからと見逃せば、次の犯罪資金になります」
彩香。
少し。
姿勢。
直す。
「……はい」
一拍。
そして。
画面。
見る。
「でも」
玲奈。
「はい」
彩香。
吐き捨てる。
「セコいもんはセコいです」
玲奈。
「それは否定しません」
あかり。
とうとう。
「ふふっ」
彩香。
「笑うな!」
潜入。
紀伊ハンター。
三人。
白浜麻衣。
山本あかり。
春日美咲。
彩香。
現場指揮。
玲奈。
後方。
県警。
待機。
波田顧問。
当然。
口。
出す。
「てやんでぇ! ホームセンターだろうが何だろうが、紀伊ハンターに任せりゃ――」
麻衣。
「今回ポイントカードです」
波田。
止まる。
「……」
あかり。
「波田さんでも引くんやに」
波田。
「黒鷹も落ちたもんだな」
彩香。
「全員同じこと言うな!」
あかり。
資材館。
潜入。
初日。
朝。
制服。
エプロン。
安全靴。
売場。
案内。
セメント。
砂。
モルタル。
ブロック。
木材。
金具。
塗料。
プロ向け資材。
力。
いる。
あかり。
向いている。
先輩店員。
「山本さん」
「はい」
「このセメント一袋二十五キロあるから、無理せんで」
「はい」
一袋。
持つ。
「台車使って」
二袋目。
持つ。
「山本さん」
三袋目。
「台車!」
「あ、はい」
先輩。
眉。
上げる。
「……力あるな」
あかり。
笑う。
「ちょっとだけやに」
数日。
完全。
馴染む。
職人。
「ねえちゃん、速乾モルタルどこ?」
「こっちやに」
「このアンカーのサイズ違いは?」
「一個下の棚やに」
「軽トラ積み込み手伝って」
「はい!」
店長。
見る。
「山本さん」
「はい?」
「うちで本気で働かへん?」
「え?」
また。
潜入先。
採用。
されかける。
美咲。
サービスカウンター。
裏。
返品。
会員登録。
ポイント履歴。
レシート。
データ。
異常処理。
得意。
事務。
静か。
速い。
社員。
「春日さん、昨日の返品伝票――」
「確認済みです」
「え?」
「こちらです」
「……早いな」
別。
「このポイント訂正も」
「処理済みです」
「……助かるわ」
数日。
社員。
完全。
頼る。
そして。
美咲。
一つ。
異常。
見つける。
同じ住所。
違う氏名。
似た電話番号。
同じ商品。
同じ日。
購入。
返品。
再購入。
ポイント。
動き。
不自然。
美咲。
通信。
『彩香さん』
「何?」
『見つけました』
「黒鷹?」
『はい』
一拍。
『……かなりセコいです』
彩香。
「分析結果に感想入れんでええ!」
美咲。
「でもセコいです」
彩香。
「知っとる!」
麻衣。
レジ。
総合フロント。
返品受付。
商品案内。
修理。
配送。
領収書。
ポイントカード。
全部。
こなす。
小柄。
童顔。
制服姿。
客。
「あら、高校生?」
麻衣。
笑顔。
「大学生です」
「そうなん?」
「はい」
少し。
傷つく。
でも。
接客。
崩さない。
麻衣。
得意。
人を見る。
声。
聞く。
混雑。
読む。
手早く。
丁寧。
一週間。
経つ。
完全。
戦力。
彩香。
モニター。
三人。
見る。
「なんやろな」
澪香。
今回は出ない。
玲奈。
「何がです?」
「この三人、潜入するたび就職適性見つけてくるんですよ」
「良いことです」
「NST辞めん程度にしてくださいよ」
そして。
ポイント五倍デー。
朝。
駐車場。
満車。
レジ。
列。
カート。
大量。
資材館。
職人。
DIY客。
園芸館。
家族連れ。
店内放送。
「本日は会員ポイント五倍――」
彩香。
バックヤード。
聞く。
「もう五倍って言葉嫌いやわ」
玲奈。
通信。
『集中してください』
「してます!」
美咲。
不正アカウント。
監視。
麻衣。
サービスカウンター。
待機。
あかり。
資材館。
完璧。
だった。
午後。
一台。
車。
駐車場。
入る。
数人。
大学生。
降りる。
その中。
小柄。
明るい。
ツインテール。
赤嶺美月。
彩香。
モニター。
見る。
無言。
数秒。
麻衣。
『彩香さん?』
彩香。
低い。
「また厄災来た……」
玲奈。
『赤嶺さんですか』
「はい」
『今日は何を?』
彩香。
資料。
確認。
「大学のサークル仲間と学園祭の資材買いに来たらしいです」
一拍。
「めちゃくちゃ健全です」
玲奈。
「なら問題ありません」
彩香。
「問題しか起こらん気がします」
美月。
元気。
カート。
押す。
「今日ポイント五倍やで!」
友人。
「大学の予算やろ?」
「大学の予算でもポイントはポイントや!」
「誰のポイント?」
美月。
止まる。
「……そこは後で考えよ」
友人。
「危ない発言すんな」
そして。
資材館。
「あ!」
美月。
発見。
あかり。
彩香。
即。
『あかり、見るな』
あかり。
「はい」
美月。
「あかりぃ!」
『見るな』
「あかりちゃーん!」
『絶対見るな』
三秒。
四秒。
五秒。
あかり。
振り向く。
「あ、美月さん」
彩香。
両手。
頭。
「また返事したぁ……!」
美月。
カート。
置く。
「何してんの?」
あかり。
「仕事やに」
「今度ホームセンターでアルバイト?」
「まあ、そんな感じやに」
美月。
妙に。
同情。
「大変やなぁ」
「何が?」
「戦隊ヒロインのギャラ安いしな」
彩香。
通信。
『相手にするな』
美月。
続く。
「大体けちのんがなぁ。イベント一日出ても交通費込みやったりするし」
あかり。
「そうなん?」
彩香。
「乗るな!」
美月。
「あれな、衣装着て長時間立って、写真撮って、笑顔作って――」
あかり。
「大変やな」
「分かる?」
「分かるに」
『生活相談始めんな!』
美月。
「ほんで学食も値上がりしとんねん」
あかり。
「うちも最近高いと思っとった」
『家計相談まで広げるな!』
友人。
苦笑。
「美月、買い物」
「あ、そうや」
美月。
ようやく。
目的。
戻る。
「学園祭で舞台みたいなん作るねんけど」
あかり。
店員。
顔。
なる。
「大きさどれぐらい?」
彩香。
嫌な予感。
『あかり』
「三メートルぐらい?」
美月。
「それぐらい」
「ほんなら合板、こっちの方がええに」
彩香。
『薦めんな!』
あかり。
棚。
案内。
「外で使うん?」
「うん」
「ほんなら塗料、耐候性ある方がええに」
友人。
「めっちゃ詳しい」
あかり。
嬉しい。
「何でも聞いてな」
彩香。
「何で接客モード全開なん!」
美月。
「土台どうする?」
あかり。
少し。
考える。
そして。
セメント。
指す。
「このセメントなんかええに」
美月。
「セメントまで使うん!?」
「重しにもなるし、ちゃんと組むなら便利やに」
友人。
「プロやん」
あかり。
「任せて」
彩香。
額。
机。
つける。
「潜入先で売上伸ばそうとすんな……」
その時。
美咲。
モニター。
見る。
黒鷹。
動く。
『彩香さん』
彩香。
即。
顔。
戻る。
「来た?」
『はい』
不正会員。
複数。
同時。
サービスカウンター。
返品処理。
内部協力者。
ログ。
改変。
麻衣。
通信。
『二番カウンター裏、男一人動きました』
彩香。
姿勢。
変わる。
さっきまで。
ぼやいていた。
同じ女。
見えない。
播州の烈火。
『麻衣、追って』
「了解」
『美咲ちゃん、履歴全部押さえて』
『はい』
『南側通路閉められる?』
『できます』
『やって』
「了解」
一瞬。
あかり。
モニター。
見る。
まだ。
美月。
セメント。
説明。
彩香。
息。
吐く。
「……あいつは放っとけ」
玲奈。
『よろしいんですか』
「今はこっちが先です」
玲奈。
「了解」
彩香。
切り替え。
完璧。
黒鷹。
サービスカウンター。
裏。
内部協力者。
端末。
操作。
履歴。
消去。
麻衣。
来る。
「何してるんです?」
男。
振り返る。
逃げる。
麻衣。
追う。
従業員通路。
バックヤード。
資材館。
巨大ラック。
木材。
脚立。
台車。
セメント。
工具。
障害物。
多い。
男。
振り返る。
麻衣。
小柄。
甘く。
見る。
腕。
掴もう。
伸ばす。
麻衣。
半歩。
横。
脚立。
すり抜ける。
男。
空振り。
麻衣。
二歩。
台車。
回る。
三歩。
木材ラック。
間。
潜る。
紀州の舞姫。
華麗。
軽い。
男。
追う。
追えない。
麻衣。
商品。
倒さない。
棚。
傷つけない。
相手。
動き。
利用。
一発。
肩。
一発。
腕。
さらに。
一人。
来る。
麻衣。
木材束。
脇。
滑る。
敵。
二人。
互い。
進路。
重なる。
そこ。
麻衣。
一撃。
適時。
重く。
入れる。
「何だこいつ!」
麻衣。
「店の商品壊さんといてください」
男。
「そこ気にするのか!」
「当たり前です!」
美咲。
事務管理室。
データ。
外部保存。
完了。
黒鷹。
一人。
入る。
「端末渡せ!」
美咲。
静か。
「嫌です」
「渡せ!」
男。
掴む。
美咲。
横。
一歩。
手首。
取る。
身体。
返す。
床。
二人目。
来る。
美咲。
事務ワゴン。
位置。
読む。
机。
壁。
狭い。
使う。
一発。
腹。
一発。
腕。
倒れる。
奈良の静かな女。
派手。
ない。
声。
上げない。
でも。
確実。
彩香。
通信。
『美咲ちゃん、北シャッター』
『閉めます』
巨大。
シャッター。
降りる。
逃げ道。
一つ。
消える。
その頃。
資材館。
あかり。
まだ。
美月。
相談。
「この木材やったら切ってもらえるに」
美月。
「ほんま?」
「あっちでカットサービスある」
友人。
「助かる!」
美月。
「あかり、店員向いとるな」
あかり。
「そう?」
通信。
怒鳴る。
『あかり!』
あかり。
「はい!」
『いつまで接客してんねん!』
「あ」
美月。
「何?」
「ちょっと仕事戻るに!」
美月。
「今まで仕事ちゃうかったん?」
あかり。
「仕事やったけど、もっと仕事!」
走る。
彩香。
『遅い!』
「ごめん!」
美月。
後ろ。
手。
振る。
「ありがとなー!」
あかり。
「学園祭頑張ってなー!」
彩香。
『別れの挨拶まで丁寧にすんな!』
資材館。
裏。
麻衣。
三人。
相手。
少し。
押される。
あかり。
飛び込む。
「麻衣!」
麻衣。
「あかり、遅い!」
「ごめん!」
一人。
あかり。
向かう。
真正面。
受ける。
押す。
一歩。
二歩。
男。
下がる。
二人目。
横。
あかり。
身体。
返す。
三人目。
隊形。
崩す。
四日市の突貫娘。
遅れてきた。
でも。
来たら。
流れ。
全部。
変える。
麻衣。
動ける。
美咲。
出口。
閉じる。
三人。
揃う。
紀伊ハンター。
麻衣。
華麗。
あかり。
突破。
美咲。
静か。
締める。
黒鷹。
資材。
囲まれ。
逃げる。
奥。
責任者。
外。
搬入口。
走る。
そこ。
彩香。
待つ。
腕。
組む。
男。
止まる。
「誰だ」
彩香。
「ポイント何倍やった?」
「……何?」
「今日」
一歩。
前。
「五倍やろ?」
男。
構える。
彩香。
目。
鋭い。
「国家転覆企んどる秘密結社が」
一歩。
「ポイント五倍デー狙うて」
さらに。
「洗剤と電動ドリルで錬金術」
男。
「黙れ!」
来る。
彩香。
かわす。
腕。
取る。
崩す。
二人目。
現れる。
彩香。
一歩。
踏む。
重い。
速い。
播州の烈火。
麻衣。
あかり。
美咲。
追いつく。
彩香。
完全。
戦闘。
入る。
一人。
正面。
打撃。
かわす。
返す。
二人目。
腕。
取る。
壁。
際。
追い込む。
黒鷹責任者。
後退。
彩香。
低い。
播州弁。
怖い。
「おどれらなぁ……」
責任者。
見る。
「元県知事とつるんで国家転覆やら、産業スパイやら、大層なこと抜かしといて」
一歩。
「やっとることポイント泥棒かい!」
男。
黙る。
彩香。
さらに。
「セコいねん!」
一歩。
「セコすぎるねん!」
責任者。
逃げようとする。
彩香。
回り込む。
「一ポイント二ポイント誤魔化して何が革命や!」
腕。
取る。
床。
叩き伏せる。
「お前ら、せこすぎるねん!」
迫力。
完全。
ヤクザ。
より。
怖い。
あかり。
小声。
「彩香さん怖いに」
麻衣。
「聞こえますよ」
美咲。
「もう聞こえてると思います」
彩香。
振り返る。
「何か言うたか?」
三人。
同時。
「何も」
その時。
サイレン。
県警特殊部隊。
一斉。
突入。
先頭。
岡本玲奈。
「そこまでです」
特殊部隊。
止まる。
見る。
黒鷹。
床。
壁際。
制圧。
データ。
美咲。
確保。
麻衣。
立つ。
あかり。
息。
整える。
彩香。
責任者。
押さえる。
玲奈。
一拍。
「……あらかた片付いていますね」
彩香。
肩。
すくめる。
「相手がセコすぎて、早よ終わりました」
玲奈。
「犯罪の規模と制圧時間に相関はありません」
彩香。
「あくまで真面目やなぁ……」
玲奈。
「任務ですから」
彩香。
少し。
笑う。
「分かってますよ」
その言葉。
今度。
本気。
だった。
黒鷹。
セコい。
でも。
仕事。
手抜かない。
それが。
西川彩香。
だった。
押収品。
県警。
机。
偽造会員カード。
大量。
返品伝票。
ポイント履歴。
電動工具。
バッテリー。
洗剤。
ティッシュ。
日用品。
彩香。
並ぶ。
証拠。
見る。
長い。
沈黙。
「……玲奈さん」
「はい」
「ほんまに黒鷹の押収品ですよね」
「ええ」
「何か生活感強ないです?」
玲奈。
「証拠品です」
彩香。
箱ティッシュ。
指。
「これまで黒鷹追ってきて、まさか箱ティッシュ押収するとは思わんかったわ」
玲奈。
「重要な証拠です」
「分かってます!」
後日。
ヒロ室西日本分室。
あかり。
彩香。
前。
立つ。
彩香。
腕。
組む。
「あかり」
「はい」
「何遍言えば分かるねん」
「はい」
「任務中」
人差し指。
立てる。
「アホツインテール見ても無視!」
もう一本。
「徹底無視!」
あかり。
少し。
口。
尖らす。
「でも美月さん、学園祭で使う資材で困っとったんやに」
彩香。
「そんなモンより任務に集中せえ!」
「でもな」
「まだあるんか!」
あかり。
四日市訛り。
のんびり。
「美月さん、うちの説明、よう分かるって言うてくれたんやに。いっぱい買うてくれたし、ポイント五倍もえらい喜んどったに」
彩香。
額。
押さえる。
「販売実績の報告ちゃうねん!」
麻衣。
横。
「実際、客単価はかなり高かったみたいですよ」
彩香。
「麻衣まで援護すんな!」
美咲。
「資材館の責任者さんからも接客を褒められてました」
彩香。
「任務中に接客評価上げるな!」
あかり。
少し。
嬉しい。
「正式採用の話もされたに」
彩香。
「また転職しかけとるやないか!」
分室。
笑う。
彩香。
椅子。
座る。
一口。
コーヒー。
飲む。
静か。
麻衣。
美咲。
顔。
見る。
始まる。
彩香。
低く。
「あのアホツインテール……」
あかり。
「美月さん?」
「エエ加減にせえよ」
麻衣。
笑い。
こらえる。
彩香。
指。
折る。
「学園祭」
一本。
「合板」
二本。
「塗料」
三本。
「セメント」
四本。
「ポイント五倍」
五本。
「何で黒鷹のポイント詐欺追っとる横で、あいつだけ健全にポイント五倍満喫しとんねん!」
麻衣。
「それは別に悪くないでしょう」
「分かっとる!」
彩香。
急に。
顔。
悪くなる。
「決めた」
美咲。
「また意味ない罰ですか」
彩香。
「まだ言うてへん!」
麻衣。
「何するんです?」
彩香。
「次あのアホツインテールが任務邪魔したら、加古川の河川敷でポイントカード五千枚、きっちり五枚ずつ束ねさせたるわ!」
麻衣。
一瞬。
考える。
そして。
意外。
乗る。
「それええですね」
彩香。
「せやろ!」
麻衣。
「五倍デーだけに五枚ずつ」
「分かっとるやん!」
美咲。
二人。
見る。
大和弁。
静か。
「それ、何ぞ意味ありますの?」
彩香。
即。
「ないわ〜!」
麻衣。
「ないんですか!」
彩香。
「何っちゃ意味あらへんわ!」
あかり。
笑う。
「五千枚用意する方が大変やに」
美咲。
「しかも河川敷やったら風で飛びますえ」
彩香。
「飛んだら最初から!」
麻衣。
「それええですね!」
美咲。
「麻衣まで完全に彩香さん側ですやん」
彩香。
さらに。
「五枚ずつ百束作らせて――」
麻衣。
止まる。
「彩香さん」
「何や」
「五千枚を五枚ずつなら千束です」
一瞬。
静か。
あかり。
「算数も五倍に間違えたに」
彩香。
「うるさい!」
その時。
少し離れた机。
玲奈。
報告書。
読む。
冷たい。
整った。
横顔。
口元。
ほんの。
僅か。
緩む。
彩香。
即。
見る。
「玲奈さん」
「はい」
「今、笑いました?」
「いいえ」
麻衣。
「笑ってました」
あかり。
「見たに」
美咲。
「私も見ましたえ」
玲奈。
視線。
報告書。
戻す。
一拍。
「……気のせいです」
彩香。
「任務に大小はない言うた人が一番笑っとるやないですか!」
玲奈。
「笑っていません」
でも。
口元。
まだ。
少し。
緩んでいた。
黒鷹。
国家転覆。
産業スパイ。
政治工作。
兵器技術。
そして。
ポイント五倍。
悪には。
大小。
ない。
犯罪にも。
格。
ない。
玲奈の言葉。
正しい。
だから。
彩香も。
本番。
決して。
手。
抜かなかった。
黒鷹が。
一ポイントを。
盗む。
なら。
一ポイントたりとも。
渡さない。
それが。
NST。
だった。
ただ。
西川彩香は。
この先。
何年経っても。
この事件を思い出すたび。
たぶん。
最初に。
同じ一言を。
吐く。
「……セコっ!」
と。




