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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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411/415

白球の向こうに、黒鷹の土地がある ――尼崎・巨大ゴルフレンジ、迫田澄香「美人レッスンプロ」の十八番

尼崎の土地には、値札が付いている。


大阪と神戸の間。


高速道路。


幹線道路。


工業地帯。


物流施設。


住宅地。


その全部が、狭い市域の中で隣り合っている。


車を少し走らせれば大阪。


反対へ行けば西宮、神戸。


南へ下れば臨海部。


北へ上がれば住宅街。


企業にとっては、人も物も動かしやすい。


だから。


尼崎で広く、平坦で、まとまった土地は貴重だった。


倉庫を建てられる。


物流センターを置ける。


データセンターにもできる。


商業施設にも転用できる。


それが都市の中に何万平方メートルも残っていれば、不動産屋が放っておくはずがない。


黒鷹も。


例外ではなかった。


尼崎市東部。


幹線道路から少し入った一角。


巨大な防球ネット。


その向こう。


白球が空へ飛ぶ。


尼崎ベイフロント・ゴルフレンジ。


開業四十余年。


二階建て。


百二十打席。


二百四十ヤード級のレンジ。


バンカー。


アプローチ。


パッティンググリーン。


ゴルフショップ。


スクール。


決して新しい施設ではない。


だが。


朝。


仕事前。


クラブを振る会社員。


午後。


近所の常連。


夕方。


初心者スクール。


夜。


仕事帰り。


何十年も。


尼崎の日常の中にあった。


問題は。


黒鷹にとって。


その土地が。


あまりにも。


広すぎたことだった。


黒鷹系列のダミー不動産会社が目を付ける。


まとまった土地。


高速道路へ近い。


大型車両を入れられる。


周辺に工業・物流機能。


買えば。


高い。


なら。


安くすればいい。


黒鷹は。


練習場を潰すことにした。


設備不良の噂。


防球ネットの安全性に関する虚偽情報。


利用者事故を装った工作。


SNS。


匿名投稿。


取引銀行へ経営不安を煽る資料。


少しずつ。


客足。


落とす。


修繕費。


膨らませる。


金融機関。


慎重にさせる。


資金繰り。


悪化。


最後。


黒鷹系不動産会社。


現れる。


「今なら、この値段で引き取れますよ」


そして。


土地。


買う。


レンジ。


潰す。


大型物流センター。


データセンター。


建てる。


ただの。


地上げ。


県警本部。


会議室。


玲奈。


資料。


置く。


「目的は土地です」


彩香。


腕。


組む。


「客減らして、事故まで仕込んで、弱ったところ買い叩くんか」


「ええ」


「しょうもな」


一言。


冷たい。


「正面から買えんから、店潰して値段落とす。セコすぎるやろ」


玲奈。


「ただ、内部に協力者がいます」


画面。


変わる。


運営会社。


幹部。


設備担当。


取引先。


複数。


「こちらも押さえます」


彩香。


「潜入は?」


玲奈。


迫田澄香。


見る。


「中心は澄香」


澄香。


少し。


首。


傾げる。


「私?」


彩香。


「ゴルフや」


「ああ」


迫田姉妹。


宮崎県都城市。


大規模酪農家。


父。


ゴルフ好き。


娘。


澪香。


澄香。


幼い頃から。


父。


一緒。


ラウンド。


かなり。


経験。


競技選手。


ではない。


だが。


普通に。


上手い。


そして。


澄香。


教える。


向いていた。


玲奈。


「初心者向けスクールの臨時レッスンプロとして入ってください」


「分かりました」


彩香。


「澪香ちゃんはウチとバックヤード」


澪香。


「了解」


「麻衣はフロント」


麻衣。


「はい」


「あかりは館内清掃、ボール回収、施設運営」


あかり。


「はい!」


彩香。


見る。


「返事だけは元気やな」


「何それ」


「何でもない」


潜入。


三日目。


迫田澄香。


すでに。


施設。


ちょっとした。


有名人。


白いポロシャツ。


上品なミニスカート型ゴルフウェア。


キャップ。


長身。


長い脚。


すらり。


姿勢。


良い。


クラブ。


持つ。


まるで。


ゴルフブランドの広告。


客。


見る。


スタッフ。


見る。


新規スクール生。


一瞬。


緊張。


「先生、モデルさんですか?」


澄香。


「違います」


「ほんまに?」


「実家は酪農です」


「……牛?」


「はい」


そこから。


レッスン。


始まる。


見た目。


以上。


中身。


すごい。


初心者。


右へ。


曲がる。


澄香。


一球。


見る。


「少しだけ直しましょう」


「何個?」


「一個だけ」


「それだけで?」


「一気に全部直したら分からなくなるので」


トップ。


大きい。


切り返し。


急ぐ。


身体。


開く。


そこ。


見る。


「クラブを下ろそうとしすぎています」


「どうすれば?」


「胸が戻るのを少し待ってください」


打つ。


真っすぐ。


近づく。


「おお」


澄香。


「今です」


別。


ダフる。


「球を上げようとしない」


「上げなくていいんですか?」


「クラブが上げてくれます」


簡潔。


的確。


怒らない。


説明。


難しくしない。


そして。


褒める。


「今の良かったです」


「ほんま?」


「はい。さっきと全然違います」


だから。


初心者。


続く。


受付。


「迫田先生今日いる?」


「次も迫田先生で」


「説明めっちゃ分かりやすかった」


バックヤード。


彩香。


モニター。


見る。


横。


澪香。


「人気だね」


彩香。


「潜入して人気レッスンプロになってどうすんねん」


「澄香、教えるの向いてるんだ」


「向きすぎや」


フロント。


麻衣。


受付。


小柄。


童顔。


制服。


客。


「学生バイト?」


麻衣。


少し。


笑顔。


「大学生です」


「やっぱり」


「……はい」


少し。


複雑。


でも。


仕事。


完璧。


予約。


精算。


スクール。


打席。


全部。


処理。


一方。


あかり。


清掃。


マット。


ボールかご。


備品。


ごみ。


館内。


よく働く。


そして。


午後。


駐車場。


一台。


車。


入る。


彩香。


監視。


見る。


助手席。


明るい。


ツインテール。


小柄。


彩香。


目。


閉じる。


澪香。


「あ」


「言うな」


「美月さん」


彩香。


深い。


ため息。


「……厄災や」


赤嶺美月。


大学。


友人。


二人。


一緒。


先日。


初。


コースデビュー。


スコア。


誰も。


聞かない。


方が。


いい。


なのに。


服装。


完璧。


明るい色調。


ミニスカート型ゴルフウェア。


サンバイザー。


シューズ。


グローブ。


小柄。


似合う。


本人。


胸。


張る。


友人。


「見た目は上手そう」


美月。


「何でもカタチから入るんが大事やねん!」


「スコアは?」


「聞くな」


「百いくつ?」


「国家機密や」


本当の国家機密。


知らない。


自分の。


スコア。


国家機密。


そして。


ゴルフバッグ。


さらに。


問題。


美月。


入口。


入る。


いきなり。


麻衣。


見つける。


「あーっ! 麻衣!」


麻衣。


嫌な予感。


美月。


満面。


笑顔。


ゴルフバッグ。


どん。


カウンター。


横。


置く。


「見て!」


麻衣。


「何ですか」


「これ!」


バッグ。


開く。


高級アイアン。


きらり。


「どう?」


「アイアンですね」


「そこちゃう!」


「何がですか」


「高級!」


「そうですか」


「めっちゃ高級!」


「ご予約のお名前をお願いします」


美月。


不満。


「待って待って」


一本。


抜く。


「ほら!」


麻衣。


「はい」


「このヘッド!」


「はい」


「このシャフト!」


「はい」


「このマーク!」


「はい」


「もっと食いついて!」


麻衣。


「次のお客様がおりますので」


美月。


「冷たっ!」


バッグ。


指。


「これな!」


麻衣。


もう。


予約画面。


見る。


「はい」


「クイズ番組の賞品で当てたんやで!」


「よかったですね」


「普通に買ったらめっちゃ高いねん!」


「はい」


「値段聞きたい?」


「特に」


美月。


ショック。


彩香。


通信。


『麻衣、そのまま塩でいけ』


麻衣。


小声。


『了解です』


美月。


「麻衣、ゴルフの価値分からんな?」


麻衣。


「予約のお名前お願いします」


完敗。


五分後。


美月。


次。


獲物。


発見。


清掃中。


あかり。


「あかりぃ〜!」


彩香。


即。


『あかり、相手にするな』


あかり。


「はい」


美月。


走る。


「あかり!」


無視。


「あかりちゃん!」


無視。


「見てこれ!」


バッグ。


開く。


あかり。


ちら。


「何?」


彩香。


『あかり!』


美月。


一本。


出す。


「どう!?」


あかり。


目。


輝く。


「おおっ! 格好ええに!」


彩香。


椅子。


背。


もたれる。


「……乗った」


美月。


一気。


嬉しく。


「やろ!?」


あかり。


「ピカピカやん!」


「せやねん!」


「新品?」


「新品!」


「ええなぁ」


「クイズ番組で当てた!」


「すごいやん!」


美月。


止まらない。


「しかもな」


もう一本。


「これ5番!」


あかり。


「へえ!」


「これ7番!」


「おお!」


「これ9番!」


「見たら数字書いてあるな!」


「そこちゃんと見て!」


彩香。


『何で二人してアイアン一本ずつ鑑賞してんねん!』


聞こえない。


美月。


「これな、普通に買うたらな」


声。


少し。


下げる。


「あかり、なんぼすると思う?」


あかり。


「十万?」


美月。


「もっと!」


「二十万?」


美月。


ニヤ。


「もうちょい!」


彩香。


『値段当てクイズ始めんな!』


あかり。


「三十万?」


美月。


「近い!」


「あ、すご!」


美月。


得意。


「やろ!?」


クラブ。


持たせる。


「持ってみ」


あかり。


「ええの?」


「ええよ。優しくな」


「軽いに」


「そうやろ?」


「私のスコップより軽い」


美月。


「比べるな!」


二人。


笑う。


あかり。


「でもほんま格好ええな」


美月。


完全。


満足。


彩香。


通信。


『あかり!』


ようやく。


「はい?」


『掃除戻れ!』


「あ」


美月。


「あと一本だけ見て」


彩香。


『あと一本もない!』


あかり。


「美月さん、また後でな」


『“また後で”もいらん!』


美月。


「やっぱあかりは分かるわぁ」


彩香。


頭。


抱える。


「何を分かっとんねん……」


澪香。


横。


肩。


揺れる。


「笑うな!」


彩香。


予約表。


確認。


その瞬間。


固まる。


初心者グループレッスン。


担当。


迫田澄香。


受講者。


赤嶺美月。


ほか二名。


彩香。


「……」


澪香。


覗く。


「……あ」


彩香。


目。


閉じる。


「今日なんか悪いことしたかな、ウチ」


十三時五十分。


澄香。


打席。


待つ。


美月。


友人。


来る。


「あっ! 澄香さん!」


澄香。


「こんにちは、美月」


美月。


一秒。


待たない。


バッグ。


開く。


「見てこれ!」


彩香。


バックヤード。


即。


「もうあいつのアイアンセット自慢聞き飽きたわ!」


澄香。


クラブ。


見る。


「いいクラブだね」


美月。


満面。


「やろ!?」


「じゃあ」


澄香。


さらり。


「そのいいクラブでちゃんと打てるようになろうか」


美月。


「……はい」


彩香。


思わず。


「強っ」


レッスン。


始まる。


美月。


アドレス。


姿勢。


見た目。


そこそこ。


動画。


雑誌。


真似。


している。


本人。


形。


好き。


素振り。


なかなか。


それっぽい。


美月。


「どう?」


澄香。


「見た目はいいよ」


「やろ!」


「打ってみて」


「はい!」


振る。


球。


右。


大きい。


次。


右。


さらに。


右。


友人。


笑う。


「見た目だけやん!」


美月。


「うるさい!」


三球目。


右。


澄香。


静か。


「美月」


「はい」


「一回やめよ」


美月。


クラブ。


止める。


澄香。


友人。


違う。


同じ大学。


同級生。


プライベート。


友人。


でも。


今。


レッスン生。


「まずクラブ」


美月。


また。


目。


輝く。


「これ高い――」


澄香。


「値段の話は今はいらない」


美月。


「……はい」


バックヤード。


彩香。


思わず。


机。


軽く。


叩く。


「よう言うた!」


澄香。


美月。


手。


見る。


「少し短く持とう」


「何で?」


「美月は小柄だから。今のままグリップエンドぎりぎりまで持つと、クラブが長く感じて操作しにくい」


美月。


いつもなら。


「でもプロは長く持っとるやん」


とか。


「長く持った方が遠心力で飛ぶんちゃう?」


とか。


屁理屈。


言う。


はず。


なのに。


澄香。


言葉。


続く。


「飛ばすより、まず真ん中に当てる方が先」


美月。


「……はい」


彩香。


モニター。


見る。


「素直やな、今日」


澪香。


「先生だからじゃない?」


彩香。


「ウチら相手にもそれやれや」


澄香。


グリップ。


位置。


指。


「ここ」


「これぐらい?」


「うん」


「短く持ったら飛距離落ちへん?」


やっぱり。


少し。


屁理屈。


出る。


澄香。


即。


「今は飛距離より曲がらない方が大事」


「……はい」


また。


黙る。


彩香。


「負けとる」


次。


トップ。


「美月、大きく上げすぎ」


「大きい方がパワー溜まるやん」


「美月はそこまで身体大きくないから、無理に大きくすると軸が動く」


「……はい」


また。


従う。


澄香。


続ける。


「それと、切り返しが早い」


「速く振った方が飛ぶ――」


澄香。


一言。


「今右に曲がってるよね」


美月。


「……はい」


完全。


沈黙。


バックヤード。


彩香。


「なんやあいつ」


麻衣。


通信。


聞きながら。


「いつもの屁理屈どこ行ったんでしょうね」


彩香。


「澄香ちゃんに全部封じられとる」


澄香。


美月。


真正面。


立たない。


斜め後方。


見る。


「トップで一瞬だけ急がない」


「はい」


「腕でクラブを下ろそうとしない」


「はい」


「左へ体重移しながら、胸が先に開かないように」


「はい」


「で、今は二個だけ意識」


美月。


「どれ?」


「短く持つ。トップを欲張らない」


「二個やん」


「美月は一個だけだと途中で違うこと始めるから」


友人。


大爆笑。


美月。


「ひどっ!」


澄香。


少し。


笑う。


「でも当たるよ」


美月。


構える。


打つ。


右。


だが。


曲がり。


半分。


美月。


「おお?」


澄香。


「今の方がいい」


もう一球。


「トップ小さく」


「はい」


打つ。


右。


少し。


澄香。


「もっと力抜いて」


「力抜いたら飛ばへん」


「飛ばなくていい」


「……はい」


また。


従う。


あかり。


裏。


通信。


聞いて。


小声。


「美月さんめっちゃ素直やに」


麻衣。


「普段からそれぐらい素直ならなぁ」


彩香。


「ほんまそれや」


美月。


次。


打つ。


音。


変わる。


芯。


近い。


球。


高く。


前。


右。


ほぼ。


曲がらない。


美月。


固まる。


友人。


「おお!」


澄香。


「今の」


美月。


振り向く。


目。


丸い。


「真っすぐ行った!」


「うん」


「澄香さん!」


「はい」


「真っすぐ行った!」


「見てたよ」


「真っすぐ!」


「先生だから見てるよ」


美月。


クラブ。


持ったまま。


跳ねる。


「うわあああ! 澄香さん天才や! 真っすぐ飛んだぁぁぁ!」


周囲。


見る。


彩香。


顔。


しかめる。


「声でかいねん!」


美月。


友人。


「見た!?」


「見た!」


「今の動画撮った!?」


「撮ってへん!」


「何でや!」


澄香。


「美月」


「はい!」


「次も同じことできたら本物」


美月。


即。


「はい先生!」


彩香。


「なんやあの従順さ!」


麻衣。


「先生には弱いんですね」


彩香。


「学生生活でもその素直さ出せや!」


美月。


大騒ぎ。


周囲。


人。


見る。


「あれ?」


「あの子、テレビ出てる子ちゃう?」


「戦隊ヒロインの?」


「赤嶺美月?」


絶妙。


知名度。


大スター。


違う。


でも。


どこかで。


見た。


微妙な。


人気者。


客。


数人。


集まる。


「美月ちゃん?」


美月。


「あ、どうも〜!」


手。


振る。


彩香。


「振るな……」


写真。


頼まれる。


美月。


ゴルフクラブ。


持つ。


「今日ゴルフ練習してます!」


別。


「めっちゃ上手いん?」


美月。


胸。


張る。


「今、急激に成長中です!」


友人。


「さっきまで右しか行ってへんかったやん!」


美月。


「過去の話や!」


澄香。


静か。


「美月」


「はい?」


「次あなたの番」


「はい先生!」


周囲。


笑う。


澄香。


一切。


芸能人的。


扱い。


しない。


同級生。


友人。


でも。


今日は。


生徒。


「構えて」


「はい」


「短く持って」


「はい」


「トップ欲張らない」


「はい!」


彩香。


監視。


見る。


表。


客。


美月。


集中。


監視役。


黒鷹。


注意。


少し。


そちら。


流れる。


彩香。


目。


変わる。


「使えるな」


澪香。


「このまま?」


「うん」


通信。


『澄香ちゃん』


『はい』


『そのまま美月のレッスン続けて』


『了解』


「騒ぎ抑えんでもええ」


『分かった』


「表は任せる」


澄香。


美月。


見る。


「次、7番にしようか」


美月。


「はい先生!」


彩香。


小さく。


「ほんま素直やな今日……」


黒鷹。


動く。


表。


人。


集まる。


その裏。


管理棟。


男。


二人。


重要書類。


持つ。


設備室。


別。


工作員。


事故偽装。


準備。


彩香。


モニター。


見る。


表情。


変わる。


「来よった」


播州の烈火。


通信。


『麻衣』


「はい」


『東管理通路。二人』


「了解」


『あかり』


「はい!」


『裏ヤード。三人』


「分かった!」


『今度は美月に捕まんなよ』


「もう行っとる!」


『返事終わる前に走るな!』


麻衣。


裏。


入る。


二人。


ケース。


持つ。


「止まってください」


男。


小柄。


麻衣。


見て。


舐める。


「どけ」


「嫌です」


掴む。


麻衣。


半歩。


横。


一歩。


二歩。


三歩。


狭い。


通路。


身体。


小さい。


強い。


腕。


取る。


方向。


変える。


一人。


床。


二人目。


振る。


麻衣。


低く。


抜ける。


背後。


回る。


紀州の舞姫。


「フロントの女じゃないのか!」


麻衣。


静か。


「今日はそういう設定です」


裏ヤード。


あかり。


三人。


前。


「止まるに!」


男。


「どけ!」


あかり。


「嫌や!」


一人。


突進。


受ける。


押す。


四日市の突貫娘。


二人目。


横。


身体。


返す。


三人目。


搬送カート。


蹴る。


あかり。


受け止める。


「それ練習場のもんやに!」


「知るか!」


「私は知っとる!」


力。


前。


一人。


後退。


流れ。


壊れる。


四日市の突貫娘。


入る。


それだけ。


戦場。


変わる。


彩香。


モニター。


敵。


増える。


隣。


澪香。


静か。


待つ。


彩香。


「澪香ちゃん」


「はい」


「出番や」


「了解」


澪香。


走る。


長身。


長い脚。


一歩。


大きい。


麻衣。


追う。


黒鷹。


一人。


横。


澪香。


入る。


腕。


長い。


先。


制する。


男。


攻撃。


届かない。


澪香。


身体。


回る。


長い脚。


進路。


塞ぐ。


優雅。


華やか。


でも。


火力。


ある。


一人。


壁。


際。


押される。


麻衣。


横。


入る。


連携。


男。


床。


麻衣。


「澪香さん、見た目よりだいぶ重いですね」


澪香。


「牛相手に育ったから」


麻衣。


「毎回それ説得力強すぎます」


黒鷹。


責任者。


逃走車。


向かう。


彩香。


とうとう。


現場。


出る。


男。


見る。


「指揮官まで来たか」


彩香。


袖。


直す。


「悪いな」


目。


鋭い。


「ウチ、後ろで見とるだけの性格ちゃうねん」


一人。


来る。


彩香。


外す。


腕。


取る。


崩す。


二人目。


麻衣。


右。


あかり。


正面。


澪香。


左。


彩香。


中央。


播州の烈火。


黒鷹責任者。


叫ぶ。


「この土地はいずれ売るしかない!」


彩香。


止まる。


「あ?」


「客は減る! 銀行も手を引く!」


彩香。


一歩。


前。


「客減らしたん誰や」


男。


「……」


「事故仕込んだん誰や」


さらに。


「噂流したん誰や」


男。


来る。


彩香。


かわす。


腕。


取る。


一気。


地面。


「人んとこの商売潰して安う買い叩くんはな――地上げやのうて、ただの泥棒や!」


決まる。


責任者。


倒れる。


その直後。


サイレン。


県警特殊部隊。


突入。


先頭。


岡本玲奈。


「そこまでです」


特殊部隊員。


一瞬。


止まる。


見る。


黒鷹。


ほぼ。


制圧済み。


彩香。


立つ。


麻衣。


息。


整える。


あかり。


まだ。


やる気。


澪香。


平然。


玲奈。


口元。


ほんの。


少し。


緩む。


「……あらかた終わっていますね」


彩香。


肩。


すくめる。


「ちょっと早よ片付いてもうた」


その頃。


表。


美月。


何も。


知らない。


「先生、今のどう!?」


澄香。


「さっきより力入ってる」


「え?」


「人に見られてるから格好つけたでしょう」


美月。


「……分かる?」


「分かるよ」


「格好良く打ちたいねん」


澄香。


少し。


笑う。


「格好良く打とうとしない方が格好良くなるよ」


美月。


「深い!」


「普通の話」


「先生、次!」


「はい。7番アイアン」


美月。


高級アイアン。


出す。


「これな、高い――」


澄香。


一言。


「値段はもう聞いた」


美月。


「……はい」


友人。


爆笑。


裏。


黒鷹。


壊滅。


表。


レッスン。


平常運転。


数日後。


地上げ計画。


完全。


阻止。


ダミー不動産会社。


設備事故工作。


信用毀損。


内部協力者。


全部。


立証。


尼崎ベイフロント・ゴルフレンジ。


残る。


運営会社。


県警。


NST。


大いに。


感謝。


そして。


別。


問題。


発生。


フロント。


問い合わせ。


殺到。


「迫田先生、次いつです?」


「また教えてほしい」


「初心者にはめっちゃ分かりやすかった」


「フォーム一個直しただけで当たるようになった」


運営会社。


澄香。


本気。


スカウト。


「正式にレッスンプロとして来てもらえませんか?」


澄香。


困る。


「本業がありますので……」


彩香。


横。


「また職業増えかけとる……」


澪香。


「澄香、向いてるもんね」


彩香。


「向きすぎや」


後日。


ヒロ室西日本分室。


彩香。


椅子。


座る。


コーヒー。


飲む。


静か。


麻衣。


「あの……」


彩香。


「何や」


「まだ美月さんのこと怒ってます?」


彩香。


一拍。


「あのアホツインテール、エエ加減にせえよ」


あかり。


吹き出す。


「始まったに」


彩香。


指。


一本。


「麻衣にアイアン自慢」


二本。


「あかりにアイアン自慢」


三本。


「澄香ちゃんにアイアン自慢」


四本。


「友達に自慢」


五本。


「客にも聞こえる声で自慢」


さらに。


六本目。


「ウチは通信越しに三回聞かされた!」


麻衣。


「それはお気の毒です」


彩香。


「一生分聞いたわ!」


澄香。


穏やか。


「あのクラブ自体はいいクラブだったよ」


彩香。


即。


「そこは否定してへん!」


澪香。


「綺麗だった」


「それも知っとる!」


あかり。


「格好良かったに」


「お前は黙っとけ! 最初に乗ったんお前や!」


あかり。


「だって嬉しそうやったし」


彩香。


「嬉しそうやったら何でも付き合うんか!」


麻衣。


「彩香さん、でも美月さんの球筋、かなり良くなったんでしょう?」


彩香。


澄香。


指。


「それは澄香ちゃんが優秀すぎんねん!」


澄香。


「美月もちゃんと聞いてたよ」


彩香。


机。


軽く。


叩く。


「そこが一番腹立つ!」


全員。


「?」


彩香。


「普段ウチが何言うても『でもな』『せやけどな』『それって効率悪ない?』とか屁理屈こねるやろ!」


あかり。


「言うな」


麻衣。


「言いますね」


彩香。


「澄香ちゃん相手やったら!」


突然。


美月。


物真似。


高い声。


「『はい先生!』」


一同。


笑う。


彩香。


「短く持って」


美月風。


「『はい先生!』」


「トップ小さく」


「『はい先生!』」


「飛距離より真っすぐ」


「『はい先生!』」


彩香。


両手。


広げる。


「何でやねん!」


麻衣。


笑う。


「先生やからでしょうね」


彩香。


「ウチも次から先生言わせたろかな」


あかり。


「彩香先生?」


彩香。


「やめろ。余計腹立つ」


澄香。


少し。


笑う。


「でも、美月は教えやすかったよ」


彩香。


「ほんま?」


「言ったことすぐ試すし」


麻衣。


「別人ですね」


あかり。


「ゴルフだけ素直なんやに」


彩香。


「せやから余計腹立つ言うとんねん!」


一拍。


彩香。


コーヒー。


置く。


目。


据わる。


麻衣。


嫌な予感。


「……何か考えてます?」


彩香。


「決めた」


あかり。


「何を?」


彩香。


「今度あのアホツインテールが任務邪魔したらな」


一同。


見る。


「例の身分不相応な高級アイアン全部使わせて」


澄香。


「全部?」


「全部や」


「3番からPWまで、一球ごとに番手変えて百球!」


麻衣。


「普通の練習では?」


彩香。


「まだある!」


「はい」


「打つ前に毎回、『この番手で何ヤード飛ばして、どこに落として、ラン何ヤード』って宣言!」


あかり。


「初心者に無理やに」


「無理やからやらすんや!」


澄香。


「ゴルフ嫌いになると思う」


彩香。


「さらに!」


麻衣。


「まだあるんですか」


彩香。


「一球でも右曲がったら最初から!」


全員。


「ええ……」


麻衣。


少し。


考える。


「それって意味ありますか?」


彩香。


即。


「あるわ!」


「何の?」


彩香。


胸。


張る。


「アイアンへの感謝や!」


沈黙。


麻衣。


「……感謝?」


あかり。


「何やに、それ」


澪香。


「新しいゴルフ理論?」


澄香。


真面目。


「聞いたことない」


彩香。


一瞬。


黙る。


そして。


勢い。


「今ウチが作ったんや!」


麻衣。


「やっぱり意味ないやないですか!」


彩香。


「ある!」


「どこが!」


「高いクラブ持っとんねやから、一本一本に敬意払えっちゅう話や!」


あかり。


「道具を大事にするんはええことやに」


彩香。


「ほら意味ある!」


麻衣。


「そこだけですよ!」


澪香。


「でも美月さんなら」


全員。


見る。


「途中から『全部成功したら何もらえるん?』って聞きそう」


彩香。


固まる。


澄香。


「聞くね」


あかり。


「絶対聞くに」


麻衣。


「高級ボールくださいとか言いそうです」


彩香。


眉間。


寄る。


「……あのアホツインテール……」


あかり。


「罰がご褒美になるに」


彩香。


「ほな百球成功したら何もやらん!」


麻衣。


「それ罰として成立するんですか?」


彩香。


「知らん!」


分室。


大笑い。


その少し。


離れた机。


玲奈。


報告書。


読む。


口元。


ほんの。


僅か。


緩む。


彩香。


即。


見る。


「玲奈さん」


「はい」


「今、笑いました?」


「いいえ」


麻衣。


「笑ってました」


あかり。


「私も見たに」


澪香。


「見た」


澄香。


「私も」


玲奈。


四方向。


包囲。


一拍。


「……気のせいです」


彩香。


「無理あるやろ!」


さらに。


電話。


鳴る。


麻衣。


取る。


「はい、ヒロ室西日本分室です」


少し。


聞く。


澄香。


見る。


「澄香さん」


「何?」


「尼崎ベイフロント・ゴルフレンジさんからです」


彩香。


嫌な予感。


麻衣。


続ける。


「初心者スクールの問い合わせがまた増えたので、月二回だけでもお願いできないかって」


澄香。


困った笑顔。


「どうしよう」


彩香。


両手。


頭。


「もう正式にレッスンプロになってまうやん!」


あかり。


「人気やに」


麻衣。


「評判かなりいいそうです」


澪香。


「向いてるから」


澄香。


少し。


照れる。


彩香。


深い。


ため息。


「NST、何で潜入するたび転職先増えるんや……」


玲奈。


また。


口元。


微か。


緩む。


彩香。


即。


「玲奈さん!」


今度。


玲奈。


何も。


答えない。


ただ。


ほんの少しだけ。


笑っていた。


尼崎のゴルフレンジでは。


その頃も。


白球が。


一球。


また一球。


青空へ。


飛んでいた。


黒鷹が狙ったのは。


その白球の向こうにある。


土地。


だった。


でも。


土地。


だけ。


違う。


そこには。


毎朝。


クラブ。


振る。


人。


初心者。


初めて。


芯。


当たる。


喜ぶ。


人。


何十年。


通う。


常連。


いる。


高級アイアンを。


やたら。


自慢する。


初心者まで。


いる。


そんな場所。


札束。


一枚。


値段。


決められない。


尼崎ベイフロント・ゴルフレンジ。


今日も。


営業中。


そして。


迫田澄香。


美人レッスンプロ。


次回予約。


また。


埋まり始めていた。

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