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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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405/415

滑走路の灯が消える前に ――神戸沖・海上空港、「存在しない航空貨物」を追え

空港には、二種類の人間がいる。


旅立つ人間と。


旅立たせる人間だ。


午前六時。


ターミナルでは、まだ眠そうな乗客がキャリーケースを引いている。


出張へ向かう会社員。


旅行へ出る家族。


小さな子供が、窓の向こうの旅客機を指差している。


搭乗案内。


保安検査。


コーヒーの香り。


旅の始まり。


だが。


同じ空港の。


壁一枚向こう。


そこには。


観光客がほとんど目にすることのない世界がある。


貨物。


給油。


整備。


搬送。


牽引。


手荷物。


航空機を飛ばすために必要な仕事が、迷路のように組み合わさっている。


場所は。


神戸沖。


海の上に造られた空港。


滑走路の両側は海。


夜になれば。


暗い水面の中央へ。


赤。


青。


白。


無数の航空灯火が浮かび上がる。


まるで。


海の上へ一本だけ。


光の道を敷いたように。


風が強い夜。


誘導路の青い灯が揺らいで見える。


貨物地区では。


旅客ターミナルの喧騒とは無縁に。


フォークリフトが動く。


貨物牽引車が走る。


航空貨物コンテナが。


次々と航空機へ運ばれていく。


空港は。


眠らない。


そして。


空港ほど。


一つの荷物に。


厳しい場所もない。


送り主。


重量。


行先。


便名。


内容。


危険物。


搬入時刻。


検査。


搭載位置。


全て。


記録される。


本来なら。


存在しない荷物など、一個たりとも飛行機へ載せられない。


だからこそ。


兵庫県警が見つけたデータは。


異常だった。


貨物番号。


ある。


重量。


ある。


目的地。


ある。


搭載便。


ある。


だが。


送り主が。


いない。


発地が。


ない。


正規の搬入記録も。


ない。


データだけが。


途中から。


突然現れる。


一週間に。


一つ。


毎回。


違う海外便。


正体不明。


兵庫県警内部では。


それを。


こう呼んでいた。


幽霊貨物。


だが。


幽霊などではない。


黒鷹だった。


小型暗号通信装置。


輸出規制対象になり得る高性能精密部品。


企業から盗まれた研究データ。


それらを。


正規航空貨物の中へ紛れ込ませる。


航空機へ。


載せる。


飛ばす。


数時間後。


国外。


海上輸送より。


はるかに速い。


物流量は。


膨大。


一個の不正貨物など。


巨大な空港の流れへ。


溶けてしまう。


黒鷹は。


空を。


逃走路にしようとしていた。


だが。


その海上空港を。


よく知る人間たちがいた。


西日本特別諜報班。


NST。


かつて。


特命によって。


この空港へ。


一定期間。


駐在していた。


空港警察。


保安部門。


貨物地区。


アクセス道路。


整備区画。


海側警戒区域。


玲奈たちは。


何度も。


ここを走った。


だから。


今回の任務は。


少しだけ。


妙な感じがした。


新しい現場。


ではない。


古巣へ戻る。


そんな空気が。


あった。


ヒロ室西日本分室。


大型モニター。


海上空港。


航空写真。


白浜麻衣。


見る。


「懐かしいね」


山本あかり。


「貨物地区、まだ覚えとるに」


春日美咲。


「事務棟の配置も、大きくは変わっていないようですね」


岡本玲奈。


三人。


見る。


「その経験を使います」


画面。


切り替わる。


潜入配置。


山本あかり――ランプ貨物作業員。


春日美咲――航空貨物管理事務。


そして。


白浜麻衣――現場指揮。


麻衣。


少し。


顔。


引き締まる。


以前。


この空港で動いていた頃。


麻衣は。


玲奈。


彩香。


先輩たちの指示を受け。


狭い場所。


裏通路。


貨物区画。


走っていた。


今は。


違う。


彩香。


今回も。


不在。


大学のゼミ合宿。


だから。


麻衣が。


現場を見る。


玲奈。


「麻衣」


「はい」


「前回の冷凍倉庫での指揮は非常に良かった」


麻衣。


少し。


照れる。


「ありがとうございます」


「今回も、あなたの判断で動いてください」


麻衣。


一拍。


「分かりました」


その時。


分室の隅。


聞き覚えのある。


江戸っ子の声。


「おう!」


波田顧問。


「紀伊ハンター、また三人揃ってやがんな!」


三人。


「……」


波田。


「何でぇ、その顔ぁ!」


麻衣。


「波田さん、それまだ言うんです?」


「まだも何もねぇだろ! おめぇら和歌山、三重、奈良。紀伊半島三人娘じゃねぇか!」


あかり。


「それは分かるに」


「その先があんだよ!」


波田顧問。


また。


始める。


昭和の終わりより。


さらに前。


テレビの世界へ。


まだモノクロ時代の空気が残っていた頃から人気を集めた。


男女の精鋭が。


犯罪組織へ潜入し。


敵地へ乗り込み。


車で追い。


格闘し。


危機を切り抜ける。


1970年代の。


人気スパイ・アクションドラマ。


波田顧問。


唯一。


リアルタイム視聴者。


波田。


「いいかい? あれぁな、男だけじゃねぇ。女も格好いいんだよ! 潜る、追う、殴る、騙す! チームで仕事すんだ!」


麻衣。


「へえ」


美咲。


「以前も伺いました」


あかり。


「元ネタ見てへんから分からんに」


波田。


「てやんでぇ! おめぇら一回見ろってんだ!」


玲奈。


静か。


「波田顧問」


「なんでぇ」


「作戦会議です」


「……へいへい」


紀伊ハンター。


以前から。


波田顧問が。


勝手に。


呼んでいる。


本人たちは。


いまだに。


よく分かっていない。


ただ。


前回。


零下二十五度の冷凍倉庫で。


三人揃って。


黒鷹を追い詰めた。


そのせいか。


以前より。


ほんの少しだけ。


その名前が。


似合ってしまっていた。


今回。


さらに。


もう一人。


古巣で。


待っている人間がいた。


空港警察。


真砂里緒。


空港警察庁舎。


打ち合わせ室。


ドア。


開く。


里緒。


変わらない。


穏やかな笑顔。


「あかりちゃん、美咲ちゃん。久しぶりだね」


あかり。


顔。


明るくなる。


「あ、里緒さん!」


美咲。


少し。


柔らかい表情。


「お久しぶりです」


里緒。


「元気だった?」


あかり。


「元気やに」


「相変わらずだね」


「里緒さんも元気?」


「うん。忙しいけどね」


美咲。


「空港警察のお仕事も、以前よりお忙しいのでは?」


「そうだね。でも」


里緒。


二人。


見る。


「二人もかなり忙しそうじゃない?」


あかり。


「いろいろ行っとるに」


「いろいろって?」


あかり。


「港とか、工場とか、冷凍倉庫とか」


里緒。


「ずいぶん現場派になったね」


美咲。


「私は事務潜入が多いです」


「似合いそう」


「よく言われます」


軽い。


近況報告。


そこへ。


麻衣。


入る。


里緒。


「麻衣ちゃんも久しぶり」


「お久しぶりです」


「今回は麻衣ちゃんが指揮?」


「はい」


里緒。


少し。


驚く。


「すごいね」


麻衣。


「まだ慣れてないですけど」


玲奈。


後ろ。


「前回は非常に良い働きでした」


麻衣。


「玲奈さん、それ言われると緊張します」


里緒。


笑う。


「でも本当に、みんな変わったね」


昔。


一緒に空港を走った時。


三人。


若かった。


経験。


浅い。


もちろん。


能力はあった。


だが。


今ほどではない。


あかりは。


前へ出る力を。


制御することを覚えた。


美咲は。


後方支援だけでなく。


必要なら。


自分で敵の前へ立つ。


麻衣は。


自分が動くだけでなく。


仲間を動かす。


里緒。


静かに。


「……みんな、すごい」


麻衣。


「まだ任務始まってませんよ」


「始まる前から分かるよ」


あかり。


「何が?」


里緒。


微笑む。


「強くなった」


三人。


少し。


照れる。


古巣へ。


帰ってきた。


だが。


戻ってきた人間たちは。


昔と。


同じではなかった。


潜入初日。


あかり。


反射ベスト。


安全靴。


ヘルメット。


作業手袋。


貨物地区。


「新人さん?」


「はい」


「山本さんね」


「はい!」


ランプ貨物。


航空貨物コンテナ。


カート。


梱包。


重量物。


搭載補助。


体力。


必要。


だが。


力だけでは。


絶対に。


できない。


航空機周辺。


一つ。


ルールを破れば。


大事故。


「黄色線から出たらあかん!」


「はい!」


「牽引車動いてる時は近づかん!」


「分かったに!」


「指示あるまで貨物触らん!」


「はい!」


素直。


守る。


現場。


見る。


分からなければ。


聞く。


一日目。


終わる頃。


班長。


「あの子、返事ええな」


三日目。


「山本ちゃん、これお願い」


「分かったに」


五日目。


「山本ちゃんどこ?」


「向こうで積み込み!」


一週間。


完全に。


溶ける。


里緒。


少し離れて。


見る。


「あかりちゃん」


通信。


『何?』


「昔より、ちゃんと周り見てる」


あかり。


『昔も見とったに』


麻衣。


『昔は勢い先行するときあったよ』


あかり。


『麻衣まで』


里緒。


笑う。


「今は違うね」


あかり。


貨物。


押す。


『仕事やからな』


短い。


その言葉。


里緒には。


少し。


嬉しかった。


四日市の突貫娘。


ただ。


突っ込むだけではない。


強く。


なった。


美咲。


航空貨物事務。


こちらも。


初日から。


完全に。


馴染む。


「春日さん、この伝票」


「はい」


「重量不一致で止まってる」


「確認します」


数分後。


「入力ミスです。修正申請を出します」


「助かる」


次。


「春日さん、これ昨日の便」


「履歴出しました」


「早いな」


「ありがとうございます」


静か。


正確。


目立たない。


一週間すると。


周囲は。


美咲が。


新人だということすら。


意識しなくなる。


いつも。


そこにいる。


仕事が。


終わっている。


それだけ。


黒鷹側の人間。


美咲を。


脅威と認識しない。


それが。


美咲の。


最大の強さだった。


夜。


事務室。


画面。


一件。


貨物番号。


美咲。


手。


止まる。


荷主。


検索。


なし。


発地。


なし。


搬入記録。


途中から。


突然。


現れる。


美咲。


次。


前週。


同じ。


前々週。


同じ。


毎週。


一個。


『麻衣さん』


『どうしたん?』


「見つけました」


麻衣。


声。


変わる。


『幽霊貨物?』


「はい」


番号。


読む。


海外便。


予定。


二日後。


午前二時四十分。


里緒。


横から。


画面。


見る。


「……これ?」


「はい」


「よく分かったね」


美咲。


「最初の履歴だけおかしいんです」


里緒。


「普通、後ろから見ちゃう」


美咲。


「最初がないのに、途中だけ正常なのが気になりました」


里緒。


美咲。


見る。


「すごいね」


美咲。


「ありがとうございます」


里緒。


もう一度。


小さく。


「ほんと、みんなすごくなった」


麻衣。


指揮。


静か。


『あかり、今日は第三貨物庫の近く行かんで』


「分かったに」


『美咲、対象だけ見すぎたら怪しまれるから、普通の仕事優先』


「はい」


空港。


構造。


知っている。


サービス道路。


貨物庫。


非常階段。


アクセスゲート。


空港警察の動線。


過去。


自分が。


走った。


道。


今度は。


仲間へ。


指示。


出す。


里緒。


横。


「迷わないね」


麻衣。


「迷ってます」


「そう見えない」


「言う前に考えてるんです」


里緒。


少し。


笑う。


「それを指揮って言うんじゃない?」


麻衣。


黙る。


「……彩香さんみたいに大声出すん苦手やし」


「出さなくていいでしょ」


「はい」


「麻衣ちゃんは麻衣ちゃん」


一瞬。


麻衣。


頷く。


任務。


順調。


黒鷹。


まだ。


気づかない。


内部協力者。


絞る。


貨物。


確定。


車両。


特定。


玲奈。


県警本部側。


待機。


里緒。


空港警察。


準備。


あとは。


幽霊貨物。


動く瞬間。


全部。


取る。


だった。


午後。


ターミナル側。


ロケ車。


一台。


麻衣。


監視画面。


見る。


止まる。


「……」


里緒。


「どうしたの?」


麻衣。


「来ました」


「誰?」


画面。


明るいツインテール。


赤嶺美月。


麻衣。


両手。


額。


「……もう嫌や」


里緒。


「ああ……」


CS放送。


空港特集。


『知られざる空港の裏側! 飛行機を飛ばすプロフェッショナル』


正式。


取材。


何一つ。


悪くない。


そこが。


余計。


困る。


美月。


カメラ。


「近っ! 飛行機めっちゃ近い!」


スタッフ。


「見学線から出ないでください」


「出ません!」


貨物。


牽引車。


整備。


取材。


意外と。


真面目。


「一機飛ばすだけで、こんなに人が働いてるんですね」


麻衣。


通信。


『そのまま真面目に終わって……』


だが。


貨物地区。


反射ベスト。


小柄。


見覚え。


美月。


「あれ?」


麻衣。


『見んな……』


目。


細める。


「あれ、あかりちゃう?」


麻衣。


『見んといて……』


次。


大声。


「あかりぃ〜!」


麻衣。


頭。


抱える。


「もう嫌や……」


里緒。


笑う。


「ふふっ」


麻衣。


「里緒さん、笑い事ちゃいますよ」


あかり。


聞こえる。


麻衣。


即。


『あかり』


「はい」


『無視して』


「でも」


『無視』


美月。


「あかりぃ〜!」


あかり。


貨物カート。


押す。


美月。


横。


付く。


「あかり!」


あかり。


前。


見る。


「なあ、何で無視すんの?」


三秒。


あかり。


耐える。


美月。


顔。


覗く。


「あかりやろ?」


あかり。


「あ、美月さん」


麻衣。


「返事したぁ……」


里緒。


また。


笑う。


美月。


「あかり! 何してん?」


「仕事やに」


「見たら分かる! 何の?」


「飛行機に荷物積む仕事」


美月。


目。


輝く。


「ウチのスーツケースも?」


「知らん」


「投げてへん?」


「投げてへんに!」


「ほんま?」


「ちゃんと運んどる!」


美月。


すぐ。


カメラへ。


「はい! 現場スタッフのあかりさんによりますと、手荷物は丁寧に扱っているそうです!」


あかり。


「勝手にインタビュー始めんといて」


麻衣。


『答えとる時点で成立しとるよ!』


美月。


「この箱、どこ行くん?」


「知らん」


「仕事してんのに?」


「私は言われた場所へ持ってく係やに」


美月。


「冷凍倉庫の時も同じこと言うてへんかった?」


麻衣。


「過去回まで繋げんで……」


美月。


「飛行機の近く怖ない?」


「決まり守っとれば大丈夫」


「飛行機運転できる?」


「できるわけないやん」


美月。


一拍。


「美音さんなら?」


あかり。


考える。


「……何かできそう」


麻衣。


『美音さん巻き込まんといて!』


カメラマン。


満足。


ディレクター。


笑っている。


番組として。


最高。


任務として。


最悪。


そして。


黒鷹工作員。


見ていた。


新人貨物作業員。


有名な戦隊ヒロインと。


名前で呼び合っている。


さらに。


航空貨物管理へ入った。


妙に仕事の正確な派遣事務員。


計画。


漏れたか。


警察。


かもしれない。


危険。


男。


通信。


「予定変更」


内部協力者。


「いつ?」


「今だ」


「航空便は?」


「使わない」


幽霊貨物。


航空機へ。


載せない。


業務車両。


空港外へ。


持ち出す。


美月。


何も。


知らない。


ただ。


あかりへ。


話しかけただけ。


それで。


作戦は。


動いた。


事務室。


美咲。


画面。


変化。


一瞬。


目。


鋭くなる。


『麻衣さん』


「何?」


『幽霊貨物、搭載指示が消えました』


麻衣。


立つ。


「陸へ出す気やね」


里緒。


顔。


警察官。


戻る。


「空港警察、動かす」


麻衣。


即。


「待ってください」


里緒。


見る。


「まだ全面封鎖は早いです」


「理由は?」


「貨物だけ取っても、黒鷹の本体が散ります」


里緒。


一秒。


玲奈。


通信。


『麻衣の判断で進めてください』


麻衣。


「ありがとうございます」


次。


短い。


的確。


『美咲、貨物の位置』


「第六搬送庫です」


『あかり』


美月。


まだ。


「あかり、この車何するん?」


麻衣。


強い声。


『あかり!』


あかり。


顔。


変わる。


「はい!」


『仕事やよ』


「分かった」


美月。


「何?」


「ごめん、美月さん。ほんまの仕事戻るに」


「今までのは?」


「それも仕事!」


走る。


麻衣。


一言。


「やっと戻った……」


第六搬送庫。


黒鷹。


貨物。


車両。


工作員。


正面。


あかり。


走る。


男。


「止まれ!」


あかり。


止まる。


「それ置いて」


「どけ!」


「嫌やに」


男。


来る。


以前なら。


あかり。


真正面から。


ぶつかった。


今は。


違う。


後ろ。


貨物車。


右。


航空機関連設備。


左。


安全帯。


一瞬。


全部。


見る。


そして。


空いている。


方向。


選ぶ。


男。


突進。


あかり。


肩。


受ける。


腰。


落とす。


脚。


踏む。


止まる。


一歩。


前。


四日市の突貫娘。


だが。


ただ。


突貫しない。


相手の勢い。


真正面で。


受け。


危険のない方向へ。


押し返す。


男。


「この!」


横。


二人目。


あかり。


腕。


受ける。


身体。


返す。


一人目。


二人目。


ぶつからせない。


貨物にも。


触れさせない。


「空港で暴れたら危ないに!」


男。


「お前が言うな!」


あかり。


「私はルール守っとる!」


前。


踏み込む。


大柄な男。


二歩。


三歩。


後退。


里緒。


監視画面。


見る。


小さく。


「……あかりちゃん」


前とは。


違う。


強さ。


使い方。


覚えた。


別通路。


麻衣。


走る。


工作員。


逃げる。


サービス通路。


階段。


器材室。


空港の裏。


観光客。


誰も。


知らない。


細い。


迷路。


昔。


麻衣。


何度も。


走った。


今も。


身体。


覚えている。


男。


角。


曲がる。


麻衣。


別路。


一段。


二段。


手すり。


使う。


小さな身体。


方向。


変える。


先回り。


男。


止まる。


「なっ……」


麻衣。


静か。


「そっち、出口ないよ」


男。


突進。


麻衣。


一歩。


横。


腕。


抜ける。


背後。


手首。


肩。


足。


男。


床。


紀州の舞姫。


冷凍倉庫でも。


空港でも。


狭い場所なら。


麻衣の舞台。


だが。


今日は。


そこから。


止まらない。


通信。


『美咲、ゲート止められる?』


『はい』


『お願い』


『了解です』


『あかり、正面は任せるよ』


『任せて!』


自分。


戦う。


同時に。


仲間。


動かす。


里緒。


聞く。


目。


細める。


「麻衣ちゃん……」


迷い。


ない。


いや。


迷っている。


だが。


それを。


指示へ。


持ち込まない。


現場リーダー。


なった。


航空貨物事務。


美咲。


搬出申請。


停止。


黒鷹内部協力者。


事務室へ。


入る。


「お前、何してる!」


美咲。


事務服。


名札。


髪。


乱れていない。


「搬出処理を保留しています」


「戻せ」


「できません」


男。


近づく。


「どけ!」


手。


伸ばす。


美咲。


一歩。


外。


手首。


取る。


男。


「え?」


身体。


返す。


机。


PC。


避ける。


何もない。


空間。


男。


崩れる。


もう一人。


扉。


入る。


「こいつ!」


美咲。


視線。


変わる。


普段。


奈良公園の鹿。


そう。


仲間から。


からかわれるほど。


穏やか。


従順。


大人しい。


だが。


奈良の鹿は。


決して。


弱くない。


男。


拳。


美咲。


避ける。


腕。


取る。


足。


位置。


変える。


肩。


床。


男。


息。


詰まる。


美咲。


静かな声。


「申し訳ありません」


次。


立つ。


「ですが」


もう一人。


来る。


美咲。


構える。


「ここから先へは、行かせません」


事務服。


そのまま。


戦う。


制服を着替える必要など。


ない。


大人しい人間が。


弱いという。


勝手な思い込み。


黒鷹は。


そこでも。


間違えた。


里緒。


空港警察。


無線。


「各班、配置」


返事。


次々。


「西ゲート閉鎖準備」


「東側サービス道路、一般車退避」


「旅客動線へ影響出さないで」


「航空機運航最優先」


以前。


NSTと。


一緒に動いた頃。


里緒も。


現場の一人。


今は。


空港警察側。


人。


動かす。


麻衣。


『里緒さん』


「何?」


『対象車両、西へ出ます』


「確認してる」


『三分ください』


里緒。


時計。


見る。


「二分半」


麻衣。


少し。


笑う。


『相変わらず厳しいですね』


里緒。


「空港だからね」


古い。


呼吸。


戻る。


二つの組織。


だが。


目的。


一つ。


空港。


守る。


貨物ヤード。


夜。


空港灯火。


青。


白。


背景。


海。


工作員。


複数。


対象車両。


一台。


麻衣。


左。


あかり。


正面。


そして。


事務棟から。


美咲。


走る。


事務服。


そのまま。


右。


三人。


揃う。


黒鷹。


見る。


「またお前らか!」


あかり。


「またって何やに」


美咲。


「車両はもう外へ出せません」


麻衣。


短い。


「行くよ」


その瞬間。


もし。


波田顧問が。


見ていたなら。


間違いなく。


叫んだ。


「それだよ! それが紀伊ハンターだ!」


夜の空港。


三方向。


三人。


役割。


違う。


あかり。


正面。


麻衣。


側面。


美咲。


逃走路。


これは。


乱戦ではない。


チーム戦。


1970年代の。


スパイ・アクションドラマを思わせるような。


無駄のない。


格好良さ。


まず。


男。


あかりへ。


突っ込む。


あかり。


一歩。


前。


四日市の突貫娘。


真正面。


受け。


崩す。


別の男。


麻衣。


狙う。


麻衣。


小さく。


身体。


沈める。


拳。


空。


すり抜ける。


男。


振り向く。


もう。


麻衣。


背後。


紀州の舞姫。


手首。


肩。


一瞬。


床。


三人目。


逃走。


右。


美咲。


待つ。


男。


「どけ!」


美咲。


「嫌です」


男。


飛び込む。


美咲。


半歩。


外。


腕。


取る。


身体。


流す。


男。


方向。


変わる。


そこ。


あかり。


「おかえりやに!」


男。


「誰が帰った!」


麻衣。


「漫才せんといて!」


あかり。


「してへんに!」


男。


混乱。


麻衣。


横。


入る。


美咲。


右。


閉じる。


三人。


敵の動き。


一つずつ。


削る。


戦い方。


違う。


だから。


噛み合う。


あかり。


力。


麻衣。


速度。


美咲。


正確さ。


麻衣。


「美咲、右!」


「はい!」


「あかり、二人そっち!」


「任せて!」


男。


二人。


あかりへ。


あかり。


笑わない。


姿勢。


低く。


「二人まとめて来るなら来いやに!」


一人。


腕。


出す。


避ける。


もう一人。


押す。


あかり。


止める。


体幹。


強い。


前。


押し返す。


四日市の突貫娘、炸裂。


麻衣。


一人。


追う。


貨物カート。


間。


狭い。


身体。


通る。


工作員。


大きい。


追えない。


麻衣。


振り返る。


目。


冷たい。


「ここ、私の方が速いよ」


男。


別路。


回る。


麻衣。


先。


待つ。


紀州の舞姫、舞う。


美咲。


後方。


一人。


対象貨物。


持つ。


逃げる。


美咲。


前。


立つ。


「そこまでです」


男。


「事務員が!」


美咲。


ほんの少し。


眉。


上がる。


「事務員です」


男。


笑う。


美咲。


続ける。


「でも」


一歩。


「NSTでもあります」


男。


来る。


美咲。


身体。


外す。


腕。


取る。


脚。


払う。


床。


貨物。


落とさせない。


手。


先。


取る。


空港警察。


里緒。


遠く。


見る。


「……すごい」


昔。


後ろに。


いた三人。


今。


夜の空港。


前。


立つ。


黒鷹責任者。


幽霊貨物。


抱える。


走る。


麻衣。


「逃がさんよ!」


あかり。


追う。


美咲。


反対。


回る。


責任者。


サービス道路。


出る。


その先。


空港警察。


一列。


中央。


真砂里緒。


拳銃。


構えない。


だが。


逃げ道。


完全。


塞ぐ。


「そこまでです」


責任者。


振り返る。


麻衣。


あかり。


美咲。


三人。


後ろ。


前。


里緒。


責任者。


舌打ち。


横。


逃げる。


その瞬間。


サイレン。


県警車両。


一斉。


進入。


黒い車両。


特殊部隊。


展開。


先頭。


岡本玲奈。


「全員、その場を動かないでください」


終わった。


空港警察。


県警。


特殊部隊。


同時。


制圧。


黒鷹工作員。


内部協力者。


受け渡し役。


確保。


幽霊貨物。


開封。


暗号通信モジュール。


高性能精密部品。


企業研究データ。


そして。


さらに。


玲奈。


中。


一つ。


記録媒体。


見る。


美咲。


確認。


「これ……」


過去半年。


別空港。


別会社。


別路線。


複数。


記録。


黒鷹が使っていた。


全国規模の。


航空貨物ルート。


今回。


取る予定だったのは。


一件。


だが。


結果。


物流網。


一部。


丸ごと。


崩れる。


想定以上。


成果。


玲奈。


麻衣。


見る。


「よく動きました」


麻衣。


息。


整える。


「ありがとうございます」


里緒。


三人。


見る。


感嘆。


隠さない。


「ほんとに……」


少し。


笑う。


「みんな、すごい」


夜明け。


海上空港。


東。


空。


薄い。


青。


滑走路灯。


一つ。


また。


一つ。


朝の明るさへ。


溶けていく。


一番機。


準備。


遠く。


エンジン。


音。


貨物地区。


里緒。


麻衣。


あかり。


美咲。


並ぶ。


里緒。


「あかりちゃん」


「何?」


「強くなった」


あかり。


「そう?」


「うん」


美咲。


見る。


「美咲ちゃんも」


「はい」


「昔はもっと後ろだったよね」


美咲。


「今も後ろは好きです」


「でも前にも出る」


美咲。


少し。


笑う。


「必要なら」


里緒。


次。


麻衣。


「麻衣ちゃん」


「はい」


「指揮、格好良かった」


麻衣。


「みんなが動いてくれただけです」


里緒。


首。


振る。


「そう動けるようにしたのが麻衣ちゃん」


玲奈。


後ろから。


「私も同じ評価です」


麻衣。


「玲奈さんまで……」


玲奈。


「よくできました」


一言。


麻衣。


ほんの少し。


照れる。


あかり。


「麻衣、褒められとるに」


麻衣。


「聞こえとるよ」


美咲。


微笑む。


古巣。


戻った。


そして。


自分たちが。


どれだけ。


遠くへ。


進んだか。


昔の仲間に。


教えられた。


事件。


空港警察。


正式に。


県警へ。


感謝。


県警本部。


NSTの働きを。


高く評価。


単なる。


違法貨物摘発ではない。


黒鷹の。


航空物流網。


一部。


壊滅。


大成果。


彩香。


不在。


それでも。


現場。


回った。


玲奈にとっても。


意味。


大きい。


分室の若いメンバーは。


もう。


誰か一人がいなければ。


動けない集団ではない。


育っている。


数日後。


ヒロ室西日本分室。


平和。


彩香。


まだ。


ゼミ合宿。


普段より。


静かな午後。


の。


はず。


麻衣。


机。


資料。


置く。


「あのなぁ……」


あかり。


顔。


上げる。


「何?」


麻衣。


紀州弁。


少し。


低い。


「美月さん、ホンマにええ加減にしてほしいわ」


美咲。


「あ、始まりました」


麻衣。


「何が?」


「ボヤキです」


「ボヤきたなるやろ!」


あかり。


「美月さん、仕事やったに」


「分かってるんよ!」


美咲。


「正式な取材でした」


「分かってる!」


あかり。


「私が返事しただけやに」


麻衣。


「そこよ!」


「何回も呼ぶから」


「無視!」


「可哀想やに」


麻衣。


両手。


頭。


「この会話、冷凍倉庫の時もしたやろ!」


あかり。


「したかな」


美咲。


「しました」


麻衣。


「何で二回目も同じことするんよ!」


あかり。


「美月さんやから」


麻衣。


止まる。


「……それ説明になってへん」


一拍。


麻衣。


「決めたわ」


美咲。


「嫌な予感がします」


麻衣。


「今度、空港の任務また邪魔したらな」


あかり。


「うん」


麻衣。


胸。


張る。


「手荷物受取所のベルトコンベア、何周するか朝から晩まで数えさせたるわ!」


沈黙。


あかり。


真顔。


「麻衣」


「何よ」


「それって意味ある?」


麻衣。


一拍。


視線。


横。


「……ないわ〜。何の意味もあらへんわ」


あかり。


「ないんや!」


美咲。


「美月さん、途中から楽しみそうです」


麻衣。


「何でよ」


美咲。


淡々。


「『はい、現在二百十四周目です!』と実況を始めると思います」


あかり。


「CSで生配信やに」


麻衣。


「何で罰が番組になるんよ!」


美咲。


「視聴者に最終周回数を予想してもらう企画もできます」


あかり。


「正解者に空港限定お菓子」


麻衣。


「景品つけんな!」


澪香。


「結構面白そう」


澄香。


「私、見る」


麻衣。


「見る側増やさんといて!」


少し。


考える。


麻衣。


「そんならもう――」


美咲。


「まだありますか」


「手荷物受取所のベルトコンベアに美月さん乗せて、一日中グルグル回したるわ!」


あかり。


「危ないに」


美咲。


「空港警察に止められます」


麻衣。


「架空の罰やから!」


あかり。


想像。


「でも美月さん」


「何?」


「注目されて喜びそうやに」


麻衣。


止まる。


想像。


ベルトコンベア。


一周。


美月。


「どうもー!」


二周。


手。


振る。


三周。


「まだまだ行きまーす!」


旅行客。


スマホ。


撮る。


CS。


中継。


SNS。


トレンド。


麻衣。


顔。


曇る。


「……あかん」


あかり。


「何が?」


麻衣。


深い。


深い。


ため息。


「彩香さんの気持ち、段々分かってきたわ……」


その瞬間。


少し離れた机。


玲奈。


「……ふっ」


口元。


緩む。


美咲。


即。


「玲奈さん」


「はい」


「今、笑いました?」


「いいえ」


あかり。


「笑っとったに」


麻衣。


「玲奈さんまで!」


玲奈。


「気のせいです」


麻衣。


「気のせいやない!」


玲奈。


書類。


めくる。


「それより、次の任務では今回以上に――」


麻衣。


「話変えた!」


あかり。


笑う。


美咲。


笑う。


迫田ツインズ。


笑う。


玲奈。


ほんの少し。


また。


口元。


緩む。


麻衣。


「ああもう……」


椅子。


座る。


「彩香さん、早よ帰ってきて……」


あかり。


「麻衣が代わりやったらええやん」


「嫌や!」


美咲。


「かなり適性ありますよ」


「何の適性よ!」


「ボヤキです」


「そんな適性いらんわ!」


分室。


大笑い。


その頃。


海上空港では。


今日も。


旅客機。


飛ぶ。


荷物。


運ばれる。


手荷物受取所。


ベルトコンベア。


回る。


誰も。


周回数など。


数えない。


それで。


いい。


空港という場所は。


正しく回っている時。


人の記憶には。


残らない。


荷物。


届く。


飛行機。


飛ぶ。


人。


旅立つ。


その普通を。


守る人間がいる。


かつて。


この場所で。


先輩たちの背中を追っていた。


三人。


今は。


自分たちで。


敵を追う。


麻衣。


あかり。


美咲。


紀州の舞姫。


四日市の突貫娘。


奈良の静かな女。


三人。


性格。


違う。


戦い方。


違う。


だが。


一度。


並べば。


互いの隙間を。


互いが埋める。


昔のスパイ・アクションドラマ。


その格好良さを。


波田顧問だけが。


知っている。


当の三人。


元ネタ。


いまだ。


分からない。


それでも。


夜の滑走路。


貨物ヤード。


三方向から。


黒鷹を追い詰めた姿だけは。


確かに。


波田顧問が。


言いたかったものに。


近かった。


紀伊ハンター。


本人たちは。


まだ。


名乗る気。


ない。


だが。


黒鷹にとっては。


十分。


覚える価値のある。


三人だった。


滑走路の灯が。


朝へ。


消える前。


存在しないはずの貨物は。


空へ。


上がれなかった。


その夜。


飛んだのは。


黒鷹の計画だけだった。



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