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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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海上空港非常線 第79話  渡った影、繋がる空港 ― セントラル・シャドウゲート

神戸から続いた黒鷹の影は、海を越えていた。


梓が押収データを解析したのは、深夜の仮設詰所だった。

神戸側で摘発した黒鷹のサーバー。そこから伸びた細い通信線が、中部地方の巨大海上空港へ接続されていた。


「国際貨物検査履歴の改ざんルートです」


梓の声は淡々としていた。


危険物を安全品に見せかける。

検査済みの履歴を偽装する。

一度通れば、貨物は国境を越える。


黒鷹は、神戸で失敗した計画の続きを、別の空港で完成させようとしていた。


玲奈は即断した。


「追う」


NSTは愛知県へ移動することになった。


ただし、問題が一つあった。


四日市の突貫娘・山本あかりが不在。

ヒロ室東海(仮称)のイベント参加で、すでに現地入りしている。


彩香は頭を抱えた。


「よりによって今かいな……」


玲奈は静かに言った。


「結月を入れる」


大西結月。


元女子競輪選手。

スポーツインストラクター兼戦隊ヒロイン。

NSTの正式メンバーではないが、玲奈が全幅の信頼を置く代打の切り札だった。


結月は小さく笑った。


「代打の切り札ですね」


玲奈は短く頷く。


「そうや」


その言葉で、結月の目が変わった。


「任せてください」


中部地方の海上空港は、神戸の空港とは違う巨大さを持っていた。


海の上に浮かぶ国際空港。

大きなターミナル。

広い貨物地区。

国内線、国際線、貨物便、観光客。

まるで空港そのものが一つの街だった。


美咲が静かに呟く。


「広いですね」


麻衣も周囲を見回す。


「迷子になりそうです」


彩香は無線を確認しながら言った。


「迷子になる前に黒鷹を止めるで」


だが、その直後だった。


中央イベントホールに、巨大な看板が見えた。


『ヒロ室東海(仮称)スペシャルイベント』


彩香の足が止まった。


嫌な予感は、すぐ現実になった。


ステージ前には大勢の客。

外国人観光客まで足を止め、笑っている。

その中心にいたのは、明るいツインテールの小柄な女性。


赤嶺美月。


「みんなー! 空港やでー! 飛行機見て、イベント見て、ついでに空港メシ高いって覚えて帰ってなー!」


客席が笑う。


その横には、巻き髪の真央。

さらに、あかり、真白、ひかり、明日香、陽菜、美紀。

ヒロ室東海(仮称)の参加メンバーが勢ぞろいしていた。


彩香は顔をしかめた。


「終わった……」


玲奈は無言で少しだけ天井を見た。


彩香は全員へ低く命じる。


「ええか。絶対にヒロ室東海(仮称)には気付かれるな」


そして、さらに声を低くする。


「特に、あのアホツインテールには近づくな」


麻衣が苦笑する。


「美月さんですね」


「名前を呼ぶな。呼んだら来る気がする」


彩香は真顔だった。


「あと巻き髪も危険や。あれは煽る。ツインテールを燃料にして火ぃ大きくするタイプや」


美咲が小さく頷く。


「分かりました」


結月は少し笑った。


「任務難度、上がりましたね」


「笑いごとちゃうわ」


イベントは大盛況だった。


真央が美月を煽り、美月が大声で返し、あかりが慌てて止め、真白が淡々と補足し、ひかりが愛想よく手を振る。

外国人観光客まで大笑いしていた。


普通なら微笑ましい光景だった。

しかし今のNSTには地雷原に見えた。


彩香は吐き捨てるように言う。


「空港の真ん中で何やっとんねん、あいつら……」


玲奈が短く言った。


「今は黒鷹や」


その一言で、全員の目が戻る。


黒鷹は貨物システムの奥に潜っていた。


目的は、検査履歴の改ざん。

危険物を一般貨物として流し、国際物流へ乗せる。

成功すれば、どこで事故が起きるか分からない。

空港の信用だけではなく、日本の物流そのものを傷つける悪質な計画だった。


美音が端末を見て言う。


「改ざん処理は北側貨物地区から走っています」


梓が続ける。


「送信開始まで十分未満」


玲奈が結月を見る。


「行けるか」


結月は自転車用の小型端末を装着した。


「代打の切り札ですから」


そして走り出す。


広い空港の裏導線。

サービス通路。

貨物ヤード。

搬送車両の脇。

結月は自転車で空港の隙間を縫う。


車では遅い。

徒歩では間に合わない。

この距離、この複雑さでは、結月の機動力が最も効いた。


美音が指示する。


「次の分岐、右。大型搬送車の後ろを抜けてください」


あおいが高所から補足する。


「前方に作業員二名。片方は黒鷹です。歩き方が作業員ではありません」


結月は速度を落とさない。


「見えました」


その頃、イベント会場では美月がまだ騒いでいた。


「えっ、巻き髪真央! 空港グルメ対決するん? ウチ負けへんで!」


真央が笑う。


「美月さん、食べるだけなら強そうですもんね」


「どういう意味や!」


客席は大笑い。


彩香は柱の陰からそれを見て、目を細めた。


「近づいたら終わりや……」


その瞬間、あかりがステージ横からふとこちらを見た。


彩香は瞬時に柱の陰へ隠れた。

麻衣も隠れる。

美咲も隠れる。

迫田ツインズは壁際に溶け込む。

玲奈まで半歩下がった。


完全に不審者集団だった。


あかりは首を傾げる。


「今、彩香さんいたような……」


真白が横から言う。


「気のせいでは?」


「そうかな」


彩香は息を殺した。


「危なかった……」


貨物地区では、結月が黒鷹の工作員を追い詰めていた。


男はデータ端末を抱え、搬送設備の裏へ逃げる。

結月は自転車を横滑りさせるように止め、退路を塞いだ。


「ここまでです」


男が突破を図る。

だが、結月は一歩早い。

元競輪選手の脚力と反応速度で相手の進路を読み、端末を奪い取る。


「美音さん、端末確保」


美音が即座に改ざん処理を停止する。


「履歴復旧開始。危険物分類、正常化」


梓が確認する。


「外部送信、遮断」


里緒が現地警察と連携し、工作員を確保。

玲奈は無線で短く言った。


「任務完了」


誰にも気づかれないまま、国際物流改ざん計画は潰された。


NSTは静かに引き揚げる。


……はずだった。


「彩香、おったんかぁ〜!」


明るい声が響いた。


全員が固まる。


美月だった。


小柄な体で、ツインテールを揺らしながら走ってくる。


彩香の顔が死んだ。


「見つかった……」


美月は満面の笑みで近づく。


「何してたん? こんなとこで。まさか任務? またウチには教えてくれへんやつ?」


彩香は即答する。


「何もしてへん」


「嘘や!」


「嘘ちゃう!」


「絶対何かしてた顔や!」


「どんな顔やねん!」


そこへ真央が来る。


「彩香さん、美月さんに隠し事ですか?」


「巻き髪、煽るな!」


真央はにこにこしている。


「えー、私はただ聞いただけですよ」


美月が乗る。


「ほら見ぃ! 真央もそう言うてる!」


彩香が眉間を押さえる。


「あんたら二人並ぶと面倒くささ二倍やな!」


あかりも駆け寄ってきた。


「彩香さん、本当にいたんですね!」


「お前はこっち来るな。話がややこしくなる」


「ひどいです!」


麻衣が間に入る。


「まあまあ、無事に会えたんですし」


美月が麻衣へ向く。


「麻衣もおるやん! なんや、みんなで来てるん?」


美咲は小さく逃げようとしたが、美月に見つかった。


「美咲もおる! 何このメンバー!」


美咲は困った顔で言う。


「私は何も……」


彩香と美月の喧嘩は、完全に子どもじみていた。


「そもそもお前がうるさいねん!」


「彩香が怖い顔してるからや!」


「怖い顔は元からや!」


「自分で言うんか!」


真央が横で笑いながら煽る。


「でも彩香さん、確かに怖い顔の時ありますよね」


「巻き髪ぃ!」


あかりが慌てる。


「け、喧嘩はやめてください!」


麻衣は苦笑し、美咲は静かに巻き込まれ、真白は遠くから冷静に眺めている。

ひかり、明日香、陽菜、美紀も興味津々で集まってきた。


収拾不能だった。


その様子を少し離れて見ていた玲奈は、黙っていた。


ここまでの任務は厳しかった。

県警本部との対立。

黒鷹の凶暴化。

空港を越えた追跡。


張り詰めた糸のような時間が続いていた。


だが目の前では、彩香と美月が小学生のような口喧嘩をしている。


「アホツインテール!」


「怖顔播州!」


「誰が怖顔や!」


玲奈の鉄仮面が、ほんの少しだけ崩れた。


口元が、わずかに緩む。


彩香が気づく。


「玲奈さん、今笑いました?」


玲奈はすぐに表情を戻す。


「笑ってへん」


美月が言う。


「いや、ちょっと笑ってたで!」


「うるさい」


玲奈の声はいつも通りだった。

だが、その目は少しだけ柔らかかった。


神戸から渡った黒鷹の影は、中部の海上空港で断たれた。

代打の切り札・大西結月は、その役目を完璧に果たした。


そして任務の最後に待っていたのは、黒鷹ではなく、いつも通り騒がしい仲間たちだった。


海上空港非常線 第79話。

空港を越えた黒い影は消えた。

だが、ツインテールの騒ぎだけは、どこへ行っても消えなかった。

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