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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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海上空港非常線 第78話  崩れる均衡、最後の賭け ― ブラックホーク・ギャンビット

海上空港の夜は静かだった。


滑走路灯が闇の中に一直線の光を描き、管制塔の窓だけが白く浮かび上がる。


だが、その静けさの下では何かが崩れ始めていた。


黒鷹。


県知事派残党を母体とするその組織は、これまで何度もNSTに敗れてきた。


密輸。


爆破。


資金洗浄。


空港島封鎖。


玲奈暗殺計画。


その全てが失敗した。


そして追い詰められた組織は、最も危険な段階へ入る。


理性を失った敵ほど厄介なものはない。


空港警察の解析室。


氷室梓の前には複数のモニターが並んでいた。


「来ます」


短い一言。


その場にいた玲奈、彩香、里緒の表情が変わる。


梓は続けた。


「貨物地区、整備地区、燃料関連施設。複数地点で同時に通信が発生しています」


「工作員の数も過去最大です」


里緒が眉をひそめる。


「同時多発か」


玲奈は腕を組んだ。


「最後の賭けやな」


十分後。


NST全員が招集された。


彩香。


あかり。


麻衣。


美咲。


迫田ツインズ。


そしてサポートメンバーの美音、あおい、結月。


空港警察の里緒と梓も加わる。


玲奈は全員を見渡した。


「今日の相手は今までと違う」


静かな声だった。


「黒鷹も後がない」


「気ぃ抜いたら怪我では済まん」


全員が頷いた。


あかりだけは元気だった。


「大丈夫です!」


彩香が即座に言う。


「お前が一番心配や」


戦端は貨物地区で開かれた。


黒鷹工作員が大型コンテナヤードへ侵入。


設備破壊を開始する。


彩香が無線で叫ぶ。


「待機!」


しかし。


その指示より早かった。


「行きます!」


四日市の突貫娘。


山本あかりが飛び出した。


一直線だった。


迷いがない。


貨物コンテナの間を駆け抜ける。


工作員一人目を体当たりで吹き飛ばし、二人目を地面へ叩き伏せる。


勢いは止まらない。


三人目へ向かった瞬間だった。


コンテナの陰。


そこに伏せていた工作員が飛び出す。


「あっ――」


避けきれない。


激しい衝突音。


あかりの身体が横へ吹き飛んだ。


地面を転がる。


肩。


脇腹。


強打。


彩香の顔色が変わる。


「……あかり!」


あかりは立ち上がろうとする。


だが痛みで足がふらつく。


軽傷。


しかし戦闘継続は危険だった。


その姿を見た瞬間。


彩香の中で何かが切れた。


普段は冷静だ。


口は悪い。


だが現場では常に理性的だった。


しかし。


あかりだけは別だった。


妹分。


無鉄砲で。


真っ直ぐで。


何度叱っても突っ走る。


そんな後輩だった。


彩香はゆっくり立ち上がる。


目が変わる。


「許さん」


低い声。


だが全員が聞こえた。


「絶対許さん」


播州の烈火。


完全解放だった。


彩香が突っ込む。


速い。


あかりとは違う。


計算された速さ。


工作員が構える前に懐へ入る。


一人。


二人。


三人。


次々に制圧。


黒鷹側も怯む。


まるで燃え上がる炎だった。


里緒が思わず呟く。


「怖い……」


梓も珍しく同意する。


「怒っていますね」


しかし前線だけではない。


美音が動く。


「逃走車両確認」


大型二輪で貨物地区外周を疾走。


逃走経路を解析し封鎖する。


結月は自転車で狭い通路を駆け抜ける。


車では入れない場所を制圧。


あおいは上空監視。


「北側倉庫に追加工作員」


「三名移動中」


正確な情報が降ってくる。


迫田ツインズは一般客や職員を安全圏へ誘導。


麻衣と美咲は負傷者対応。


誰一人パニックを起こさせない。


まさに総力戦だった。


黒鷹は最後の作戦へ移る。


狙いは空港非常設備。


空港島封鎖事件で失敗した標的だった。


「まだ諦めてへんか」


玲奈が呟く。


県警本部から連絡が入る。


「応援部隊到着まで待機を」


玲奈は短く返した。


「間に合わん」


そして彩香へ。


「現場は任せる」


「了解」


師弟の信頼だった。


その頃。


あかりは医務室へ行くはずだった。


しかし。


行かなかった。


脇腹を押さえながら立ち上がる。


麻衣が止める。


「休んでください」


美咲も珍しく強い口調だった。


「無理です」


だが。


あかりは笑う。


「まだ動けます」


「みんな戦ってるんですよ」


それだけだった。


クライマックス。


非常設備区画。


黒鷹最後の工作班が突入する。


彩香が先頭。


里緒が続く。


空港警察部隊も展開。


美音が退路を封鎖。


結月が側面を押さえる。


あおいが上空から監視。


梓が監視網を復旧。


迫田ツインズが避難誘導。


麻衣と美咲が支援。


そして。


「あかり参戦します!」


負傷したあかりも戻ってきた。


彩香が怒鳴る。


「アホ!」


だが。


少しだけ安心した顔だった。


最後の激突。


工作員たちは追い詰められていた。


彩香とあかりが前線。


里緒も警察格闘術で制圧。


普段温厚な空港警察官とは思えない動きだった。


「確保!」


「こちらも確保!」


各所から無線が飛ぶ。


そして。


梓の声。


「非常設備、正常化確認」


美音も続く。


「脅威排除」


任務完了だった。


深夜。


詰所。


全員が疲れていた。


だが空港は守られた。


玲奈はあかりを見る。


肩に包帯。


脇腹にも固定具。


「無茶するな」


短い言葉。


あかりは照れ笑いした。


「すみません」


彩香が横から言う。


「ほんまアホや」


しかしその声は優しかった。


あかりも笑う。


「でも勝ちました」


彩香は少し黙り。


そして小さく頷いた。


「せやな」


玲奈はその様子を見る。


県警本部との対立。


黒鷹との戦い。


増していく危険。


不安はいくらでもあった。


だが目の前には仲間がいる。


傷ついても立ち上がる者たちがいる。


その事実だけは確かだった。


海上空港非常線、第78話。


黒鷹は最後の賭けに出た。


しかしNSTは崩れなかった。


炎のように戦う彩香。


傷を負っても前へ出るあかり。


支える仲間たち。


そして彼女たちを見守る玲奈。


空港を守る非常線は、まだ消えていなかった。

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