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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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海上空港非常線 第58話  閉じた導線、開く罠 ― ターミナル・シャドウライン

レオン・クロスが海上空港に降り立った瞬間、空港は表向きだけ平静を保っていた。


裏では、非常線が何重にも張られていた。


世界的アーティスト。親日家。神戸初訪問。

その一人を無事に空港から出すだけで、NSTは国家任務に等しい緊張を強いられていた。


玲奈は短く指示を出す。


「ここから車寄せまでが第一関門や。導線を閉じろ。けど、閉じたと悟らせるな」


VIP導線には、迫田ツインズが入った。


澄香と澪香は、レオンの海外護衛チームと合同で動く。

黒いスーツの屈強な護衛たちは最初、若い双子を見てわずかに疑った。だが、二人が導線図を一目で把握し、報道陣の位置、一般客の流れ、非常口、車両待機場所まで淡々と確認すると、その目が変わった。


澄香が英語で言う。


“This route is safe, but visible. We need to shift his walking line three meters inward.”


澪香も続ける。


“The press will look here. We make them look there.”


護衛チームのリーダーが短く頷く。


“Understood.”


同じ顔。違う役割。

澄香は視線を流し、澪香は出口を締める。

二人は、華やかな笑顔で空港の空気を少しずつ動かしていった。


その間、麻衣は家族連れを安全圏へ誘導し、美咲は空港スタッフに紛れて背後導線を潰す。

美音は車両動線を読み、あおいは滑走路側の不審な動きを見る。

結月は連絡橋側で待機。

里緒は空港警察を表に出さず配置し、梓は監視室で映像を切り分ける。


彩香は現場を締めていた。


「一般客を止めるな。押し返すな。流せ。レオン本人には気づかせるな」


その声は鋭いが、低い。

いつもの怒鳴りではない。現場キャップとしての声だった。


だが、空港は予定通りには動かない。


まず、さつきのロケ隊が動いた。


「レオン・クロス氏がまもなくこちらへ――」


カメラが一歩前へ出る。

その視界を、澄香が笑顔で遮る。


「撮影位置はこちらでお願いいたします」


さつきは何も知らずに頷く。


「ありがとうございます! 空港の方、対応が丁寧ですね!」


彩香は遠くで呟く。


「空港の方ちゃうわ……」


さらに、美月が騒いでいた。


「レオン見えへん! ちょっとだけでええねん!」


群衆の中で明るいツインテールが跳ねる。

彩香は歯を食いしばる。


「あのツインテール、ほんま今日だけは大人しくしとけ……」


だが、その騒ぎの裏で黒鷹が動いた。


偽空港スタッフがVIP導線脇へ入り込む。

整備用カートに偽装したケース。

中には通信妨害装置。


梓が即座に拾う。


「対象、関係者証が偽造。歩幅が導線と合っていません」


美咲が背後へ入る。


「通路確認中です」


美音がカートの重量を読む。


「中身が工具ではありません」


彩香が低く命じる。


「閉じろ」


澪香が出口側を塞ぎ、澄香が護衛チームに目線で合図する。

海外護衛の一人がレオンの歩幅を自然に落とす。

その隙に、美咲が偽スタッフの前に立った。


「こちらは通れません」


短い制圧。

通信妨害装置は起動前に押収された。


第一波は潰した。


だが、次が来る。


報道陣に紛れた男が、レオンへ突進しようとした。

黒鷹か――と思われたが、違った。


ただの熱狂したファンだった。


「レオン! 一言だけ!」


警備線を越えようとする。

周囲がざわつく。


あかりが反応した。


「止めます!」


彩香が止める間もなく、あかりは飛び出していた。


男は黒鷹ではない。武器もない。

だが、体は大きく、勢いがある。レオン本人に接触すれば、それだけで警備事故になる。


あかりは正面から受けなかった。


低く踏み込み、男の腕を外へ流す。

勢いを利用して体勢を崩し、空いている通路側へ押し込む。


男がなおも暴れようとすると、あかりは足を入れ、肩で押さえ、床に倒さず制圧した。


「落ち着いてください!」


声は少し慌てているが、動きは本物だった。


周囲のファンは、ただ警備員が止めたと思っただけ。

騒ぎは最小限。


彩香は唖然とした。


「……これも任務になるのか?」


あかりは不安そうに戻る。


「すみません、黒鷹じゃなかったです……」


だが、玲奈は即答した。


「ようやった」


あかりが目を丸くする。


「え?」


「護衛対象に接触させなかった。一般客も怪我させてへん。十分任務や」


彩香は少しだけ黙り、それから息を吐いた。


「まあ……今回はそうやな」


あかりの顔がぱっと明るくなる。


その横を、レオン・クロスが護衛に守られながら静かに通過する。


彼は一瞬だけ、あかりの方を見た。

何が起きたかは完全には分かっていない。

だが、軽く会釈した。


「Thank you.」


あかりは固まった。


「……今、レオンさんにお礼言われました?」


彩香が低く言う。


「調子乗るなよ」


それでも、少しだけ口元は緩んでいた。


車寄せ前。


最後の罠が開いた。


整備コーンで誘導されたVIP車両のルートが、予定よりわずかに外側へずれている。そこは報道陣の視界に近く、さらに外周の不審車両から狙える角度だった。


美音が気づく。


「導線が変えられています」


あおいが上から補足する。


「外周車両、狙線が通ります」


玲奈の声が鋭くなる。


「車を入れ替えろ」


結月が連絡橋側から車両誘導へ走り、美音が安全ルートを指示。

里緒が空港警察へ自然な交通整理を入れ、梓が外周車両を封じる。


迫田ツインズがレオンと護衛チームを一拍止める。


澄香が英語で言う。


“Please wait. Just one second.”


澪香が笑顔で報道陣へ向く。


「撮影はここまででお願いいたします」


その一秒で、ルートが変わった。


黒鷹の狙線は外れた。


レオンは無事、車両へ乗り込む。


ドアが閉まる。


第一関門、突破。


仮設詰所に戻る空気は重いままだった。

成功した。

だが、これは終わりではない。


玲奈はモニターの外周映像を見つめていた。


「本命は道中や」


彩香が頷く。


「空港内でこれだけ仕掛けてくるなら、三宮まで何段もありますね」


玲奈は短く言う。


「全員、次へ備えろ」


あかりはまだ少し高揚していた。

だが、その目にはいつもの抜けた明るさだけではない。

護衛対象を守ったという実感があった。


迫田ツインズは、海外護衛チームから正式に礼を言われていた。


“Your guidance was excellent.”


澄香と澪香は、同じ顔で微笑む。


「ありがとうございます」

「ここからも気を抜けません」


空港ターミナルの導線は閉じた。

だが、その先には港町へ向かう長い影が伸びている。


ターミナルの裏で開いた罠を、誰にも悟らせず閉じた回だった。

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