表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
321/381

海上空港非常線 第55話  白いリネンに隠れた指令 ― ランドリー・ロストコード

海上空港の裏側には、白い川が流れている。


航空会社ラウンジで使われたタオル。

機内で配られたブランケット。

上級席用のクロス。

クルー用の予備リネン。


旅客は、それをほとんど見ない。

だが空港の裏では、白い布の山が毎日、黙って動いている。


回収され、袋に詰められ、台車に積まれ、搬出口へ運ばれ、外部ランドリーへ送られる。

清潔を支える流れ。

空の旅の表舞台を、裏から支える地味な動脈。


黒鷹は、そこに目をつけた。


「リネン回収袋に、極小チップが縫い込まれている可能性あり」


仮設詰所で、美音が淡々と報告した。


チップの中身は、VIP導線、ラウンジ利用者の一部情報、要人搭乗口の一時運用データ。

手荷物でも貨物でもない。

ただの“汚れ物”に見せかけた指令だった。


玲奈は短く言った。


「白い袋の中で止める。外へ出すな」


今回の前線は、派手な三人ではない。


春日美咲。

河合美音。

氷室梓。


地味で、冷静で、職人肌。

誰も見ないものを見る三人だった。


美咲はリネン回収スタッフに扮した。

大きなカートを押し、ラウンジ裏へ自然に入る。

制服も動きも、驚くほど場に馴染んでいた。


誰も振り向かない。

誰も覚えない。

それが美咲の強さだった。


美音は設備点検員として、搬送ルートを監視する。

見るのは人の顔ではない。

台車の沈み込み、袋の膨らみ、車輪の音、床に残るわずかな軌跡。


梓は監視室にいた。

映像を止め、戻し、拡大し、また流す。

搬送者の歩幅、視線、手の位置、搬出時刻。

感情を入れず、記録だけを切り出す。


最初に違和感を拾ったのは、美咲だった。


「この袋、畳み方が違います」


彩香が眉を寄せる。


「畳み方?」


「はい。このラウンジは、ブランケットを縦に二つ折りしてから丸めます。でもこれは横に折ってあります」


地味すぎる違和感だった。

普通なら見逃す。

だが、美咲には見えた。


美音が別の角度から追う。


「その袋だけ、三百グラムほど重いです。湿り気ではありません。布の量も合わない」


梓が映像を止めた。


「搬送者の歩幅が、この袋を持った時だけ変化しています。中身を把握している可能性があります」


三人の見立てが、一本の線になった。


黒鷹の工作員は、白いリネン袋を外部ランドリー搬出車へ載せるつもりだった。

空港外へ出れば、追跡は一気に難しくなる。


美咲は問題の袋へ近づいた。


「こちら、再確認します」


作業員風の男が遮る。


「急ぎなんで。次の便の分も詰まってるんです」


美咲は静かに返す。


「汚損確認が必要です」


声は小さい。

だが、退かない。


その間に、美音が設備点検を装って台車の進路を塞ぐ。


「こちら、車輪確認中です。少し止めてください」


男の表情がわずかに硬くなる。


梓は監視室から冷たく指示を出した。


「外部搬出口を通常点検名目で一時封鎖。警備員は増やさないでください。増やすと対象が警戒します」


里緒が空港警察側へ自然に繋ぐ。


「業者さんには、搬出口の機器確認と伝えます。騒がせません」


彩香は腕を組んだまま、モニターを見ていた。


「こういう静かな現場、逆に怖いな」


玲奈は短く答える。


「静かな場所ほど、崩れた時は大きい」


男が焦り始めた。


リネン袋を別のカートへ移そうとする。

その一瞬、美咲の目が動いた。


「そのリネン、置いてください」


男が逃げようとした。


だが、通路はすでに細く閉じていた。


迫田ツインズが左右の搬出口を塞ぐ。

あかりは彩香の合図を待つ。

美音は台車を完全に止める。

梓は逃走可能な扉を一つずつ消していく。


彩香が低く言った。


「あかり、今や」


「はい!」


あかりが飛び込む。

男の腕を押さえ、袋を落とさせない。


美咲はその白い袋を静かに抱えた。

まるで壊れ物を扱うように。


回収袋の内側。

白いタオルの縁。

そこに、極小チップが縫い込まれていた。


黒い指令は、白い布の中で止まった。


任務完了。


詰所に戻ると、彩香は深く息を吐いた。


「よう、あんなもん見つけたな……」


美咲は少し困ったように答えた。


「畳み方が、気になっただけです」


美音は淡々と続ける。


「布も台車も、重さは嘘をつきません」


梓は真顔で美咲を見る。


「美咲さんは、布の山に紛れても識別困難です」


彩香が苦笑した。


「それ、褒めとるんか?」


梓は即答する。


「最大級に褒めています」


あかりが首を傾げる。


「褒め方、冷たくないですか?」


「評価は正確であるべきです」


玲奈の口元が、ほんの少し緩んだ。


そして、三人を見た。


「地味やが、ええ仕事や」


その一言で十分だった。


銃声はない。

派手な追跡もない。

大立ち回りもない。


あったのは、畳み方。

重さ。

歩幅。

そして、誰も気にしない白い袋。


誰も見ないものを見た三人が、空港を揺らす悪意を静かに摘み取った。


海上空港は、今日も何事もなかったように動いている。

ラウンジではタオルが使われ、機内ではブランケットが配られる。


旅客は知らない。

その白い布の山の中に、黒鷹の指令が隠れていたことを。


そして、それを止めたのが、三人の静かな仕事人だったことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ