表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
310/388

海上空港非常線 第44話  花鳥の楽園に迫る毒牙 ― アニマルドーム・バイオコード

海上空港の先、人工島の緑の中に、その施設はあった。


花が咲き、鳥が舞い、動物たちが人のすぐ近くで息づく全天候型の楽園。親子連れ、観光客、飛行機の待ち時間に立ち寄る旅人たち。そこは、空港周辺で最も平和に見える場所だった。


だからこそ、黒鷹はそこを選んだ。


狙いは本格的なテロではない。

温室エリアの空調と水槽管理設備を使った、微量散布テスト。


玲奈は報告を聞いて、短く言った。


「実験やな」


彩香が低く返す。


「人も動物も巻き込む気ですか」


「せや。潰す」


空港側の指揮は彩香。

園内側は麻衣に任された。


麻衣は一瞬、戸惑った。


「私が、ですか?」


玲奈は迷わない。


「子どもと動物が絡む現場や。お前が一番見える」


その一言で、麻衣の顔が変わった。


「分かりました」


美咲は飼育員に扮した。

制服も長靴も自然すぎるほど似合う。バックヤードに入っても、誰も違和感を持たない。


あかりは売店スタッフ。

エプロン姿で元気に土産物を並べながら、親子連れと通路を見ている。


「売店、意外と向いてます!」


彩香がインカムで返す。


「商品倒すなよ」


「もう一回しか倒してません!」


「一回倒したんかい」


麻衣は園内中央で全体を見た。


小さな子どもたち。

ベビーカー。

鳥を見上げる親子。

動物に手を振る幼児。


この場所を怖がらせてはいけない。


麻衣は小さく息を吸った。


「美咲さん、温室裏を見てください。あかりちゃん、売店前の子どもたちを右側へ流して」


「はい」


「了解です!」


その声は優しい。

だが、指揮官の声だった。


黒鷹の工作員は、温室エリアの管理設備に入ろうとしていた。


作業服姿。

手には小型ケース。

中身は散布制御用の端末。


美咲が静かに立ちはだかった。


「そこは、担当者以外入れません」


男が目を細める。


「点検です」


「予定にありません」


声は静か。

だが退かない。


男は舌打ちし、身を翻した。

逃げる先は、親子連れのいる通路。


麻衣が動いた。


小柄な体で、子どもたちの前に立つ。


「こっちへ来たらあかん」


いつもの柔らかい麻衣ではなかった。

背は低い。腕も細い。

それでも、その瞬間の麻衣は壁だった。


背後の子どもが泣きそうになる。


麻衣は振り向かずに言う。


「大丈夫やよ。お姉ちゃんの後ろにおって」


工作員が強引に抜けようとする。


その瞬間、売店からあかりが飛び出した。


「そこまでです!」


エプロンが風を切る。

商品棚の横を蹴るように抜け、通路中央へ一直線。


男が腕を振る。

あかりは引かない。


一歩踏み込み、相手の手首を掴む。

勢いのまま肩を入れ、体勢を崩す。

売店スタッフの姿なのに、その動きは完全に前線の戦隊ヒロインだった。


「子どもたちの前で、何してるんですか!」


声が鋭い。


男がもう一度抵抗する。

あかりは踏ん張る。

足元がぶれない。

腕力だけではない。体幹で止める。


そして一気にひねり倒した。


「確保!」


その勇ましさに、彩香が思わず呟く。


「……今日はええ動きや」


美咲が背後の逃走路を消す。

麻衣は子どもたちを守ったまま、静かに言う。


「あかりちゃん、そのまま押さえて」


「はい!」


あかりは工作員の腕を押さえ、ケースを蹴り飛ばさず、慎重に足元で止めた。


美音の声が入る。


「ケース内、制御端末です。散布前です」


玲奈が短く言った。


「終わりや」


任務は静かに終わった。


園内放送は通常通り。

鳥は舞い、子どもたちは少し離れた場所で動物を見ている。

誰も、すぐ近くで何が起きたかを知らない。


麻衣は子どもたちにしゃがんで声をかけた。


「怖かったな。でも、もう大丈夫やよ」


小さな女の子が聞く。


「お姉ちゃん、強いの?」


麻衣は少し困ったように笑った。


「ううん。みんなを怖がらせたくなかっただけ」


その横で、あかりが胸を張る。


「私は今日は強かったですよ!」


彩香がインカムで即答する。


「今日は、な」


「今日だけみたいに言わないでください!」


美咲は飼育員帽を直しながら、静かに言った。


「動物たちも、無事です」


空港側の詰所へ戻ると、彩香が麻衣を見た。


「今日は麻衣が現場を締めたな」


麻衣は少し驚いた。


「私、ただ子どもたちを守りたかっただけです」


玲奈が静かに言う。


「それが指揮官の理由になる」


麻衣は言葉を失った。


あかりは誇らしげに笑う。


「麻衣さん、めっちゃカッコよかったです」


彩香が続ける。


「あかりも今日は良かった。突っ込む場所、間違えへんかった」


あかりの顔が輝く。


「ほんまですか!」


「ただし、売店の商品倒した件は別や」


「そこは忘れてください!」


玲奈の口元が、ほんの少し緩んだ。


花と鳥の楽園は、何事もなかったように夕方を迎えた。


誰も知らない。

その穏やかな場所で、黒鷹の毒牙が寸前で折られたことを。


小さな体で子どもを守った麻衣。

静かに逃げ道を消した美咲。

勇ましく前へ出たあかり。


海上空港非常線。

空港の外、花と緑の中でも確かに引かれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ