海上空港非常線 第42話 空港の外で拾った声 ― ツインズ・オフサイトコード
空港の非常線は、ターミナルの中だけに張るものではない。
海上空港の外には、ホテルがある。レンタカー営業所がある。港湾バス停がある。コンビニがあり、早朝から開く食堂があり、空港職員が出勤前に立ち寄る喫茶店がある。
そこにも、空港は続いている。
玲奈は仮設詰所のモニターを見ながら、低く言った。
「黒鷹は、中を見に来とるんやない。外から聞いとる」
きっかけは小さかった。
空港近くのレンタカー営業所で、妙に空港職員の出勤時間を尋ねる客がいた。
同じ頃、空港そばのビジネスホテルでは、滑走路が見える部屋ばかりを指定する男がいた。
それだけなら偶然で済む。
だが、迫田ツインズは見逃さなかった。
澄香はレンタカー営業所へ向かった。
明るく自然に話を聞き出し、受付の女性から「空港職員って何時頃多いんですかね、と聞かれた」という証言を拾う。
澪香はビジネスホテルへ入った。
宿泊客を装い、フロントと雑談する。そこで「滑走路側の部屋を何度も指定する男」と「朝の送迎バスの混み具合を気にしていた」という情報を得る。
二人は別々に動いている。
だが、報告は一本の線になった。
「空港職員の交代時間」
「滑走路側の見える部屋」
「送迎バスの混雑」
梓が映像ログを照合する。
「狙いは空港内ではありません。職員交代のタイミングです」
美音が貨物搬入時間と重ねる。
「その時間帯、貨物地区の人員配置が一瞬薄くなります」
里緒が空港警察側の聞き込み記録をつなぐ。
「同じ人物が、港湾バス停でも時刻を聞いています」
玲奈は短く言った。
「外から入る気やな」
作戦はすぐに組まれた。
彩香は現場指揮。
麻衣は港湾バス停で家族連れを安全に誘導。
美咲はホテル清掃員に扮して裏口を監視。
美音は貨物搬入ログ。
あおいは上空から外周道路。
結月は自転車でバス停から空港連絡路までを押さえる。
里緒は空港警察との連携。
梓は外周監視と人物識別。
あかりはレンタカー駐車場で待機。
「最後だけやぞ」
彩香が釘を刺す。
「分かってます!」
「その返事が一番怖いねん」
迫田ツインズは、再び外へ出た。
澄香は港湾バス停へ。
澪香はレンタカー営業所近くへ。
同じ顔が、別の場所で別の情報を拾う。
それだけで、黒鷹の動きは少しずつ狭められていった。
黒鷹の工作員は三人いた。
一人はホテルから出る。
一人はレンタカー営業所で車を借りる。
一人は港湾バス停から職員の流れに紛れる。
空港内で捕まえるには遅い。
外で線を引くしかない。
「ホテル側、出ました」
美咲の静かな声。
「レンタカー側、対象確認」
澪香。
「バス停側、動きます」
澄香。
三本の情報が同時に入る。
彩香が低く言う。
「全部、職員交代時間に合流する気や」
玲奈は即答した。
「一つにまとめろ」
前にも聞いた指示だった。
だが今回は、空港の外が舞台だ。
里緒が空港警察へ連絡する。
「一般車両は止めず、流れだけ調整してください。職員バスの乗降口を一時的に右側へ寄せます」
梓が冷静に補足する。
「対象三名の合流地点はレンタカー駐車場北側。そこを閉じれば、全員止められます」
美音が言う。
「貨物搬入口へ抜ける裏道もあります。そこは結月さんで」
結月が短く返す。
「押さえます」
バス停で、麻衣が家族連れに声をかける。
「こちら、少し混みますので、お子さん連れの方はこっちへどうぞ」
港湾道路の空気が少し変わる。
一般客は巻き込まれない。
ホテル裏では、美咲が清掃カートを押して立つ。
ただそこにいるだけで、裏口の使い方を一つ潰した。
上空から、あおいが報告する。
「三人、駐車場北側へ寄ります」
彩香があかりを見る。
「今度こそ最後や」
「はい!」
黒鷹の三人が、レンタカー駐車場の北側で接触する。
その瞬間、迫田ツインズが左右から現れた。
澄香がバス停側を閉じる。
澪香が営業所側を閉じる。
「ここまでです」
「そっちも無理です」
同じ顔。
別の方向。
逃げる者には、それだけで判断が遅れる。
梓が封鎖を指示する。
「北側出口、閉鎖。一般車両は南へ誘導」
里緒が笑顔で現場を整える。
「すみません、こちら少し混みます。ご協力お願いします」
結月が裏道を塞ぐ。
美咲がホテル側を消す。
彩香が正面へ出る。
「終わりや」
一人が走る。
あかりが飛び出した。
「確保です!」
今回は綺麗だった。
相手の腕だけを押さえ、地面に落ちかけた端末を拾う。
三人同時確保。
空港の外で、非常線は閉じた。
押収された端末には、空港職員の交代時間、貨物搬入の薄い時間、バス停と連絡路の混雑パターンが入っていた。
黒鷹は、空港の中を壊す前に、外側から人の流れを読もうとしていたのだ。
任務後、玲奈は迫田ツインズを見た。
「よく拾った」
短いが、重い言葉だった。
澄香が笑う。
「レンタカー屋さん、よく喋ってくれました」
澪香も続ける。
「ホテルのフロントも、ちゃんと覚えてました」
彩香が感心したように言う。
「空港の外で拾った話が、ここまで繋がるとはな」
玲奈は静かに答えた。
「空港は建物だけやない。外の声まで聞いて、初めて非常線や」
海上空港は、今日も何事もなかったように動いている。
だがその外側でも、見えない線は張られていた。
迫田ツインズ。
同じ顔の二つの影は、空港の外で拾った小さな声を、空港を守る大きな線へ変えた。




