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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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海上空港非常線 第41話  免税店の香水、揺れる記憶 ― デューティーフリー・ミラージュ

国際線エリアの免税店には、独特の匂いがある。


香水。化粧品。革製品。酒。

出発前の浮ついた空気と、異国へ向かう少しの緊張。

客は棚を見て、値札を見て、香りを試し、迷いながら笑う。


だが、黒鷹はそういう場所を好む。

人が油断し、物が多く、視線が散る場所。


今回の情報は、香水ボトルだった。


高級香水の瓶に、極小の記録媒体が仕込まれている可能性。

国外へ持ち出されれば、空港貨物導線と保安配置の一部が抜かれる。


仮設詰所で、岡本玲奈は監視映像を見ていた。


「客を騒がせるな。商品も壊すな。受け渡しまで見る」


彩香が頷く。


「了解です」


美咲は免税店スタッフに扮して店内へ入る。

里緒は空港警察側で客導線を押さえる。

彩香は入口側で監視。

玲奈はモニターの前で動かない。


だが、その目は鋭かった。


「この男や」


玲奈が映像を止めた。


スーツ姿の男。

香水棚の前で、いくつもの香りを試している。


彩香が眉をひそめる。


「香水選んでるだけちゃいます?」


「違う」


玲奈は即答した。


「買う気がない」


「分かるんですか」


「値段を見てへん。店員にも聞かへん。香りを試す順番も変や」


画面の中で男は、甘い香り、重い香り、シトラス系、また重い香りと、意味のない順番でムエットを手に取っている。


「香水を選んでるんやない。棚の位置を確認してる」


玲奈の声が低くなる。


「本命は、あの棚のどれかや」


その時だった。


国際線ロビーに、妙に明るい声が響いた。


「うわー、海外行く人ばっかやん!なんかキラキラしとるなぁ!」


彩香の顔が固まる。


明るいツインテール。

小柄な体。

スポーツバッグ。

やたら元気な足取り。


赤嶺美月だった。


「……なんで今日に限って国際線来とんねん」


大学のチアリーディング関係の交流イベントで、韓国へ向かう途中らしい。

当然のように、免税店へ入ってくる。


「なぁなぁ、これめっちゃエエ匂いせえへん?」


美月は香水棚の前で友人たちと騒ぎ始めた。


しかも、すぐに見つかる。


「美月ちゃん?」

「写真いいですか?」

「韓国行くんですか?」


美月は悪気なく笑う。


「ええでええで!でも飛行機乗らなあかんから手短にな!」


手短にならない。


人が寄る。

視線が集まる。

免税店の流れが乱れる。


彩香は怒り心頭だった。


「あのツインテール、エエ加減にせえよ……!」


あかりが小声で言う。


「でも美月さん、楽しそうですね」


「そこが腹立つねん!」


だが、玲奈は違うものを見ていた。


美月の騒ぎで、スーツ姿の男が一瞬焦った。

本来の動線を変え、左奥の限定棚へ手を伸ばした。


玲奈の目が細くなる。


「動いた」


彩香が振り向く。


「本命ですか」


「せや。焦ると本命に触る」


美咲が静かに近づく。


「包装、承ります」


店員そのものの声だった。


男の手が止まる。

美咲は香水瓶を自然に受け取る。


美音の声が入る。


「内部に微弱反応。記録媒体です」


玲奈が短く命じた。


「閉じろ」


里緒が一般客を自然に流す。


「こちら、少し混み合っています。お会計のお客様は右側へどうぞ」


迫田ツインズが出口側に入る。

彩香が男の正面に立つ。


「買い物、終わりや」


男が逃げようとする。

だが、背後には美咲。

出口には双子。

横には彩香。


最後にあかりが飛び込む。


「確保です!」


騒ぎは最小限だった。

免税店の客は、少しスタッフが動いた程度にしか思っていない。


押収された香水瓶は、本物の高級香水だった。

だが、底面に極小記録媒体が仕込まれていた。


玲奈は静かに言った。


「香りは甘いが、中身は黒やな」


彩香は深く息を吐く。


「美月の騒ぎがなかったら、あの男もう少し粘ってましたね」


玲奈は頷く。


「騒ぎも、線に入れれば使える」


一方、美月は何も知らずに免税店を出ていく。


「なんや知らんけど、今日の空港ちょっと賑やかやったな!ほな韓国行ってくるわー!」


彩香はその背中を見て震えた。


「あのツインテール……ほんまに……」


あかりが待ってましたとばかりに聞く。


「今日は何したるんですか?」


彩香は即答した。


「あいつのツインテール、免税店の試供品リボンみたいに結んだるわ」


あかりは真顔で頷く。


「可愛くなりそうですね」


「ちゃうねん!罰や!」


「でも美月さん、喜びそうですよ」


「ほな、香水売り場のマネキンに縛り付けたる!」


「営業妨害ですね」


「冷静に言うな!」


あかりは少し考えて言った。


「それより、ツインテールに香水全部吹きかけたらどうですか?」


彩香が目を見開く。


「それや!あのツインテール、フローラル地獄にしたる!」


「でも美月さんなら『ええ匂いやん!』って喜びそうです」


「……あかん、効かへん」


彩香はがっくり肩を落とした。


玲奈の鉄仮面が、ほんの少し崩れる。

口元が静かに緩んだ。


国際線エリアには、また甘い香りが戻っていた。

旅客は香水を選び、出発ゲートへ向かう。

誰も知らない。


騒がしいツインテールが、結果的に黒鷹の取引を崩したことを。

そして玲奈の洞察が、その揺れを見逃さなかったことを。

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