表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

211/240

空の目は、騒ぎを味方にする ― 東灘スカイ・フォーメーション

神戸市東灘区。

海と山の間に広がる、整いすぎた街だ。南には港、北には六甲の山並み。酒蔵が並ぶ灘五郷、洗練された住宅地、物流が正確に流れる臨海部。派手に主張はしないが、全体のバランスが崩れない。だからこそ、流れは読みやすく、同時に隠しやすい。東灘は、“配置”が美しい街だった。


黒鷹は、その美しさを利用していた。


複数ルートを同時に動かす分散輸送。

一つを止めても意味がない。

全体で成立する“フォーメーション”。


往年の阪急ブレーブスの野球に似ていた。

誰かが突出するわけではない。だが、全員が正しい位置にいる。だから崩れない。気づけば試合は支配されている。


「面倒やな」


彩香が低く言う。


「崩すな。上から読む」


玲奈は短く答えた。


今回の主役は――若林あおい。


上空支援。

俯瞰。

全体最適。


地味だが、最も外してはいけないピースだった。


ヘリのローターが、低く街の上を切る。

あおいは機体の窓から、東灘の全体を見ていた。


港側の搬入ライン。

住宅地を抜ける配送ルート。

山側へ逃げる細い道。


すべてが同時に動いている。


(……三つじゃない)


あおいはすぐに気づく。


(四つ目がある)


人の流れに紛れているライン。

一番遅い。だが、一番確実に抜ける。


「第四ルート、存在」


あおいが落とす。


「やっぱりな」


玲奈が応じる。


「そこが芯や。全部合わせて詰める」


NSTが動き出す。


美咲が住宅地側の影を押さえ、麻衣が人の流れを自然にコントロールする。双子が港側の接続点へ向かい、美音が時間差を計算する。彩香は全体を見ながら、崩しどころを探る。


すべてが整う。


その時だった。


「こんにちはー!東灘の魅力をお届けしまーす!」


嫌な予感しかしない声。


神戸放送の情報番組。

三好さつき。


さらに最悪なことに――


「え、ロケやん!楽しそうやな!」


赤嶺美月。


プライベートで友人と遊びに来ていたらしい。

しかも、周囲がすぐに気づく。


「あれ、美月ちゃんやん!」

「ほんまや、テレビで見たことある!」

「写真ええですか!?」


一気に人だかりができる。


騒ぎが広がる。

視線が一点に集中する。


現場は――完全にカオスだった。


「……最悪や」


彩香が吐き捨てる。


だが、その瞬間。


「……そのままでええ」


あおいが言った。


全員が一瞬止まる。


「……なんやて?」


「もっと騒がせてください」


あおいの声は冷静だった。


「視線が全部そこに集まってます。隠れてた第四ルート、完全に浮きました」


玲奈がすぐに判断する。


「……続行や」


騒ぎはさらに大きくなる。


美月はサービス精神全開で手を振り、ポーズを取り、周囲を巻き込んでいく。さつきもレポートを続けながら、その流れに乗る。


「はい、こちら大人気のスポットになってます〜!」


完全にコントロール不能。


だが――


その騒ぎの裏で、黒鷹の人間は動けなくなっていた。


視線が痛い。

動けば目立つ。

だから一瞬、止まる。


その“一瞬”が命取りだった。


「今や」


あおいが落とす。


上から見ているから分かる。

どのルートが、どのタイミングで止まったか。


「東、詰める」

「南も止まった」

「第四、露出」


次々と報告が入る。


NSTが一斉に動く。


無駄がない。

遅れがない。


フォーメーションが完成する。


「確保」


短い声。


全ルート、同時封鎖。


黒鷹のラインは――崩壊した。


騒ぎはまだ続いている。


美月は笑い、さつきはレポートを続け、一般人は写真を撮っている。


誰も知らない。


その裏で、巨大な輸送網が消えたことを。


任務後。


彩香はまだ怒っていた。


「あのツインテール、港の風に一日中さらしてクセ直したろか」


あかりがいない分、ツッコミ役がいない。


代わりに、玲奈が淡々と言った。


「港の風に一日中さらしてもベタつくだけや」


即答だった。


「……そうなんですか?」


彩香が少しだけ素で聞く。


「神戸港の風は湿っとる」


玲奈は平然としている。


現地知識だった。


彩香は一瞬言葉に詰まり、そして吐き捨てた。


「……ほな意味ないやないか」


そのやり取りに、あおいが小さく笑った。


空は静かだった。


東灘の街は、何も変わらない。

酒蔵の匂い、港の風、住宅街の灯り。


そのすべてを上から見ていたあおいだけが知っている。


どこに流れがあり、

どこが止まり、

どこで勝負が決まったのか。


若林あおい。


目立たない。

だが、外せない。


試合を壊さず、試合を支配する女。


それは――

最も完成された勝ち方だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ