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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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引き返せない夜 ― 裏切りの温度、迫る選択

夜は、選択を許さない。

神戸の光は相変わらず穏やかに瞬いていたが、その裏で動くものは、どれも冷たく鋭かった。


――


そのファイルを開いた瞬間、東條悠真は理解した。


「……ここまでやるか」


写真。

映像のキャプチャ。

通信履歴。

企業機密の接触記録。


すべてが、精密に“仕込まれていた”。


偶然ではない。

事故でもない。


黒鷹が、悠真を落とすために用意した罠だった。


外資系企業の幹部候補。

名家の血筋。

クリーンな経歴。


それらを一撃で粉砕する材料が、完璧な形で揃っている。


「これが表に出たら、どうなるか分かるやろ」


黒鷹の男は淡々と告げる。


「会社は終わり。家も終わり。お前も終わりや」


悠真は何も言わない。


言えるはずがなかった。


――逃げ道は、最初からなかった。


「だから言うたやろ」


煙草の煙が、ゆっくりと揺れる。


「軽い仕事でええって」


最初は、確かに軽かった。


玲奈に近づき、少し情報を引き出すだけ。


それだけで、この地獄から抜け出せるはずだった。


だが――


「そろそろやな」


男が視線を上げる。


「次の段階に行くで」


空気が変わる。


「もっと深い情報を持ってこい」


悠真の拳がわずかに震える。


「……どこまでですか」


「どこまででもや」


一拍。


そして、決定的な一言。


「最後は――消してもらう」


静かだった。


だが、その言葉は確実に突き刺さる。


「岡本玲奈を、や」


――


その頃。


ヒロ室西日本分室。


岡本玲奈は、いつもと違う表情をしていた。


「莉央、ちょっとええか」


通信越し。


「あ、玲奈さん!どうしたと?」


博多の明るい声。


「……その、ブライダルの相談や」


一瞬、沈黙。


そして爆発する。


「えええええ!?ちょ、ちょっと待って!?玲奈さん!?ほんとに!?」


玲奈は少しだけ困った顔をする。


「まだ決まったわけやない。でも……準備はしておきたい」


「任せてください!!最高にキレイにするけん!!」


玲奈の口元が、わずかに緩む。


――


その変化は、周囲にもはっきりと見えていた。


「……玲奈さん、完全に恋してるやん」


あかりが小声で言う。


「やなぁ……目ぇ柔らかいもん」


美咲が頷く。


「なんか、別人みたい……」


麻衣もぽつり。


迫田ツインズも顔を見合わせる。


「これは……来てるな」


「来てるわ」


――完全に女子会である。


「……仕事しろ」


彩香の一言で全員沈黙。


だが、その視線は玲奈に向いている。


(……覚悟、決めてる顔やな)


彩香だけは理解していた。


この変化が、ただの恋ではないことを。


――


その夜。


玲奈と悠真は並んで歩いていた。


静かな道。


街の灯りが、二人の影を伸ばす。


「最近、忙しそうやな」


玲奈が言う。


「まあ、それなりに」


悠真は笑う。


だが、その笑顔はどこか硬い。


「……無理せんといてや」


玲奈が自然に言う。


その言葉に、悠真は一瞬だけ言葉を失う。


(……なんでや)


こんなにも、無防備に信じてくる。


疑いもせず。


計算もせず。


「……大丈夫です」


そう答えるしかなかった。


――


「なぁ」


玲奈がふと立ち止まる。


「結婚しても、私は仕事続ける」


はっきりとした声。


「戦隊ヒロインも、NSTも」


一拍。


「でもな」


少しだけ視線を逸らす。


「NSTは……もう彩香のチームや」


その言葉には、信頼があった。


「頼りにしとるで」


――


悠真の胸が締め付けられる。


(……やめろ)


思考が止まる。


(これ以上、俺を信じるな)


だが、口には出ない。


――出せるはずがない。


――


夜風が吹く。


神戸の光は、変わらず穏やかに揺れている。


だが、その中で。


一人の男は、選択を迫られていた。


愛か。

生きる場所か。


どちらかを選べば、もう一方は失われる。


(……どうすればええ)


拳を握る。


答えは、もう出ているはずなのに。


――


その夜。


均衡は完全に崩れた。


あとは、落ちるだけだった。

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