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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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波紋の行方 ― 瀬戸内ジャックライン最終話

瀬戸内の海は、何事もなかったように穏やかだった。

だが、その静けさの裏で、別の波が立っていた。


――世論だ。


テレビは連日、あの一発を流し続けていた。

遊覧船。人質。犯人。そして、倒れる瞬間。


「英断だった」

「人命を守るための最善の判断」


右派系メディアはそう称賛した。


一方で。


「過剰な武力行使ではないか」

「警察権力の暴走」

「国際問題に発展する可能性」


左派系メディアは、同じ映像を使って真逆の物語を作る。


事実は一つ。

だが解釈はいくつでもあった。


そしてその“解釈”に、黒鷹とジェネラス・リンクが乗る。


匿名のコメント。

海外メディアへのリーク。

SNSでの拡散。


「国家による殺害」

「人質を盾にした処刑」


言葉が歪む。

意図的に。


兵庫県内に留まらない。

国内全体がざわつき始める。


――事件は終わっていなかった。


――


ヒロ室西日本分室。

いつもより空気が重い。


テレビは消されている。

だが誰もが、外の騒ぎを知っている。


「あれ、絶対おかしいやろ」


あかりが机を叩く。


「撃たんかったら死んでたんやで!?」


感情がそのまま出る。


「……そうやな」


美咲も、珍しく迷いなく同意する。


「間に合わなかったら、取り返しがつきませんでした」


麻衣は唇を噛む。


「……あの場で、他に方法あったんかな……」


普段は柔らかい彼女の声にも、明確な疑問があった。


迫田ツインズも、揃って言う。


「必要な判断だった」


「少なくとも現場では」


いつも穏やかな二人が、はっきりと意思を示す。


だが――


彩香は、何も言わなかった。


壁にもたれ、腕を組んでいる。


視線は落ちたまま。


その沈黙が、一番重い。


――


その時、扉が開く。


「おう、揃ってんな」


波田巌藏。


べらんめえ口調の顧問。


だが今日は、いつもより声が低い。


「結論から言うぞ」


部屋の空気が止まる。


「玲奈は査問委員会行きや」


一拍。


「当面、謹慎」


さらに。


「NSTは活動休止」


沈黙。


あかりが立ち上がる。


「はぁ!?」


波田は手で制す。


「俺だって納得してねぇよ」


その一言に、全員が黙る。


「県警本部と相当やり合った」


声に苛立ちが滲む。


「だがな、上は世論を見て動く」


机を軽く叩く。


「今は“火消し”が優先だとよ」


吐き捨てるように言う。


「現場のことなんざ、知ったこっちゃねぇって顔しやがる」


誰も反論できない。


それが現実だった。


――


玲奈は、その場にいない。


すでに呼び出されている。


査問。事情聴取。


「拳銃の携帯は適正だったのか」

「発砲は必要だったのか」

「そもそも所属はどこなのか」


事件そのものよりも、

“手続き”が問題にされている。


「……くだらん」


彩香が、初めて口を開いた。


小さな声。


だが芯が通っている。


「助けた命より、書類か」


それ以上は言わない。


言えば、壊れるからだ。


――


その頃。


別の場所では、別の評価が下されていた。


「大変衝撃的な映像となっていますので、子供には絶対に見せないでください」


あの声。


三好さつき。


彼女の生中継は、評価されていた。


混乱の中で、感情に流されず、

事実だけを正確に伝えた。


「現場報道の模範」


そう評され、後日――


報道大賞を受賞する。


本人は知らない。


自分の取材が事件の引き金になったことも。

そして、その終わりを見届けたことの意味も。


――


夜。


ヒロ室は静かだった。


誰も騒がない。


誰も笑わない。


ただ、それぞれが考えている。


何が正しかったのか。


答えは出ない。


――


瀬戸内の海は、今日も静かだ。


だが、その水面の下では、確かに波が広がっている。


一発の銃声。


一つの判断。


それが生んだ波紋は、まだ消えない。


そして――


この物語も、終わっていない。

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