ep12
夜明け前、塔の食堂には三人の人物がいた。
「彼には、できれば手荒な真似はしないで欲しい」
椅子に腰掛けたエリオが、食卓の正面にいる人物に向かって冷静に話しかけていた。足元の床の上では、使い魔である小さな竜のランベルトが死んだように眠って動かない。
「フォルカーも、落ち着いて話を聞こう。……もう遅いかも知れないが」
そう言って視線を、隣の椅子に座ったフォルカー──否、椅子に縛り付けられているフォルカーに向けて、苦い顔をする。元騎士の男は手足を拘束されて、この場で何の役にも立たない状態で存在していた。
エリオの正面にいる男は随分と背丈があるようで、長い体をもてあますようにして椅子に腰かけている。紋章付きの礼服を身につけた、灰色の長い髪のその男が、フォルカーに視線を向けた。
「手荒な真似をしたのは、彼……」
男は食卓に頬杖をついたまま、感慨も見せず淡々と告げる。顔立ちだけなら年の頃はフォルカーとそう変わらないようにも見えるが、老人の落ち着いた佇まいにも、幼児の無造作な振る舞いにも思える。
ただそんな様子でも、まるで隙がないことだけはフォルカーも剣の経験から分かった。
彼の衣服に付いた紋章は、フォルカーが森に入る前に町で見かけた兵士たちと同じものだ。その兵士たちを伴って来たのが彼だった。
「フォルカーは、君達が私を退治に来たと思ったんだ。もう誤解はとけているから害は与えない。……そうだろうフォルカー?」
エリオは灰色の髪の男に告げてから、フォルカーにいくらか宥めるような視線をよこした。だがその目からまだ何も諦めていないという意志を見て取ったのか、ため息をつく。
「全く、君がそんな血気盛んだから、そうやって取り押さえられるんだ。ナヴァ卿はその気になれば、君なんか簡単に従わせられるぞ。私の呪いに惑わされない《本物の大魔術師》だからね」
エリオの言葉に、ナヴァと呼ばれた男は億劫そうにフォルカーを見た。
「……個人的にはどうでもいい。けど、国からの依頼だから……それなりの対応はする」
偉大なる魔術師ナヴァは、ある国から、強い呪いを持つ魔法使い──エリオを保護する依頼を受けていた。
彼等は空の白む前にこの塔に到着すると、騒ぐ使い魔の竜を昏倒させ、抵抗したフォルカーを拘束し、エリオと『話し合い』をしたいと言った。
兵士達は、食堂の外で待機をしている。エリオを見て《呪い》に心捕らわれることがないように、彼等は抵抗者を拘束する以外ではほとんど姿を見せなかった。
ナヴァは、フォルカーに視線を向けた。
「ヴァレーリオ翁は優しい……。お前は、運がいい」
彼は、エリオのことをフォルカーの知らない名で呼ぶ。大魔術師の彼には、エリオの本当の姿が見えているのだと言う。だからこそ、ここへ来たのだ。
森の中の、世界で一番美しい、呪われた魔法使いを捕らえるために。




