6 防御系魔法
着陸した場所は、明らか魔獣のいた場所だった。折れた木に、引っかき傷のある木、所々血も飛んでいる。
「今夜はごちそうかもしれないな」
貴族の食事を超えるごちそう!これは気合い入れないとだな。肉を破壊しないように。
「パン。これ飲み込んでおけ」
パパンが持ってきたのは、小さな赤い宝石のような欠片だった。
(魔法の欠片?)
「マホウノ カケラ?」
「ああ。おそらくこれは、ボンゴラッレの欠片だ」
(ボンゴラッレ)
「ボンゴラッレ」
「防御系の魔法だ。自分をシールドで覆うことができるが、完全に外と遮断する魔法だ。身を守れるが、攻撃もできない。パンには不要だがな」
自分が強すぎて攻撃のことしか考えてしなかったが、当然防御系もあるんだよな。
いらないから今後も考える予定はないが。
「そこに落ちていたんだ。この辺りで砕かれ、それを餌と間違えた動物が魔獣化したんだろうな」
サイズ的にも衛生的にも、これなら何のためらいもなく飲み込める。
「この辺りは防御系の魔法が出やすい場所だ。他にも見つかるかもしれん」
(オレが防御したらどうなるんだろ。誰も攻撃できないってこと?)
「オレガ ボウギョシタラ ドウナルンダロ。ダレモ コウゲキデキナイ ッテコト?」
「どうだろうか。とにかく強くすることばかり考え防御系魔法のことなど考えもしなかったからな。魔法なしで無敵級なら、当然誰の攻撃も効かないんだろうな」
オレって本当に強いんだなとつくづく思う。
(無敵級ってことは無敵ではないんだよね)
「ムテキキュウ ッテコトハ ムテキデハ ナインダヨネ」
「……無敵を想定してある。何となく級と言っているだけだ。気にするな」
気にはなるが、まあいいか。
メキメキメキ
遠くで木が倒れる音がした。
「あそこだ!急げ」
パパンに続いて走り出した。
「何をしている!?飛べ」
こんな障害物だらけのところで!?
「急がねば退治できないぞ!」
それもそうだ。
とにかく飛ぶ。
スピードを上げつつ木を避ける。はずが、木に当たり、折れた。
まずい。こんな予定じゃない。
魔獣の元へ着く頃には後ろに道ができていた。
さあ、魔獣はどこだ?
まだこのあたりにいるはずなのに、見当たらない。そんなに素早い動物なのか?ピョンタは逃げ足が速いと言っていたな。魔獣化したピョンタは美味いのだろうか
ゴンッ
ズサーーッ
頭に何かがものすごい勢いでぶつかってきた。鈍い音を立てた次の瞬間、勢いのあまり転倒したオレは、5メートルほど地面を滑った。
何だ!?
あまりに突然の出来事で、状況が把握できない。追い打ちをかけるように、上から何かが落ちてくる。
強いこのボディのおかげで、この攻撃は効かない。何かが跳ね返ったのだけは見えたが、動きが速すぎる。目で追ったがすぐに見失った。
「パン、大丈夫かー!」
パパンが走ってくる。
(やべっ。パパン!逃げろ!)
「ヤベッ。パパン!ニゲロ!」
「え?」
次の瞬間、パパンが倒れた。
こういう時って、人が転ぶのもスローモーションに見えるんだな。パパンの足元を黄色っぽい何かが駆け抜けた。
「ッダ!」
パパンが鈍い声を上げた。
(リスだ!パパンそのまま伏せとけ!)
「リスダ!パパン ソノママ フセトケ!」
返事はない。
(脳震盪か。まずいな)
「ノウシントウカ。マズイナ」
バキバキバキ
すぐ目の前の木が倒れてくる。その先にはパパン。
(パパン!)
「パパン!」
大急ぎでパパンに覆いかぶさる。
木が背中にぶつかり、砕け散った。
(っぶな)
「ッブナ」
リスどこだ。
枝が折れる音がした。
(そこか!)
「ソコカ!」
急いで飛ぶ。
が、もういない。
そっちで木が倒れる。
速度を上げて向かう。
もういない。
走る音がする。
さらに速度を上げる。木にぶつかった。
いない。
また別の木が倒れる。
加速する。木をなぎ倒す。
いない。
気配がする。
さらに加速する。木々をなぎ倒すことなど気にしていられない。
リスはいない。
(これはリスとオレのスピード勝負)
「コレハ リスト オレノ スピード ショウブ」
(リスより速く。リスの先へ行け。握りつぶしてやる)
「リスヨリ ハヤク。リスノ サキヘ イケ。ニギリツブシテ ヤル」
リスの通った道を先読みする。
読みが甘いのか、いない。
(クッソリス)
「クッソリス」
その時視界で捉えたのは、腹部から血を流しているパパンだった。
(は?)
「ハ?」
近づいてみると、ひっかき傷がある。
さっき木についていたものと同じだ。
(パパン!パパン!死ぬな!)
「パパン!パパン!シヌナ!」
「ン……」
(パパン!)
「パパン!」
慌てて傷口を押さえ止血する。
(パパン頼む)
「パパン タノム」
(だめだ。血が止まらない)
「ダメダ。チガ トマラナイ」
(くそッ。オレ強いんじゃないのかよ)
「クソッ。オレ ツヨインジャ ナイノカヨ」
「ウッ……パパンは大丈夫だ。幸い傷も浅い。魔獣をどうにかしてくれ」
(防御系の魔法があればパパンを守れたんだ)
「ボウギョケイノ マホウガ アレバ パパンヲ マモレタノニ」
「軽い脳震盪を起こして起き上がれないだけだ。全く問題ない」
後ろから走ってくる足音が聞えた。
(来た!)
「キタ!」
全神経を耳に集中させる。
(ここだ!)
「ココダ!」
手を伸ばし、走ってきたリスを掴む。黄色と黒の縞模様だ。
手のなかで暴れている。
(捕まえた……)
「ツカマエタ……」
右から音がする。
(まだいる!)
「マダ イル!」
もう一度耳を澄ませる。
ガサガサッ
(そこか!)
「ソコカ!」
手を伸ばし掴む。
先に捕まえたリスと比べてかなり大人しい。見比べると体は同じ色だが、先に捕まえた方は目が真っ赤になり吊り上がっている。今捕まえた方は可愛らしい。それに大きい。
「キュッ」
魔獣化したリスをみて、寂しそうな不安そうな顔をしている。
「親子、だろうな」
(親子……)
「オヤコ」
「子のために持ち帰った餌が魔法だった、といったところだろう」
(……この子、どうにか治せない?)
「コノコ、ドウニカ ナオセナイ?」
「残念ながら無理だ。パンにできるのは、その子を退治し、魔法を飲み込む。それだけだ」
(そんな……)
「ソンナ」
「魔獣化してしまう動物が増えることがないよう、魔法を探して、探して、探し出すしかないんだ」
魔獣化したために殺さなければならない命。
魔獣化しなかったために生き続ける命。
自分の両手に握られた二つの命の重みを感じた。
(同じなのに)
「オナジ ナノニ」
パパンがそっとオレの頭を撫でた。
「楽に逝かせてあげよう。親には見せるな」
(うん)
「ウン」
親の方をパパンに託す。
「キュゥ、キュゥ」
何かを察したのだろうか。親が必死に鳴いている。
二人から見えないところまで離れ、暴れるリスの首を折った。
手の中でリスは、動かなくなった。
近くの木の根元に穴を掘り埋める。
二人のいる場所まで戻ると、親リスが静かに俯いていた。見えてはいないはずだ。何かを理解しているのかもしれない。
「魔法は回収できたか?」
(あ)
「ア」
「忘れたのか」
(やべ)
「ヤベ」
大急ぎで子リスに駆け寄る。
後ろでパパンのため息が聞こえた。
穴から掘り出し、お腹を開く。赤い魔法が入っていた。ボンゴラッレの残りだな。
誰にも取られないように急いで飲み込む。
・パスータコレ・
パスータコレ。
(そうだ。これパパンに聞かなきゃだ)
「ソウダ。コレ パパンニ キカナキャダ」
子リスを埋め戻し、急いで戻る。
(パパンの怪我、手当てしないと)
「パパンノ ケガ、テアテシナイト」
戻るとパパンが親リスを撫でていた。
(急いで戻ろう。手当しないと)
「イソイデ モドロウ。テアテシナイト」
「ああ」
パパンが親リスに別れを告げた。
(まだあんまり動かない方がいいよね。オレが連れてくよ)
「マダ アンマリ ウゴカナイ ホウガ イイヨネ。オレガ ツレテクヨ」
「助かる。一番最初に突っ込まれたときの足がズキズキと痛むんだ」
見ると、ズボンの上からでもわかるほど、右足首が腫れている。
パパンをお姫様抱っこする。
「……逆が良かったな」
(ああ。変態なんだった。この人)
「アア。ヘンタイ ナンダッタ。コノ ヒト」
「娘をお姫様抱っこ。ムフ。夢だね」
(落とそうかな)
「オトソウカナ」
「夢だろう。着飾った娘を。ムフ」
(頭一発殴ったら夢の世界に行かれるんじゃないだろうか)
「アタマ イッパツ ナグッタラ ユメノ セカイニ イカレルンジャ ナイダロウカ」
「私は息子をそんな風に育てた覚えはないぞ」
(育てられた覚えがないぞ)
「ソダテラレタ オボエガ ナイゾ」
飛行中に会話との両立できなさすぎて、なんでも話すことに抵抗が一切なくなった。むしろこっちの方が楽でいい。意識するだ、しないだ、あれこれ考える必要もないし、これなら魔法の出力が途切れる心配もない。
「パパンとしては、息子が何を考えているかよく分かって大歓迎だが、戦うときに作戦が筒抜けなのは痛手だと思うぞ」
(あれ、今のも喋ってたオレ?)
「アレ、イマノモ シャベッテタ オレ?」
「ああ」
(確かに作戦筒抜けはまずいか)
「タシカニ サクセン ツツヌケハ マズイカ」
「息子がどんなAVで抜くのか知れるのは最大の利点だな。ムフ」
(そうだ。変態なんだった。この人)
「ソウダ。ヘンタイ ナンダッタ。コノ ヒト」
「一緒に見るかい。ムフ。性別が変わってショックだったが、息子もいい」
(見ねえわ!そもそもAVを見ねえわ!っつか、パンダが抜くってなんだ!)
「ミネエワ!ソモソモ AV ミネエワ!ッツカ、パンダガ ヌクッテ ナンダ!」
「パンダだって抜くだろう。抜いたっていいじゃないか。照れちゃって。かわいいな。私の息子は」
ドンッ
「ああ!私が悪かったよ。可愛い可愛い私の息子。もうAVの話は妄想するだけにするから、落として行かないでくれ!うう。そういえば急に引っかかれた傷が痛みだした。頭も痛い」
あれ?
(あーーー!)
「アーーー!」
「な、なんだ!?」
(今日はごちそうのはずだったのにー!)
「キョウハ ゴチソウノ ハズ ダッタノニー!」
「アハハハ。どのみちコトラじゃ、ろくに食べられないだろう」
(コトラ!?コトラっていうのか!リスじゃなくトラ……)
「コトラ!?コトラッテ イウノカ!リス ジャナクテ」
「リス?なんだそれは」




