5 仲直り
「東に2キロほどのところで、魔獣の目撃情報が出ている。今日の食料のためにも行こう」
朝食を食べ終え片付けをしながら、パパ、、ンが言った。
東か。西に行きたいが、まだギクシャクしているのに、そんなこと言いにくい。魔獣をどうにかしないといけないのには違いないし、食料もいる。
ジェットの調整を試してみるのにもちょうどいいか。光の量を調整すればいいんだな。
そういえばエルドゴス ファルムの方の名前何ていうか聞き忘れた。
ボッ
指先から、5センチほどの火が出た。
(うわッ!)
「ウワッ!」
「どうした」
(火が!火!指先から火が出た!)
「ヒガ!ヒ!ユビサキカラ ヒガ デタ!」
「火?!フッフッフーー!消えない!パン、落ち着け。落ち着くんだ。まさかショートしたか!」
パパンが手に息を吹きかけながら指先を見ている。
「いや、この出方、魔法だ!魔法使ったのか?」
慌てて首を振る。
「しかし魔法が!……暴走か?!」
まだジェットの速度調整もできないのに、こんな森の中で火の魔法を使うなんて、恐ろしくてとてもできない。
早く使ってみたい気持ちはあるが。なんてったって炎系最強なんだ。だが最強の魔法を持っているのが、元大魔法使いの脳を持つ無敵級のパンダだからな。ひと殴りで山一つ簡単に崩壊させられるんだから、炎なんて出したら焼き尽くすだろ。
そんなの恐ろしくて――
(あ)
「ア」
「なんだ!」
さっき光の調整をイメージした直後に、魔法の名前知らなくてスペルで呼んだぞ。無機質な声は喋らなかったから念じてはいない。
が、脳内で喋ったは喋った。
まさかそれで魔法発動したのか!?
「なんだ!」
さっきの出来事を説明すると、パパンが冷静さを取り戻した。
「ならばおそらく、光を消すイメージをすれば消える」
光を消すイメージ――
火が消えた。
(消えた!)
「キエタ!」
「ふぅ」
魔法に名前がついている理由が分かった。
(魔法って声に出さなくても発動するんだ)
「マホウッテ コエニ ダサナクテモ ハツドウスルンダ」
「いや。普通はしない。スペルを声に出して唱えるのが絶対条件だ。だが強い魔法使いの中には、まれに唱えずに発動できる者がいると聞く。記憶はなくともパンは、大魔法使いだ。できても不思議ではない」
(元じゃないの?)
「モト ジャナイノ?」
「肉体的にはな。だが、脳自体は大魔法使いのままだ。そのまま移植したんだから」
中身も元で間違いないが、機能面では大魔法使いのままなのか?
ならばオレは一応大魔法使いに転生したのか。
「だが、持っていた魔法はすべて帰ったようだし、大魔法使いの器だというだけで、やはり元だな」
(魔法が帰る……?)
「マホウガ カエル……?」
「ああ。体得した魔法は、魔法使いの死後、自然界に帰っていくんだ。さっきパンが取ってきたイグニースも、元は大魔法使いが持っていたものだ」
だとすると魔法の数には上限があるってことか。
もしかして裏組織の人間って人殺しもするのか?人を殺せば魔法も破壊できる……。
考えるな考えるな、そんなこと。
今なんて言ってたっけ?魔法の名前。
イグ、なんとか。イグ、イグー……
「大丈夫か」
ん?何が?
「さっき会話の機能がまだうまく使えないと言っていただろう。今黙っていたのも、それのせいかと思ったんだが」
ああ。今のは別に念じてないし。
「……」
ん?
あれ、オレ喋ってなくないか!?
(今オレ喋ってなかったよな!?)
「イマ オレ シャベッテナカッタヨナ!?」
「ああ。今のは何か言っている予定だったんだな。覚えておく。
本当は何か言っているが、使い慣れない機能のせいで話していないだけなのか、本当に何も言っていないのか見極められるように、きちんと顔を見て話を聞くことにしたよ。誰とも関わらない生活が長く、そんな基本的なことも忘れていたようだ。すまなかったな」
(いや、今のは……ああ、今のは慣れてないせいだけど、ちょっと前のは、ただ考え事してただけだから、本当に何も話してなくて)
「イヤ、イマノハ……アア、イマノハ ナレテナイ セイダケド、チョット マエノハ、タダ カンガエゴトシテタ ダケダカラ、ホントウニ ナニモ ハナシテナクテ」
「そうか。それなら良かった。色々とすまなかった」
パパンが深々と頭を下げた。
(オレの方こそ、使い慣れてないとはいえ、結果的に暴言吐いたみたいになって、すみません)
「オレノ ホウコソ、ツカイナレテナイ トハイエ ケッカテキニ ボウゲン ハイタ ミタイニナッテ、スミマセン」
つられるように頭を下げる。
「私にも色々と事情があってな、焦っていたんだ。それでイライラしてしまって、本当に情けない」
(事情……)
「ジジョウ」
「ああ、いつか話せるときが来たらな。今はまだ」
(ああ、違う違う。今のは聞くつもりなかったやつ。使い慣れてない方)
「アア、チガウチガウ。イマノハ キクツモリナカッタ ヤツ。ツカイナレテナイ ホウ」
「ハハハ。そうか。いや、だが、きっといつか話さねばならない日が来るんだろうとは思っている。今ではないが、いつか話すよ。そのときは聞いてくれ」
(分かった)
「ワカッタ」
「さあ、出発しようか。連中に魔獣が取り込まれては困るからな」
パパンが飛行機に乗り込み、離陸した。オレも続く。また離れては厄介だ。
あれ、そういえばオレ、普通にパパンって呼べるようになった。パパンもオレのこと普通にパンって呼んでるし。
一件落着か。
よし。じゃあ速度の調整してみるか。
イメージする光の量を増やして――
ビューーーン
ヤベ。
ものすごい勢いでパパンを追い越してしまった。後ろに豆粒ぐらいの大きさのパパンが見える。
光を減らして減らして――パパンが来るのを待とう。
「おーい!大丈夫かー?」
(大丈夫ー!)
「ダイジョウブー!」
パパンが加速して近づいてくる。
イメージする光の量と出力量が比例するのは理解した。だが、どのぐらいの光の量でどのぐらいのスピードかを理解するには、時間がかかりそうだ。ひたすら練習するしかないやつだな。
「まだ魔法の調整も上手くいかないって言ってたな」
パパンが追いついた。
うん。どのぐらいの出力量でどのぐらいの威力かが掴めない。
「ちょっと戻るぞ。通り過ぎた」
え、うそ!?
(あ!オレまた喋ってない)
うわっ
「ア!オレ マタ シャベッテナイ」
会話に意識を向けた途端、魔法の出力が途切れ落ちかけた。慌てて出力したが、この両立も時間がかかりそうだ……。
(はあ……)
「ハア」
「今度はどうした?」
(ああ……今度は喋ってる)
「アア……コンドハ シャベッテル」
「アハハハハ。大変そうだな」
(パパンが作ったくせに他人事かよ!)
「パパンガ ツクッタ クセニ ヒトゴト カヨ!」
「アハハハハ。それはそうだな。ハハハ。しかしパン。大切なことを忘れているぞ」
(大切なこと?)
「タイセツナ コト?」
「使命その4。
かわいさを守り抜く。かわいく。そして、かわいく。いついかなる時もかわいく」
(そういえばこの人変態なんだった)
「ソウイエバ コノヒト ヘンタイ ナンダッタ」
「まさかそんなわけないだろう。さあこの辺りだ。降りよう」
(そんなわけしかないだろ!)
「ソンナ ワケシカ ナイダロ!」




