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違う!違う!脳じゃない!〜転生したオレは、パンダ型ヒューマノイドの脳らしい〜  作者: 梶皣 もゆら


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3 パパンとパン

 火を起こしていると、パパが魔獣化していない動物を狩ってきた。慣れた手つきで解体し始める。


「こいつらは、生で食べても美味くないが調理するとめちゃくちゃ美味いんだ」


 生で……。


(ドラギーナも生で食べるの?)

「ドラギーナモ ナマデ タベルノ?」


「あいつは生が一番だな」


 生で……。

 まあ、金魚だと思えばただの刺身か。驚くほどのことでもなかった。


「ところでだ。パパと呼ぶのを辞めてもらいたいんだ」


 はい?

 自分からパパだと名乗りませんでした?


「可愛くて若い女性を想定していたから、パパだと名乗ったが、君に呼ばれるのは気持ちが悪いッ。パッとしない君だとッ」


 はああ?!

 まだパッとしないとか言うのか、こいつ。そして間違いなく変態だな、こいつ。


 そしてなんだその動き。頭を抱え大げさに悶えてみせてくる。


「そこで考えたんだ。パパンと呼んでくれ。

パ(↘)パンじゃなく、パ(↗)パンだ」


(パパとの違いは?)

「パパトノ チガイハ?」


「全然違うだろう。パパだと、ウエッとなるが、パパンだと、おう(ムフ)っとなるだろう」


(…………ほう)

「ホウ」


 クソっ。間が大事なのに、発声すると伝わらない。もどかしい。


「そして君の名前も考えた。親子なのに、いつまでも君というわけにもいかないだろう」


 親子と言うほどの強いつながりは何も感じないが。そもそも、親子なら岩に突っ込まないように対策とるだろう。無傷だったけど!


「パンだ」


(見たまんま……)

「ミタ マンマ」


「違う。パンだ」


(だから)

「ダカラ」


「違う!パン、だ」


(うん。オレ、パンダ)

「ウン。オレ、パンダ」


「違ーう!パンだ。パ・ン」


(……ダ)

「ダ」


「この、とんちんかんめ!パンだと言っているだろう。パ・ン、だ」


(……ほう)

「ホウ」


「いいか。君は今日からパンだ」


(知ってる。さっき鏡見た)

「シッテル。サッキ カガミ ミタ」


「あーークソッ。パン。パ・ン。パン。分かったか、パン」


(パン……)

「パン」


「そうだ!パンだ」


 最初からパンの後ろにだ(・)をつけるな、パンダに向かって。紛らわしい。


「パパンとパン」

(パパント パン)


「なかなかいいだろう」


(センス、壊滅してるのか)

「センス、カイメツ シテルノカ」


「なーにを言ってるんだ君は。センスの塊だろう。パパンとパンだぞ」


 この人にセンスを求めるほうが間違っていた。真っ赤なハート型のうん◯(ピー)の人だもんな。


「よし。では。パパンとパンの運命の出会いに、乾杯」


 いつの間にか出来上がっていた料理。ウサギに似た動物の足の肉をぶつけ合った。


 これこれ。貴族の料理。

 料理以外では言いたいことは山積みだが、やっぱり貴族のオレには、こういう料理がぴったりだよな。

 この料理のためだけに、魔法を集めているようなもんだ。


「最低限必要な魔法が揃ったら私は家に帰るからな。食べられるものと食べられないものを見分けられるようになってくれ」


 え?


 え、え?


「今持っているのはピョンタ、そしてこっちはツノギューという動物だ。ピョンタは逃げ足が速いだけで攻撃されることはほとんどない。育児の時期は多少荒いが、基本的にはビビリだ。容易に捕まる。長い耳に肉は入っていない。皮を焼いて食え。

 ツノギューは動くものを視界にとらえると真っすぐ突進してくる。角を掴んでギュンッだ。仕留められることはないが、気絶している間に血抜きを終えれば大丈夫だ」


 え、オレこの料理食べられなくなるの?

 え、じゃあなんのために魔法集めるの?


「料理系の魔法は特に存在しないからな。火系やなんかはあるが、それだけだ。まあ、調理しなくても美味くないというだけで、この辺の肉ならそのまま食べられるから安心しろ。

 皮を剥ぐ技術ぐらいは身につけたほうがいいだろうな。皮は厚く固い動物が多い。いくら君、ンンッ、パンでもオススメしない」


 えー。一気にやる気が削がれたな。


「まだ私も魔獣化した肉を食べた事がない。一度食べてみたいんだ。次に魔獣が現れたら、食べられる形を維持したまま殺してくれ」


(魔法集めるの辞めようかな)

「マホウ アツメルノ ヤメヨウカナ」


「何だ急に?!もう怖気づいたのか!?」


 あ、やべ間違えた。この機能ほんと不便だな。


(いや、今のはそうじゃなくて)

「イヤ、イマノハ ソウジャナクテ」


「たくさん魔法を使えるようになれば、魔法を組み合わせて新たな魔法を生み出すこともできるようになるから、魔法を作るのも面白いぞ」


 魔法を作る、ね。

 それすれば、不便な話し方も解消できるか?

 あれ、そういえば。


(魔法のスペルってどうしたら分かるの?)

「マホウノ スペルッテ ドウシタラ ワカルノ?」


「辞典がある。誰かが新たに生み出した魔法を除いて、全ての魔法が網羅されているから安心しろ」


(パパ、、ンはさっき辞典使ってなかったよね)

「パパ、、ンハ サッキ ジテン ツカッテナカッタヨネ」


「当たり前だ。スペルは全て覚えている」

 

 パパ、、ンが飛行機の尾翼の下を開け、ガサゴソしている。あそこ荷物入れなのか。


(へー。そうなんだ)

「ヘー。ソウナンダ」


「ほれ」


 パパ、、ンが片手で持ってきた辞典は、厚みが30センチほどのB4判だった。


(は?!)

「ハ?!」


 厚いしデカい!


(待て待て待て待て。それを全部覚えているのか?!)

「マテマテマテマテ。ソレヲ ゼンブ オボエテイルノカ?!」


「もちろんだ。君、ンンッ、パンも覚えるといい。これを持ち運ばなくて良くなる」


 受け取ると、腕が地面に叩きつけられるかと思った。見た目通りだが、重すぎる。

 これを全部覚えているのも驚きだが、これを片手で持ってきたのも驚きだ。


(パパ、、ンは覚えてるけど持ち運んでるの?)

「パパ、、ンハ オボエテルケド モチハコンデルノ?」


「持ち運んでいる……まあ、飛行機に乗るときは結果的にそうなっているな。重さ調整に尾翼の下に入れてあるんだ。飛行機に乗るときは返してくれ」


 返したらオレ、何もできなくなるけど。

 かと言ってこれ持ち歩いてても何もできないか。ジェットに影響でそうだし。


 それにしても、本当に何者かが知りたい。


「こういう古い本には、稀に魔法が挟まっているから、探してみろ。薄くて透けてるから意識していないと気が付かないがな」


 パラパラとめくってみる。薄くて透けているもの。


「この本にはないぞ」


 ああ。パパ、、ンが魔法使いじゃないから期待はあったが、まあそうだよな。


「明日は些か危険なエリアを飛ぶことになる。よく食べてよく休め」





 翌朝は、日も昇らぬうちに叩き起こされた。


「さっさと起きろ。出発するぞ」


 まだ夜……。


「昨日言った通り、これから通るところは些か危険だ。気をつけろ」


 そう言い残し、さっさと離陸してしまった。


(いや、まだ頭働いてない……)

「イヤ、マダ アタマ ハタライテナイ」


 ん?頭はオレであって、だからオレが脳で、働いてないのはオレで……、


 ああ!パパッ、、ン!待って!

 大急ぎで魔法を発動する。まだ調整が上手くできない上寝ぼけているので、速度が上がらない。


 どんどん引き離されていく。スピードを意識ってどうすればいいんだ?速くしようとしてもなかなか上がらないんだよな。


(パパー、、ン!ちょっと待ってー)

「パパー、、ン!チョット マッテー」


 もう声が届かないほど離れている。見えているうちに追いつきたい。


(お、曲がった)

「オ、マガッタ」


 ってことはここを斜めに行けば追いつける!下は一面山。障害物なし。

 よし。


 グンッ


 うわーーーーーー!


 斜めに飛び始めて数秒後、突然ものすごく強い力で下に引きずりこまれた。


 バシッ

 バキバキッ

 ガサガサ

 バキッ


 枝葉がクッションとなり受け止めてくれたおかげで地面に叩きつけられることはなかったが、枝を折りながら徐々に落下していく。

 止まったか?


 バギバギッ

 ドーーン


 結局地面に叩きつけられた。

 体が変な形をしているのが分かるが、こういうときに痛みを感じないのは新鮮だ。


 パパ、、ン、これで完全に見失った。

 

 気力の問題で、その場に寝転んだままでいると、木々の隙間から鹿の頭をした馬のような動物がオレを睨んでいた。地面を蹴っている。

 どう見ても威嚇だな。


 あれも食えるのか?


 捕まえてみるか。


 体勢を整え、威嚇し返す。パンダの威嚇というものが、いまいちピンと来なかったので、とにかく体を大きく見せてみた。


 効果あり。


 真正面から突っ込んでくる。ツノギューの捕まえ方をやってみよう。角を掴んでギュンッだな。


 角を掴んで。


 ギュ――


 ボキッ

 ゴン


 背負投げの要領で投げようとしたところ、角がきれいに取れた。体は当然、これっぽっちも持ち上がらず、見事に突っ込まれた。角があればいいってことでもないんだな。

 このボディではダメージを食らうのは向こうだが、強度があるだけの話で、立っている力の話ではない。きれいに吹き飛ばされた。


 もう殴るしかない。


 ひとまず手に持っている角を振り回してみる。ぶつかった衝撃で頭部から流血している鹿頭は挑発に乗り、体勢を整えると再びこちらに向かってきた。


 拳を後ろに引き待ち構える。


 こんっ


 鼻のあたりをめがけて殴ったはいいが、思ったよりも軽い音がした。加減しすぎた。

 鹿頭には大して効いていない。むしろ火をつけた感さえある。鼻息が荒くなった。


 オレが強すぎて力加減が難しい。これが強者の悩みか。


 馬の尻尾がバシバシ言っている。怒ってんな。

 もう一回殴るか。


 ブルース・リーの挑発の手をやってみせる。鹿頭が突っ込んでくる。

 拳を後ろに引き待ち構える。


 ごつっ


 さっきより強めにするが、軽い脳震盪を起こす程度で狩れない。


 早く攻撃系の魔法を探そう。


 もう一度突っ込んでくるのを待ち、かわす。しっぽを鷲掴みにして、跳び乗った。かっこよく跨れたらよかったが、かわいさ重視のパンダ型ヒューマノイドがそんなことできるわけがない。わき腹にしがみつくのが精一杯だ。


 うわっ

 うおっ


 オレを振り払おうと鹿頭が暴れる、暴れる。何とか跨ったは言いが、力加減を誤ったな。左脇腹の一部を骨剥き出しにしてしまった。やらかした。


 まあ、食べるのに支障はないはず。

 このまま鹿頭が疲れるのを待とう。


(あれ、そういえば馬に鹿ってバカだ)

「アレ、ソウイエバ ウマニ シカッテ バカダ」


 暴れる鹿頭の背中で思った。


 ガサガサガサ


 近くで何かが動いている。

 何か別の動物が来たか?この状態だと捕まえられないな。


 木々の間から顔を見せたのは……


「……」


(……)


「君、ンンッ、パン、何をしているんだ。マルーの上で」


 よく考えたら今、下から馬、鹿、パンダという、奇妙奇天烈極まりない姿をしている。


(食べられるかなーと思って。アハ。アハハハハ)

「タベラレルカナー トオモッテ。アハ。アハハハハ」


「ああ。鍋が絶品だが、なぜここにいる?」


(あー、飛んでたら急に下に引っ張られて)

「アー、トンデタラ キュウニ シタニ ヒッパラレテ」


「当然だ。言っただろう。些か危険なエリアを飛ぶと。下降気流だ」


 引っ張られたのは下降気流だったのか。


「だから気流の安定しているところを飛んでいただろう。なぜ着いてこなかった」


 え、オレ怒られてる?いや、確かに着いていかなかったのは悪いけどさ。いきなり叩き起こされて、魔法使えるわけないじゃん。まだスピード調整もうまくできないのに、寝ぼけてて無理でしょ。


「黙っていないで何とか言ったらどうだ」


 あーもう!本当に厄介だこの機能。脳で念じたはずなのに!


(クッソ面倒くさい)

「クッソ メンドウクサイ」


「なんだと」


 ああ!逆!

 違う!


(伝えたいときはこっち)

「ツタエタイトキハ コッチ」


(よし。できた)

「ヨシ。デキタ」


「……何を一人で話している?」


(まだこの会話の機能、うまく使えないんです。魔法も)

「マダ コノ カイワノ キノウ、ウマク ツカエナインデス。マホウモ」


(オレはオレなりにやってるんで、ペース合わせてもらえるとありがたいんですけど)

「オレハ オレナリニ ヤッテルンデ、ペース アワセテ モラエルト アリガタインデスケド」


「私にも事情がある。できるだけ早く移動したいんだ。君、ンンッ、パンのペースに合わせてばかりもいられない。それに君、ンンッ、パンと喧嘩をしている暇はない。そいつを食べたければ、とっとと捕まえて着いてくるんだ」


 はあ!?合わせてばかりって、一度も合わせてくれたことねえだろ!

 しかもなんだ。そのいちいち、「君、ンンッ、パン」ってやつ。うざいわ!君でいいだろ。


 待ってくれる様子もなく、かといってこんなところに一人取り残されても、生きる術をまともに持っていない。

 鹿頭の首に抱きつき、魔法を使う。マルーと呼ばれたか、お前。


 マルーごと空を飛ぶ。散々オレを振り落とそうとしていたマルーは、すっかり大人しくなった。空飛ぶのが初めてなのか?羽ついてないしな。


 ヤケクソで速度を上げるよう意識して、なんとかパパ、、ンに追いついた。


(本当に面倒だな。パパンって呼ぶの。そもそも自分もオレのことパンって一発で呼ばないくせに)

「ホントウニ メンドウダナ。パパンッテ ヨブノ。ソモソモ ジブンモ オレノコト パンッテ イッパツデ ヨバナイクセニ」


「努力している最中だ。君、ンンッ、パンにパパと呼ばれたくはない。君、ンンッ、パンも努力してくれ」


 また間違えた。イライラしてると余計にうまくできん!


 意地でもパパって呼ばれたくないんだな。自分だってイライラしてるくせに、わざわざ二度も言い直してまで返事するんだから。いっそパパって呼んでやろうか。

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