3話「出発への支度」④
先ほどとは打って変わって、ここは冒険者たちの熱気で溢れておった。
「ルアナ様、こちらです」
羊のような受付嬢が案内した先には熊がいた。
いや、クマのような男が立っていた。
「次の試験内容は、この試験官との戦闘です。魔法でも近接攻撃でもなんでもいいです。あなたの戦闘スタイルを見せてください」
「なるほど、この男と戦えばいいのじゃな」
儂は、熊に目をやる。
「よろしくな、お嬢ちゃん。新人に痛い真似はしたくないが、これは試験だ。真剣にやるから、そのつもりでよろしくな」
熊は優しそうな声で忠告をする。
あくまでこの熊は試験官なのだと。
「うむ、よろしくなのじゃ。じゃが、儂は手加減はせんぞ?」
魔力制限された状態でどれほどやれるのか実験したいからな。
しかもこの男、なかなか強そうじゃ。
これなら、試すのも十分じゃろうて。
「はははは!いい心がけじゃねえか、新人!さあ、試験内容はシンプルだ!今のお嬢ちゃんの全力を見せてみろ!お前らァ、新人だ!場所を空けろォ!」
熊は力強く咆哮しながら、儂との距離を取る。
それを聞き、冒険者が端へとよる。
その結果、簡易的なバトルフィールドが完成した。
「さあ、試験を開始するぞ!」
実技試験が始まったのじゃ。
「さて…まずは小手調べからかの」
儂は手のひらで軽く小さな水球を作る。
「これが、限界か…」
これが今ある魔力量での魔法か。
まあ、ここまでは予想していた。
ここからが本番だ。
「魔法使いか!だが、その魔力量で!そのちっぽけな魔法で何ができる!?」
熊は笑うように、いや違う、脅すように吠える。
その気配は本当の熊に近いな。
「ふっ、魔法の可能性を侮るでないぞ?」
儂は水球を巧みに操り、凝縮させる。
魔法は想像力、そして魔力操作が重要じゃ。
魔力量が少ないから何もできないわけではないのじゃ。
儂は凝縮した水を小さな矢の形に変える。
そして、熊の顔の横を狙い、矢を放つ。
放たれた矢は儂の思い通りに正確に動き、熊の頬を削った。
「ふふん、どうじゃ?」
うむ、完璧じゃな。
儂はドヤ顔で熊を挑発した。
「ははは!素晴らしい魔力操作!だが!その魔力量ではお前は何もできない!」
次の瞬間、熊はものすごい速度で儂の方へと突っ込んできた。
儂は避けようとするが、相手の方が早い。
「ちっ、テレポート…!」
避けようと咄嗟に魔法を発動させようとする。
じゃが、魔力不足で魔法が発動しなかった。
「ぐはっ!」
儂は熊の体当たりに直撃はしなかったが、かすっただけで大きく後ろへと吹っ飛ばされてしまった。
「敵はお前のことを待ってくれたりは絶対にしない!そんな時、お前は魔力不足を言い訳にするのか?それでは大切なものは守れない!」
熊は力強く咆哮する。
…そんなこと、儂が1番知っておる。
敵は待たない。
言い訳も聞いてくれない。
ただ弱き者は強き者に痛ぶられるだけ。
儂は、儂の弱さ故にもう二度と仲間を傷つけないと誓ったのじゃ。
ならば…
「手加減はなしじゃ」
儂は静かに魔力を体に流す。
それは無い筋力を補うように、正確に体に纏わりつく。
「…身体強化」
儂は静かに魔法を発動した。
「身体強化か!やはり魔力操作は素晴らしいな!だが、それとこれは話が別だ!」
熊は再び方向をあげ、儂の方へと突進してくる。
それは先ほどよりも早い速度であった。
だが、儂は冷静に動きを観察する。
…今じゃ。
「天神流…浮燕!」
儂は熊の体制を受け流して、崩す。
崩した一瞬の隙を使い、拳に魔力を込め、打撃をした。
熊はそのまま大きく吹っ飛ばされていった。
「…この程度か」
精密な魔力操作で無駄をなくしても、本来の力には程遠い。
…儂もまだまだじゃな。
儂はジッと敵の動きを観察する
「うおー!あの新人、くまやんをぶっ飛ばしたぞ!」
「あんなの、初めて見た…!」
「はあ!?ヤバすぎだろ」
いきなり周りから喝采が起こる。
「なっ、何が起きてるんじゃ…?」
儂は動揺を隠せないでいた。
「新人で俺をぶっ飛ばした奴なんて、滅多にいないからな」
熊は既に起き上がり、儂の元に来ていた。
仕留めたつもりじゃったんだがな。
…冗談じゃよ。
「すごいですね、ルアナ様。これにて実技試験も終了です。お疲れ様でした。カードの発行に少々時間を要するので好きに休憩しててください。では」
受付嬢はカードを発行しに戻っていった。
「すまないなお嬢ちゃん。綺麗な服汚しちまって。」
熊は申し訳なさそうに服の心配をする。
…いや、体の心配じゃ?
ひとまず、儂は服を確認する。
ラヴェルから貰った服は土で汚れ、ところどころ布が切れていた。
「あぁ、ラヴェルからの服がぁ」
気に入っていたのに…
儂は膝から崩れて落ちていった。




