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3話「出発への支度」⑤

儂は今、窓口近くの机でくつろいでいた。

そして、ボロボロになった服の変わりに、受付嬢の制服を着ていた。

ボロボロになった服はあの熊が直しているところだ。


「少しくつろぎすぎではないか?」

実技試験が終わった後にすぐ合流した凛が呆れたように言う。


「うーむ…疲れたのじゃ」

魔力制限下では流石に疲労も早そうじゃ。

もう、儂は動きたくない…


「ルアナ様、カードの発行と服の修復が終わりました。こちらです」

儂はブリキ人形のように起き上がってカードと服を受け取った。


「ん?Dランクか…まあまあじゃな」

これが高いか、低いかはわからないが、一つ確認しとこう。


「ちなみに、黎明の開拓者はランクにすると?」

ぼぅ、とした頭で聞く。


「ランクにするのも烏滸がましいですが…。Sランク以上です」

受付嬢は神妙な面持ちで返した。

Sランクか…

なら、今の儂はまだまだじゃな。


「ルアナ、早く着替えてこい。昼ごろにはフォルエルングを出発した方がいい」

凛が急かすように言う。


「ん。わかったのじゃ」

儂はうとうとしながら更衣室へと向かった。


――


「儂、復活じゃ!」

着替えたおかげで少し頭がスッキリした。


「ルアナ、どうやってここからランゲートに行くんだ?」

凛は腕を組みながら儂に聞いてくる。


「馬車じゃよ」

というか、馬車しか知らない。


「魔道列車はダメなのか?」

魔道列車が通っているのか。

だが、儂の意見は変わらないのじゃ。、


「ゆっくり、行きたいのじゃよ」

魔道列車もいい。

だが、ゆっくりと進んでいくのもまたいい。

それが隠居の醍醐味じゃと思う。

あとで隠居のススメをちゃんと読むかの…


「では、そろそろお暇するかの」

そうして、儂は凛と共にギルドを出る。


「ルアナ、この道をまっすぐ行けば必ず衛所に着く。馬車は衛所前の停留所で探せよ」

凛は親切に儂に伝える。


「凛はここでお別れかの?」


「ああ、これから私はマーツ城に用があってな。ここでお別れだ」

なら仕方がない。

ここでお別れじゃな。


「なら、またいつか会おう、凛よ」

出会い一瞬、縁一生。

また会えるよう口約束は大事じゃ。


「ああ、その日が来るのを楽しみにしている」

凛は優しい目で儂を見て、そう言った。

そうして、儂と凛は別れたのじゃった。


――


「…あ、あれ、ここ、どこじゃーーー!!」


道をまっすぐ歩いたはずなのに知らぬ間に謎の広間の前に立っていた。

儂の門出はもう少し先になりそうじゃ…


――


「ルアナ…あいつ何者だ?」

つい口を突いて出た。


ポンコツだが、可愛らしい一見普通の女の子。

鈍感で、ギルド内で見られていることにすら気づかない。

年齢にしては喋り方が年寄り、知識が少し古い。


だが、それならまだ常識の範囲内。


「…今日のルアナの違和感はすごかった。」


実力がおかしい。


まず、魔力量。

確実に居酒屋の時より減っている。

そんなことありえないはず。


次に、技。

魔力操作が卓越している。

ただルアナは魔法に自信を持っていた。

だが、あの動きは?

同じ武の道を進む者として、あの動きは私に迫るものがあった。


魔法も武術も超一流。

自身はそれに気づかない。

さも当たり前のように。


「まさか、本当に黎明の開拓者ルアナ・アーヴァントなのか…?」

一瞬身震いしたが、それはないはずだ。

受付嬢が言っていたのが全てだ。

瞳の色も髪の色も違う。


黎明の開拓者第3位、月紅の魔女ルアナ・アーヴァント。

彼女は救世主と教皇と並び、今も存命する黎明の開拓者として有名だ。

だが、ルアナ含めこの3人もここ何十年以上公の場に姿を出さない。

しかし、今もここフォルエルングの王立魔法研究機構で籠っているという噂はある。


「まさか、本当にルアナが黎明の開拓者ルアナ・アーヴァントなら…」

そう、何十年も表舞台に姿を出さなかったのだ。

その容姿について、伝承が間違っていてもおかしくない。

…完全には否定し切れない。


「もしかしたら、何か起こるかもしれないな」


白夜の継承者、暮羽凛として時代を見極めなければ。


久しく高揚する気持ちを抑え、

マーツ城へと向かっていった。

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