4話「表現の魔法」①
凛と別れてから1日、儂は辺境の街「ランゲート」に向かうべく、教育都市「エア」に向かう馬車に乗っていた。
馬車の中にはあまり人がおらず実に静かで、快適に揺られていた。
そんな中、儂は隠居のススメをじっと眺めていた。
隠居10ヶ条
1.隠居は怠けではない。
2.仕事に使われるな。仕事を使え。
3.自然に触れよ。だが、甘く見るな。
4.歩みは緩やかに、心は自由に。
5.速さに流されるな。だが、便利さは活かせ。
6.自分で動け。必要なときは頼れ。
7.小さな日々を積み重ねよ。
8.ときには離れよ。だが、帰る場所を持て。
9.出会いを大切に。縁は思いがけず続くものだ。
10.力に頼りすぎるな。本当に必要なときだけ使え。
――縁 か…
ラヴェルや凛。
城を出てから多くの縁を作った。
彼らとはまたすぐ出会えそうじゃな。
魔力制限もしたのじゃったな。
これからの生活は少し、いやとても辛いぞ…
だが、不思議と後悔はないのじゃ。
儂はフォルエルングでのことを思い出しつつ、10ヶ条に目を通していく。
風が優しく儂の頬を撫でる。
「ん…」
風に誘われ顔を上げると、遠くに壮大な山々がそびえたっている。
風に吹かれ揺れる草の海、これからの旅の道のりが山の向こうへと伸びていた。
「自然に触れる…か」
今まで自然なんて考えもしなかったのじゃ。
木々に触れ、風を聞き、水を楽しむ。
『隠居のススメ』に出会ってからというもの、儂の世界はどんどんと広がっていった。
「ふふ、隠居生活が楽しみじゃ」
儂は期待を胸に再び隠居のススメに目を戻した。
自然を甘く見るな…か。
確かに自然は怖いからのお。
だが、まあ大丈夫じゃろう。
そうそう出くわすことはないのじゃから。
「んぅー…っと」
儂は腕を上げて、大きく伸びをした。
ランゲートに向かうにつれて徐々に心のざわめきが大きくなる。
まずは、家を探さないとな。
ランゲートの人たちはどんな人たちじゃろうか。
儂は『隠居のススメ』を見ながら、これから始まる新たな生活に思いを馳せていた。
「ねえねえ、お姉さんって…魔法使いなの?」
儂は本から目を離して、声の方を見る。
気づけばまだ幼そうな少女が、緊張と不安混じりにすぐ目の前に立っていた。




