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10/25

便利なゴミ箱!

短編小説投稿しました!

ぜひ読んでみてください!

都内某所、政府が手配した最高等級セキュリティ施設(超豪華タワーマンション最上階)。


防弾・防爆ガラスと私服の特殊部隊に固く守られた室内で、春奈はふかふかのキングサイズベッドの上でゴロゴロと転がっていた。手には国費で注文した特上海鮮丼。ウニを口に運ぶたび、とろけるような甘みが広がる。


「ん〜〜!! うまい! 家賃タダ、出前タダ、大学の単位も自動で『S』……。引きこもり生活、完全に極めちゃったな〜」


首相官邸の地下深くまで巻き込み、大人が血の汗を流して大学の単位問題を処理してくれたことなど知る由もなく、春奈は至福の溜め息をついた。


「さてと……お引越しでちょっと待たせちゃったし、配信繋ぐかー」


春奈はルンルン気分でスマホを操作し、ドット絵のアイコン【異世界ザッピング】をタップした。


画面が暗転し、半透明のウィンドウとともに【CH.04 グランベル王国・王宮調理場】のリアルタイム映像が映し出される。


そこに映っていたのは——調理台の横に山盛りの新鮮な卵や油の樽、酢の瓶をズラリと並べ、落ち着かない様子で調理器具を磨いたり、ソワソワとウロウロしながら作業を進めている十数人の巨漢料理人たちの姿だった。


『あ、みんなー。お待たせ。引越しでちょっとバタバタしててさー』


春奈がスマホのマイクに向かって呑気に話しかけた、その瞬間。


「「「は、ハルナ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」


王宮厨房が揺れるほどの歓声がスピーカーから響き渡った。

料理長のバルドを筆頭に、手にしていた包丁や泡立て器を慌てて置き、画面に向かってワサワサと群がってくる。


「お越しくださった! ずっとお待ちしておりましたぞ!」

「材料も器具もすべて横に揃えて準備万端です! 本日こそ……料理の歴史を塗り替える『幻の聖油和え(マヨネーズ)』の製法を……どうかお授けください!!」


画面越しに伝わってくるあまりの熱量に、春奈は「うわ、うっとうしいな……」と言わんばかりに引き気味な顔をして、スマホを少し顔から遠ざけた。


『あー、はいはい。声大きいって……。マヨネーズね。めちゃくちゃ簡単だよ。要は「卵黄」と「油」と「酢」と「塩」を、分離しないように混ぜるだけ』


「「「な……なにぃぃぃぃぃぃ!?!?」」」


バルド料理長たちが目を見開いた。


「卵黄と……油と酢!? 待ってくださいハルナ様! 油と酢は反発し合い、絶対に混ざり合わないのがこの世のことわり! それを混ぜ合わせるなど、古代の錬金術でも不可能ですぞ!?」


『あー、普通に混ぜたら分離するけどね。コツがあるのよ』


春奈はウニ丼の箸を置くことすら面倒くさそうに、あくび混じりで説明を始めた。


『まず、ボウルに卵黄だけを入れる。そこに塩と、お酢を少し入れる。で、ここからが一番大事なんだけど……油は最初、ほんの数滴ずつ垂らしながら、泡立て器で死ぬ気で混ぜるの』


「数滴ずつ……死ぬ気で……混ぜる……!」


バルド料理長が汗だくになりながら、羊皮紙に猛スピードでメモを取る。


『油を一度に入れすぎると分離して失敗するからね。少しずつ油を足していって、白っぽくドロッとしたクリーム状になったら完成。あ、最後にちょっとだけカラシを入れると味が引き締まるよ』


「……そ、それだけで……あの伝説の調味料ができるとおっしゃるのですか……!?」


『うん。腕がめちゃくちゃ疲れるけど、筋力あるなら余裕でしょ。やってみな』


「「「ははぁぁぁぁっ!! ただちに実行いたします!!」」」


ここから、王宮厨房によるマヨネーズ作りの実践が始まった。


大きな銀のボウルに卵黄と塩、果実酢が投入される。

ソワソワしていたバルド料理長が自ら巨大な泡立て器を構え、部下が慎重に油を「一滴……また一滴」と滴らせた。


「ぬおおおおおアアアアアッッ!!」


バルド料理長の極太の腕が残像を描く! 音速を超える速度で泡立て器が回され、卵黄と油が強力に乳化されていく。


「油、追加だ! 焦るな、数滴ずつだぞ!!」

「料理長、腕の筋肉が限界です!」

「構わん! 混ぜろ! ハルナ様の神託を完遂するのだぁぁぁぁ!!」


異世界最高峰の料理人たちが汗と涙を撒き散らしながら、必死の形相で泡立て器を振り回す。その暑苦しい光景を、春奈は「手で混ぜるとか大変そうだな〜」と人ごとのようにウニ丼を食べながら眺めていた。


そして作業開始から三十分。


「で……できた……!!」


ボウルの中に完成したのは、艶やかな光沢を放ち、ぽってりと濃厚な薄黄色のクリーム——。


バルド料理長は震える手でスプーンを取り、出来立てのマヨネーズをすくい取った。

料理人全員が息を飲み、その瞬間を見守る。


バルドが、そっと口に含んだ。


「…………っ!?」


次の瞬間、バルド料理長はガバッと目を見開き、スプーンを落としてその場に膝から崩れ落ちた。


「り、料理長ーーー!? 毒ですか!? 失敗ですか!?」


「う……うま……うますぎるぅぅぅぅぅぐああああああっっ!!」


バルドは天を仰ぎ、滝のような涙を流した。


「な、なんだこのまろやかさは……!? 卵の豊かなコク、果実酢の洗練された酸味、そして油の濃厚さが完璧な調和を奏でている! 生野菜につけても良し、炙った肉に塗っても良し! これぞまさに……『神の調味料マヨネーズ』!!」


「「「ハルナ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」


画面の向こうで十数人の大男たちが一斉に大歓声を上げた。


『あ、うまくいったんだ。よかったねー』


春奈が感情の薄い声で淡々とお茶を飲んでいると、画面の向こうでバルド料理長が涙を拭いながら画面へすがりついてきた。


「ハルナ様……! このような奇跡の製法を授けていただき、なんとお礼を申し上げればよいか……! あ、そうだ! 厨房の足しにもならないかもしれませんが、これをお持ちください!」


『え、お礼なんて別にいいのに——』


言い終わるより早く、バルドが厨房の棚からゴサッと引っ張り出してきたものを画面に向かって投げつけた。


ドガァァン!!


スマホの画面が一瞬発光し、空間がぐにゃりと歪む。

次の瞬間、スマートフォンをすり抜けて、緑色の小瓶に入った【万能傷薬】と、シンプルな銀の【収納の指輪ポシェットリング】が、ベッドの上にドサリと落ちてきた。


「うわっ、相変わらず手加減なしに投げてくるなぁ……」


春奈は嫌そうな顔で身を引くと、落ちてきた【収納の指輪】を拾い上げ、右手の小指にはめてみた。

すると、頭の中にシステムメッセージのような案内が浮かび上がる。


『王宮厨房の仕入れ用指輪。ミカン箱10箱分くらいの荷物を放り込めます』


「へぇー、ミカン箱10箱分か。厨房の買い出し用ツールなのね。でも十分じゃん」


ためしに、ベッドの横に置いてあった食べ終わりの海鮮丼の空き容器とポテチの袋に意識を向けると、シュンッ! と一瞬で消え去り、指輪の中に格納された。


「うわ、すご……! ゴミ箱まで歩かなくていいじゃん! 部屋の片付け、一瞬で終わるやつだこれ……!」


春奈は「地味に便利!」と少しだけ口角を上げ、部屋の中のゴミや脱ぎ捨てたジャージを次々と指輪の中に吸い込ませていった。


一方その頃——セーフハウスのモニタールーム。


「おい、なんだこの反応は……!?」


警護チームがモニターを見て首を傾げていた。

春奈の自室に設置された高感度センサーが、微かな空間の歪みと、これまでよりは控えめだが謎のエネルギー反応を検知したのだ。


「春奈様の部屋でまた空間接続が発生! 新たな未知のアイテムが持ち込まれたようです!」

「ただちに神崎所長へ報告! 『危険度は低そうだが、異世界の便利アイテムを取得した模様』と伝えてくれ!」


防音扉の向こうでは、神崎所長たちが「今回は世界が滅びるような物じゃなさそうだ……」と胸を撫で下ろしていた。


しかし、当の春奈はそんな大人の安心など知る由もない。


「ふぅ、部屋が一瞬で綺麗になった〜。家賃タダ、出前タダ、単位も自動、掃除まで一瞬。異世界アプリ、ほんと神だな」


世界一安全な豪華セーフハウスのキングサイズベッドで、春奈は至福の顔になりながら、ふかふかの布団の中に潜り込むのだった。


翌朝。都内某所の政府極密セーフハウス。


午前11時を回った頃、重厚な防音扉の前に神崎所長と佐藤研究員の姿があった。

二人の顔には寝不足の影が濃く刻まれていたが、その瞳には抑えきれない知的な興奮と緊張がみなぎっている。


昨夜、警護チームから「春奈様が異世界から新たな物体を受領した」との緊急報告を受け、官邸の許可を得て駆けつけたのだ。


「失礼いたします、春奈様……」


神崎が恭しくドアを開けると、室内にはまだ起きぬけのボサボサ頭をした春奈が、ふかふかのベッドの上であくびをしていた。


「あ、神崎さん。おはようございますー」


「おはようございます。春奈様……昨夜、異世界より新たな物品をご受領されたとお伺いし、急ぎ伺った次第なのですが……」


「あー、これですか?」


春奈はベッドの横から、緑色の手のひらサイズの小瓶をポイと差し出した。


「これ、向こうの厨房のおじさんが『万能傷薬』とか言って投げてきたやつです。要らないんであげますよ」


「か、感謝申し上げます……!」


神崎所長は震える両手で慎重に緑の小瓶を受け取った。その時、神崎の視線が春奈の右手に止まった。


春奈が何気なく右手(の小指にはめた銀の指輪)をかざすと、ベッドの横にあった食べ終わりのポテチの空き袋が、シュンッ! と空間から掻き消えるように消えたのだ。


「「「……ッ!?」」」


神崎と佐藤、そして背後にいた警護チームの動きがピタッと止まった。


「は、春奈様……!? い、今、ポテトチップスの袋が……消え……!?」


「あ、これですか?」


春奈は右手の小指にはめたシンプルな銀の指輪をチラッと見せた。


「これ、向こうの買い出し用の指輪らしくて。ミカン箱10箱分くらいの荷物を中に仕舞えるらしいんですよ。部屋のゴミとか入れるのにめっちゃ便利で」


「亜、亜空間収納インベントリ……! 質量保存の法則と時空間物理学を根底から覆す、超高度な空間跳躍・収容技術……!?」


神崎所長はガタガタと全身を震わせ、今にも跪きそうな勢いで食いついた。


「は、春奈様……! そ、その指輪も……! その指輪もぜひ当研究所で研究解析をさせていただけないでしょうか……!! 地球の物理学史が五百年以上躍進いたします……!!」


「えー……嫌ですよ。これ部屋のゴミ捨てに行くのめんどくさいから重宝してるんですもん」


春奈は即座に指輪を後ろに隠し、嫌そうな顔で拒否した。


「そ、そこを何とか……! 国の物理学の発展のために……!」


「ダメです。これないと部屋散らかるし」


「ぐぬぬ……!」


神崎所長は喉から手が出るほど欲しかったが、ここで春奈の機嫌を損ねて引きこもりをやめられたら元も子もない。苦渋の決断で、神崎はぐっと拳を握りしめた。


「わかりました……! 今回は諦めます……! ですが春奈様、もし……もし次回、異世界から似たような『空間収納系のアイテム』が追加で届いた際には……! ぜひとも我々にお譲りいただけますよう、何卒……何卒よろしくお願い申し上げます……!」


「あー、次に同じようなの来たらあげますよー」


「感謝いたします……!!」


神崎は涙目になりながら深々と頭を下げ、緑の小瓶を抱えて退室していったのだった。

読んでいただきありがとうございます!

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