27.2つ目の石碑がある町、ヴァルガ
2つ目の石碑がある町、ヴァルガは大火山の頂上近くにある。白壁の町並みが続き、地面の砂まで白い。赤い花を多くつけた低木が美しいコントラストを生み出していた。標高が高いから涼しいはずなのだが、暑い。その理由は、言われずとも分かった。
「すっげ~、マグマが滝みたいになってる」
「どこに流れてるんだ……というか、なぜ固まらない」
この町に入ってすぐ、奥にそびえたつ山頂が目に入った。しかもそこから赤いマグマが流れ落ちている。落ちた先は建物で見えないが、ファンタジーすぎる。
「あれはね、山頂から流れ出たマグマが、少し下にある穴に入ってそのまま火山に戻るのよ」
「なんだその自然界の永久機関は……」
この町でも観光スポットになっているそうで、度胸試しでどこまで穴に近づけるかを試す馬鹿が毎年命を落とすらしい。ゼインは今まで町の説明だけだったが、そこにフーリエの観光情報が加わった。
「行きたい行きたい!」
陽が絶対行くとはしゃいでいる。
「そんなとこ誰が行くか……」
「冒険者ギルドに行く途中にも面白いとこがあってね~」
フーリエは俺の意見を完全に無視しガイドを始める。昼食にヴァルガ名物ピリ辛マグマ炒めを食べ、噴火の時に飛んできたという巨大な岩を見た。道中、宿の部屋も押さえていて、これが寄り道なら文句も言えるがギルドまでの最短距離上にあった。
「そしてこちらが、冒険者ギルドよ」
目的地である冒険者ギルドは大きな白い建物で、ギルドの印が入れられた赤いステンドグラスが印象的だった。中は昼過ぎだというのに混雑していて、受付で何組かが順番待ちをしている。俺たちはいつも通りゼインが受付に行き、俺と陽は暇つぶしにクエストを眺めていた。フーリエは隣にいるものの、クエストではなく冒険者たちを見ている。
貼られているクエストは火山に棲む魔物の討伐がほとんどで、Aランクが並んでいた。心なしか、ここにいる冒険者たちは風格があり強そうだ。前勇者につながる情報がないかと、念のため隅から隅まで確認する。
ふと、色あせて今にも剝がれそうな紙が目に留まった。
……これ、前も見たな。人探し、水色の髪に眼鏡……ゆるく波うつ髪は肩ぐら……ん?
顔を左に、フーリエに向けた。今彼女はフードを被っているが、水色のウェーブがかかった髪で眼鏡もかけることがある。
「なあフーリエ」
「何?」
「これ、お前に似てると思うんだけど」
俺がその紙を指させば、陽ものぞき込んできた。フーリエの視線が文字を追って行き、苦々しい顔になる。
「人違いだわ」
「いや、そんな顔じゃないだろ」
「そうだよ。まんまフーリエじゃん」
この世界に水色の髪はそう多くない。俺たちが無言で見続けていると、観念したのか声を低くして呟いた。
「……私、実は家出中なの」
「えぇ、てことは家族が心配してるじゃん。だからこうやって探されて」
「違うわ」
陽の言葉を遮ったフーリエの声音は固く、氷のような冷たさがあった。
「うち、けっこう名家だから、娘がいなくなったとなれば一応探している体を取らないと外聞が悪いもの」
辛辣な言い方に、陽が「そんなことは……」と言葉を詰まらせる。
「だって、本当に見つけたいなら名前を書くでしょう。つまり、そういうことよ」
この話は終わり、とフーリエはゼインの方に歩き出した。その背を見送る陽の沈んだ声が届く。
「なんか、複雑な家っぽいな」
「まあ……誰しも触れられたくないことぐらいあるだろ」
「たしかに、流希はたくさんあるもんな」
「は?」
さらっと流れ弾が飛んできて、問い詰めようとした時にゼインの声がかかった。
そして4人で石碑の場所や前勇者、死なない魔物についての情報を聞き、カイに連絡を入れた。さすが大きな町なだけあって、いくつか得られたものがある。
ギルドから出ると、メモした内容をもう一度口にする。
「ソーマが訪れた記録があって、クエストを達成した。勇者教には宣教師がいて、数日前にこの町を訪れていた。それで、死なない魔物は情報なし……か」
情報のピースが少しずつしか埋まらないのが歯がゆい。しかも、全体像が何一つわかっていない。ゼインに背中を叩かれた。焦るなと言われた気がする。
「次の町からは勇者教の宣教師も探してみよう」
「……そうだな」
そして、夕食はフーリエ一押しの有名なヴァルガ料理が集まった店で激辛溶岩鍋を食べた。市場の屋台で香辛料が山になって売られているのを見た時から思っていたが、やはりこの町は辛い料理が名物のようだ。
フーリエとゼインは辛い料理はいけるようで、「辛い~」「くせになる」と汗をかきながら食べ進めていた。俺にすれば少し辛くて舌がヒリヒリする程度なので問題ない。陽は辛くない料理を頼み、好奇心から俺の料理を一口食べて悶絶していた。馬鹿にお子様舌という情報が追加された。
「えっ、大災害が起こって海が無くなるの?」
甘酸っぱいソースがかかった小魚の素揚げを口に入れ、陽は目を丸くする。俺たちがいた時代が違うことが判明してから、道中や食事中に少しずつ情報交換をしていた。
「日本海がほとんど陸になったからな。内陸で新鮮な海魚はなかったし、寿司は高くてまずい」
「だからか~。あんなに寿司うまいのに……」
陽は寿司が食べられないことにずいぶんショックを受けていた。よほど好きだったのだろう。話は当時流行っていたものへと移っていく。知らない話も多くて、普通に面白かった。
夕食後、陽とゼインは大きな町に着いたんだからと酒場へ行くと肩を組んで雑踏に消えていった。懲りないやつらだ。
フーリエと俺は先に宿に帰ることにする。その途中に公園があったので、フーリエは日課の魂観測をするとベンチに腰をかけた。一人で先に帰るのも何なので、俺も付き合うことにする。
フーリエは太い黒ぶちの眼鏡をかけると、空を隅々まで見回す。俺も眺めてみるが、魂なんてものは見えない。
「今日も変化なし」
眼鏡を外してレンズの汚れが気になったようでケースに入っていた布で拭き始めた。
「その眼鏡で魂が視えるんだろ? 魔道具なのか?」
前から気になっていたので、この際聞いてみる。
「え、これ? ……う~ん、正式な魔道具……ではないわ」
フーリエにしては歯切れが悪い。両方のレンズをふいて、つるを畳む。視線はそのまま眼鏡に落としていた。
「これ、父が使ってた眼鏡なの」
フーリエの父親ということは、亡くなったという魔王のことだ。軽い気持ちで訊いていいものではなかったと後悔するが、フーリエは淡々と続ける。
「私、魂を視る力は強いんだけど、制御はうまくなくて見え過ぎることがあるの……でも、不思議とこの眼鏡をかけたら大丈夫なのよね。お父さんが助けてくれているのかも」
はにかんだフーリエはその眼鏡の向こうに父との思い出を見ているようだった。家族の話に深入りはしたくない。俺が立ち上がろうとしたその時、フーリエが顔を向けてきた。目が合ってしまい、立つタイミングを逃す。
「ねぇ。流希君の家族は?」
心臓が跳ねた。脳内を家族の最後の姿が駆け巡る。口が渇いた。
「――いない」
それだけ答えると、俺は立ち上がって歩き出す。
「そんな気がしたわ……」
俺の魂の状態を視たからだろう。ひどい状態だとか、擦り切れているとか散々言ってくれた。
「あの、流希君! おせっかいだけど、話したくなったら話してくれていいから!」
どうもカウンセラーのつもりらしい。俺はフーリエの言葉を背中で受け、軽く手を振る。
「別にいらない」
俺は誰の助けも必要としていない。これは俺の復讐、俺とソーマの問題だ。
フーリエが後をついてくる気配がした。そこからは互い無言のまま、夜の町を宿まで歩いた。




