24.メンバーが加わり
フーリエはすでに泊っている宿があるからと、食事後に別れた。明日山頂に向かう馬車があるので、それに乗り今後について詳しく話す予定だ。フードを被り雑踏に消えていく彼女を見送る。
「やべ~、あんな可愛い女の子と旅するなんて夢みたい」
陽は明らかに浮かれていて、俺は冷たい視線を向けるが気付く様子もない。
まだ一緒に旅をするという実感はないんだよな……
王都を出て2か月以上3人で旅をしてきたが、完全に慣れたとはいえない。そこに新たな変化となれば、少し早まったかと気が重くなる。
「お試しな、お試し。合わないことも多いから、期待しすぎるなよ」
ゼインは軽い口調だが、しっかり陽にブレーキをかけていた。背中をポンと叩かれる。
「ほら、クエスト達成の報告に行くぞ」
「――あぁ」
足を踏み出し、俺たちも人が行きかう通りを進んでいく。フーリエと会った噴水がある公園を抜けた。ここで話したのはほんの数日前なのに、ずいぶん前のことのように感じる。
そしてギルドに着くなり俺たちは支部長からの丁重な出迎えを受けた。頭を下げる度に羽が揺れる。そして倒したと聞くや手放しで喜んでいた。
「いや~! 倒してくださると信じてました! さすがはAランク冒険者様たち!」
テンション高く褒めちぎられ、さらに他のクエストを勧められた。これには3人でしっかりお断りをする。明日には発つと話すと非常に残念がっていた。彼の執務机の上に置かれた依頼書の束は見なかったことにする。
俺は視線を支部長に戻し、話題を変えた。
「それで、頼んだ情報のほうはどうなりましたか」
途端に支部長はばつが悪そうに視線をそらした。
「それが……こんな辺鄙な町に届く情報などたかが知れていまして……」
最初から期待はあまりしていなかったが、ここをソーマが訪れた記録はなかったそうだ。
「ユウシャにつきましても、旅人や冒険者の噂話程度でして……強いやつだとか、新しい宗教だとか、てんでばらばらなもんでして。お役に立てず申し訳ない」
支部長は申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、どこも似たような感じなので気にしないでください」
得られた情報に新しいものはない。が、共通点はある。
ご神体や宗教……生き残ったソーマが教祖になった可能性があるのか?
情報が少なすぎて考えても埒が明かないのは分かっていても、考えを巡らせてしまう。俺が今までの情報を組み合わせている間も、クエストを受けてほしい支部長と話を終わらせたいゼインの攻防が続いていた。
引き留めはしつこく、報酬をもらってギルドを出られるまでに1時間以上かかった気がする。疲労が押し寄せ、サンダーウルフを倒した後よりひどい。
日が沈み始めていて、陽とゼインはこれから酒場に行くらしい。俺は遅めの昼ご飯だったこともあって軽く済ませたいから断れば、陽が肩に腕を回してきた。
「え~、付き合いわりぃな流希。フーリエが加入したお祝いしようぜ」
「――本人がいないのに祝ってどうする」
こいつは酒を飲んで騒ぐ口実があれば何でもよさそうだ。ゼインにちゃんと連れて帰ってこいと目だけで圧をかけておく。この前みたいな面倒ごとはごめんだ。
ゼインと目が合えば、任せろと勢いよく頷き返してきた。
「クエストを達成したら一杯。これぞ冒険者の鉄則だ。流希にもおいしい酒を買って来てやるから待ってろよ」
「そうじゃない。先に帰る」
俺は苦い顔で二人に背を向け、宿へと歩き出す。独特な町の景観と、変わった香りの料理。この世界に来て4か月、遠くまで来たと実感させる。
――前勇者、ソーマ。死なない魔物。タコ焼き。宗教。……フーリエ。
旅は進んで変化していくのに、肝心な部分に大きな進展はない。
西日を受け、影が前に伸びている。俺はそれを踏むように足を進めた。
翌日、合流したフーリエは一人旅をしていただけあって小さめのリュック一つと身軽だった。当然マジックバックで、そのほとんどが本で埋まっているそうだ。フードを被っているが眼鏡はかけておらず、普段は使わないのだろう。
馬車は山頂の町と行き来する行商人のもので、魔物からの護衛をする条件で乗車賃がただになった。
「うぇぇ、これに乗るの?」
馬車は幌がついているが、行商用の荷台なので椅子はない。しかも3分の2は商品で埋まっているため、詰めて座る。ゼイン、俺と乗り込み、フーリエはゼインの正面に座った。
「フーリエは嫌じゃない? 一人くらいなら御者の隣に座れそうだけど」
「全然平気、なんなら寝られるわ」
フーリエは自慢げにリュックからクッションを取り出して、お尻の下に敷く。旅慣れていた。陽は「それならいいけど」とその隣に腰を下ろす。
馬車が動き出すと、振動を直接体に感じる。石などで車体が跳ねれば、体が宙に浮いた。その中で、俺たちは改めて旅のルートと今まで出来事を話していく。昨日、ざっくりとした説明はしていたが、詳しい経緯は話さなかったのだ。
「ふ~ん。だからユグラから時計回りに石碑がある町を巡って力を注ぐのね。それにしても、石碑に触れたら前勇者の記憶が見えたって興味をそそられるわ。魔力って魂から生じるものだから、前勇者の魔力の残滓が記憶を見せた可能性はあるかも。二人は同じ異世界人だから魂が近いと仮説を立てて、共鳴か……あ、ごめんつい。考え出すと止まらなくて」
早口で分析と論理の組み立てを始めたフーリエだったが、ハッと我に返って頬をかく。根っからの研究者気質のようだ。
「楽しそうだろ? 石碑を巡ってこの世界を救うんだ。しかもそれだけじゃなくて、前勇者を見つけて、死なない魔物をどうにかして……」
陽は指折り数えている。声を出さずに指があと二本折られたが、絶対ろくなものじゃない。顔を緩ませている陽に対し、ゼインは正面のフーリエに真面目な表情を向けていた。
「俺たちはこんな感じなんだが……そもそも、フーリエの旅の目的は何だったんだ?」
「え、私ですか? えっと……旅の目的と言えるものは特になくて、魂研究が好きなので先月は王都の図書館にこもっていました。今は、各地を周って考えを深めていこうかなって」
「すげ~。やっぱり頭いいんだ。研究の旅だね」
「そんな大層なものじゃないよ。自分にできることは何だろうって、旅しながら考えてるだけ」
陽が感心して屈託なく笑うのに対し、フーリエは照れたのかぎこちない笑みになっていた。
「あ、じゃあ。自分探しの旅ってやつ?」
「自分探し? 何それ」
「自分は何者なんだろ~って悩んで、世界を旅する。なっ、流希」
「お金と時間があればな」
「急に現実ぶちこんでくるじゃん」
二人の会話は弾み、フーリエは小さく笑っていた。今までの旅にはなかった明るさだ。心なしかゼインの表情も柔らかい。
馬車が揺れ、ふわりと外から暖かい風が吹き込む。
――ぬるい
俺は外に顔を向ける。
目を瞑り、あの日の、始まった日の光景を脳裏によみがえらせた。心はざらついていて、生ぬるさが不愉快だ。その苛立ちに安心を覚える自分に、うっすらと口角が上がった。




