23.魔王の娘?
フーリエ・オルビス、20歳。オルビス家は魔法使いの家系であり、魂研究の大家である。魔法理論研究への功績も大きく、一族で最も優秀な者が魔法を修める王、“魔王”の称号を名乗れる。彼女の家は代々魔王を受け継いでおり、その家の一人娘らしい。
それが旅についてくると宣言したフーリエの簡単な自己紹介だった。
正直戦闘後の疲労で頭があまり動かない俺たちは、続きは町に戻ってご飯を食べながら聞くことにした。
適当に選んだ大衆食堂の長机に、奥から俺、ゼイン、陽が座り、向かいにフーリエが座った。まるで面接だ。各々好きな料理を注文し、本題に入れたのは疲労と空腹がましになった頃だった。
「それで、二人を観察したいから一緒に来るって?」
ゼインが分厚いステーキに豪快にかぶりつき、フーリエに水を向ける。フーリエはよくわからない魚のムニエルをナイフとフォークで上品に食べていた。
「一番はそうですが、もちろん皆様にも利はありますよ」
フーリエはナイフとフォークをお皿にそろえて置くと、ナプキンで口を拭った。一つ一つの所作が丁寧で品があり、貴族の可能性が高い。
フーリエは俺たち三人を順に見ると、瞳に自信を覗かせて微笑んだ。
「では、これから私が皆様の旅にどのように寄与できるかについて、お話したいと思います」
面接じゃない。プレゼンが始まった。
「まず、戦闘面です。はっきり言って、この先魔法使い無しは詰みます。今は前衛二人、後衛一人で何とかなっているかもしれませんが、広範囲の殲滅や同時攻撃は魔法でしかできません。何より、誰も回復魔法が使えないというのはどういうことです? 死にに行くようなものじゃないですか」
理路整然。驚いたのか、陽は骨付き肉にかぶりついたまま、ゼインはステーキにフォークを刺したまま固まっていた。俺は研究者タイプだなと思いながら、シチューの塊肉を口に入れる。
「加えて、私は魔法を教えることができます。流希君と陽君の魔力量は桁違いですが、威力がお粗末すぎます。サンダーウルフも消し炭にできないようでは、宝の持ち腐れです。そこで、私が魔法の練度の上げ方を教え、さらなる戦闘力の底上げを行います」
「魔法の練度?」
初耳だった。俺は付け合わせのパンに手を伸ばし、ちぎった。固めのパンだ。
「はい。お二人は魔法を習ってまだ日が浅く、ただ魔法を使っている段階です。修練を積めば、より効率的に、威力の高い魔法が使えるようになります。私はその手助けができます」
「それって、かっこいい魔法が撃てるようになるってこと!?」
「もちろん」
派手さ重視の陽が食いついた。この話が本当かゼインに目で問いかければ、頷きが返ってくる。
たしかに、さっきの戦闘で魔法はあんまり使えなかったからな……
魂の武器のほうが使い勝手がいいが、魔法をおざなりにしていい理由にはならない。
「そして最後に、前勇者に関してです。私の家は魂の研究を生業としているので、当然勇者も対象となります。魂学からの知識や、魂の観測データを提供できるのですが、いかがです?」
フーリエは俺を見据えていた。足元を見られている気分になる。交渉が得意そうだ。俺が言葉を返さずにいると、彼女は「それに」と茶目っ気のある声音で続けた。
「情報を集めるにも、男3人より、可愛い女の子がいたほうが便利ですよ」
ここが決め所と、わざとらしくウィンクをした。実に有効な一撃だ。陽とゼインがやられている。俺はレモネードを飲みながら二人の反応を待つ。
「まあ、ありではあるな。実際攻撃と回復ができる魔法使いは欲しかったし、女性の情報網は侮れない」
「えっ、でも、女の子だよ!? 一緒に旅したら色々まずくない?」
冷静に俺たちにとって有益な面を評価するゼインに対し、陽の方が及び腰だった。その反応が意外だったようで、ゼインは首を捻る。
「別に? 冒険者パーティーでも軍でも女性はいるからな。そりゃ、言動に気を付けないと怒られるが……」
口にしてから表情が曇ったので、過去にやらかしたあれこれを思い出したのだろう。経験者の言は重い。
「私も男性がいる冒険者パーティーに臨時で入ったときもあるので、問題ありませんよ。こう見えて強いので」
「いや、でもさ。……なあ、流希はどう思うよ」
陽はテーブルに身を乗り出し、俺に顔を向けた。陽の戸惑いも理解できなくはない。今まで学校では男女別が基本だった。カイに比べて年が近いのも原因だろう。
「俺は気にしない」
「まじか」
「今提示された情報だけならメリットのほうが大きい。個人的に魂の話には興味あるしな」
「嬉しい。流希君も研究者タイプっぽいもんね」
フーリエは砕けた口調で微笑みかけてきた。
陽は「ん~」と唸っており、そこに食べ終わったゼインがフォークを置く音が重なる。
「お前、変なとこで真面目だな。試しに数日同行してもらえばいい。それで問題があれば解消だ」
実に合理的だ。俺もそれでいいと頷く。
「なるほど! お試しってやつね!?」
陽の納得は合っているようで少しずれている気もするが、面倒になりそうなので深堀りはしなかった。
「では、よろしくお願いしますね!」
フーリエは満足げな笑みをたたえ、食事を再開する。陽は「お祝いだ!」とデザートのメニューを見だした。顔を上げて、フーリエに話しかける。
「ねぇ、フーリエって呼んでいい? あとでケーキ食べようよ。どれがいい?」
この切り替えの早さは相変わらずだ。
コーヒーでももらおうかと考えていると、ゼインも「頑張ったからな~」と壁に書いてある酒のメニューに目をやっている。そこに、フーリエは冷ややかな目を向けた。
「ゼインさん。占いによると、飲み過ぎて災いを呼びますよ」
「それは、占いじゃなくても分かり切っている」
思わず心の声が漏れた。会ってわずかなのに自然に会話が進む。フーリエを交えた食事はまだ終わりそうになかった。




