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勇者に復讐するために、異世界転移したその先で  作者: 幸路 ことは


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2.異世界転移

「成功です! 勇者召喚に成功しました!」


 誰かの声がして目を開ければ、目の前に短めのローブを羽織った若い女が立っていた。異世界物の漫画でよく出てくる魔法使いに見える。


 転移……した? あぁ、これで! 復讐ができる!


 胸に湧き上がる喜びに口角が上がる。立ち上がって周囲に目をやれば、困惑顔の長いローブを着た人たち10名ほどに囲まれている。皆若く、10代から20代に見えた。ざわざわと互いにこちらに視線をやりながら何かを話している。一段高くなった場所に、煌びやかで身分の高そうな青年が立っていて、きっと王様だろう。よくある異世界転移の場面だ。創作は正しかったのかと変に冷静に考えると同時に、興奮のあまり笑いだしてしまいそうになる。均衡が崩れ笑い声が漏れたが、それを大きな声がかき消した。


「やっほおおおおい! 異世界だぁぁぁ!」


 胡乱な顔で振り向けば、もう一人いた。目を引くのが金髪で、制服と身長から高校生だろう。興奮に目を輝かせあちこちに視線を飛ばしているから、すぐに目が合った。薄い茶色の瞳だ。


「うおっと! 茶髪だけどその顔、日本人!? まさかお前も異世界召喚されたの?」


 一気に距離を詰められ、両肩を掴まれた。肩が跳ね、反射的に一歩引いて離れる。


「そう……だな」


 声が掠れて出にくい。


「すっげえええ! こういうのってたいてい一人で召喚されて、勇者様魔王を倒してください〜ってなるのに、面白え〜! あっ、俺、佐藤陽(さとうはる)。お前は?」


 うるせぇ


 圧倒的なコミュニケーション能力の高さに言葉を出せないでいると、咳払いが聞こえた。いつの間にか周りのざわめきは消えている。音が聞こえたほうに顔を向ければ、一段高いところにいる青年がこちらを見下ろしていた。その隣に、先ほど目の前にいた女の魔法使いが立っている。


「こちらにおられるのは、グラハム王国、国王陛下でございます」


 と言われても、傅く義理もないし文化もない。もう一人は「王様だ〜」と呟いて口を開けていた。王は気分を害した様子もなく、一歩前に出ると朗らかに笑いかけてきた。


「勇者よ。我が国を助けていただきたい」


 勇者!?


 奥歯をグッと噛み締める。あの男の姿が蘇った。


「ほら来た! 魔王ですか!? 世界の危機ですか!」


 さらに近くで大声を出され、眉を顰める。こいつ、落ち着きがなさすぎる。王様も話のテンポを崩されたようで、一瞬間が空いた。


「えっと……この世界は崩壊の危機に瀕している。この世界は魔力によって維持されており、それが枯渇しかかっているのだ。10年前にも勇者召喚をしたのだが、あろうことかその者は役目を途中で放棄し、さらに魔力を奪って逃走した」


 10年前の勇者……まさか、あいつか? ん? こっちでは10年が経っている?


「えぇ、そいつひどいですね」


 王側の重い空気と軽い声音の感想との落差がひどい。王は俺たち二人を交互に見ながら話を進めた。


「そこで、お主たち二人にはこの国を救うために、各地の石碑を巡って魔力を注ぎ、最果ての神殿で大規模魔法を行う手伝いをしてもらう。慣れない土地で不安もあるだろうが、役目が終われば元の世界に送り届けるゆえ、安心して役目を果たされるといい」


 王は淀みなく話を先に進める。頭の中で情報を整理しないと置いて行かれそうになった。


 石碑、魔力、魔法か……魔王と戦えとか言われなくてよかった


「石碑に魔法……え、ちょっと待って、この世界、魔法があるの!?」


「魔法かっけぇ」と目を輝かせていて、良くも悪くも普通の男子高校生という感じだ。たぶん年下だろう。


「あぁ……ある。この世界の詳しいことは、あとでカイに聞いてくれ。そして、勇者たちにはもう一つの大事な役目を伝えておきたい」


 周りの魔法使いたちの空気が変わり、緊張が走る。それが少し気になったが、深く考える間もなく王が続きを口にした。


「前任の勇者だが、10年前から行方不明のままだ。奴は大罪人だ。先代の王である我が父を殺し、この国の主要な貴族、魔法使いたちも惨殺した。ここにいる者たちは皆若いだろう。幼くして、父母を殺されたからだ」


 王が前勇者の罪を話すにつれ、空気が冷えていく。それは馴染のある憎悪で、口角があがる。隣の高校生は「ひどい……」と呟いた。


 ここでも極悪人か。クズすぎて笑えてくるな


「しかも、世界を維持する魔力を奪ったため、あと……5年で世界は滅ぶ」


 空気が固まった。俺は息を飲み、隣のやつもさすがに絶句している。


 異世界に行けばあの男がいるとは思っていたが、これは予想外だったな……


 5年で滅ぶなら、それまでに見つけて復讐をしなくてはいけない。地球と繋がっている異世界は1つだけとされているし、別人である可能性は低いだろう。何よりあんな異常者が何人もいてたまるか。


 仄暗い光を宿した瞳の王と、暗く澱んだ視線が交錯する。


「勇者たちよ、前勇者を探しだし――殺せ」


 血が湧き立った。思わず一歩前に出る。


「その男の特徴は!? 名前は何と言いますか!」


 王は目を丸くし、隣のやつも俺を凝視してくるが気にしない。今は、少しでもあの男の情報が欲しい。


「前の勇者は――30代の男で、黒髪黒目。最後に見た時は痩せていて異様な雰囲気だった。名前は――ソーマだ」


 王の声音は固い。彼も家族を殺されたのだ。


 黒髪、黒目……ソーマ


 目の色は分からないが、男の髪は黒かった。


「私からは以上だ。あとのことはカイに任せる」


 王は手短に話を終わらせ、部屋を後にした。続いて魔法使いたちも出ていき、残されたのは俺と、もう一人の地球人、そしてカイと呼ばれていた女魔法使い。その姿が消え、一瞬で目の前に現れた。


「うわっ、びっくりした。瞬間移動!?」


 これには俺も驚いたが、それより隣のやつの反応のほうが心臓に悪い。


「驚かせちゃってごめんね。改めて、私はカイ。転移魔法の天才で、あなたたちが旅に出られるように、この世界のことと魔法を教える役を任されているわ」


 カイの腰まである髪は薄紫で、ふわりとした前髪は短い。形のいい眉と濃い紫色の瞳が知的で活発そうな印象を与えていた。年は20代後半ぐらいか。薄紫色の短いローブの中央には青い石が嵌ったブローチが光っていて、その下は緻密な刺繍が目を引く上着とつながった細身のロングドレスだ。スリットが入っていて、ヒールの高いショートブーツが覗いていた。男受けしそうな、お姉さんという印象だ。


「カイさん! 俺、佐藤陽っていいます! 陽って呼んでください! 18です! 異世界でこんなきれいなお姉さんに会えて嬉しいです!」


 やっぱり食いついた。というか、今18って言った? 同い年かよ


 このあとに自己紹介するのが嫌すぎるが、カイは促すように俺を見ている。


「……三上流希(みかみるき)。年は18」

「うわ、まじで!? 同い年だ~」


 反応が思った通りすぎて舌打ちをしたくなる。カイは俺と佐藤を交互に見ると、軽く頭を下げた。


「突然異世界に連れてこられ、困惑しているわよね。しっかりサポートするから、何でも言ってね!」


 頭を上げたカイは溌溂とした笑顔。佐藤は大きな声で「はい!」と答えていた。


「流希も、これからよろしく!」


 佐藤に人懐っこい笑みを向けられ、俺は無言のまま頷く。

 あんまり仲良くしたくないタイプだけど、これも目的を果たすため。旅が始まったら、どこかに置いていけばいいし

 そんなことを考えているとも知らないで、佐藤は呑気に「俺、異世界に行くの夢だったんですよね~」とカイに話しかけている。それを聞きながら、カイは「まず城を案内するね」と歩き始めた。

 王たちが出ていった方とは反対のドアから出る。両開きの扉を抜ければ長い廊下が続いていて、壁には等間隔に旗が据えられていた。手前に傾けられた旗の紋章が目に入った瞬間、血の赤が視界に滲み、遅れて母の顔が浮かぶ。足が止まった。

 鳥と蛇の紋章! 間違いない、ここだ! ここからあいつが来たんだ! 


「ははっ……」


 堪えきれなくなった笑い声が漏れる。


 ソーマ……絶対に見つけ出して、復讐してやる!

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― 新着の感想 ―
始まりから、なんという絶望。゜(゜´Д`゜)゜。何でや! 何でそんな酷いことするんや! そりゃあ復讐決意しますよね⋯⋯。 流希がダークな分、陽が明るいのが救いです。テンションがずっと高い(笑)これか…
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