19.占い
ゾワリと鳥肌が立ち、心臓を掴まれた心地になった。誰も二の句が継げなくて、占い師から視線が外せない。彼女はゆっくり顔を上げていき、眼鏡の奥の青い目とぶつかった。
「黒服の方は、誰かを探している……違いますか?」
得体のしれない恐怖だった。見透かされている。鼓動が速くて、背中に嫌な汗がにじんでいた。
「お前、何もんだ」
ゼインが俺の前に割り込んできた。占い師の視線が遮られる。
「魂が視える占い師ですよ。さあ、占っていきませんか?」
ゼインが振り返り、どうすると目で訊いてきた。陽は少し警戒しているが、興味が前面に出ている。
「……占ってもらおう。前勇者がどこにいるか分かるかもしれない」
俺は意を決して近づくと、手前にある椅子に座り、隣に陽が座る。ゼインは俺たちの後ろに立った。
「では、視ますね。まずは金髪の方から、何か知りたいことがありますか?」
「えっ……う~ん。恋愛運でお願いします!」
陽からなのは都合がいい。その回答で占い師を見極められる。占い師は水晶をのぞき込み、「そうですね~」ともったいぶった間を取った。陽が前のめりになる。占い師は顔を上げ、微笑を浮かべた。
「あなた、気になる人がいますね」
「そうなんです! よくわかりますね! それで、その人とこれからどうなるか分かります!?」
カモ過ぎる。恋愛運を聞く奴は、十中八九好きな相手がいるからだろうに。背後でゼインの呆れている気配がした。
「う~ん、あなたの魂ずいぶんピュアなんですよね~。生まれたてって感じなので……悪い女の人に騙されないよう注意してください。知らないうちに仲間を裏切ることになるかもしれません」
ありえる。そして、占いらしい漠然とした答えで、誰にも思い当たるところがありそうな言い回しだ。陽は完全に引き込まれていて、表情を硬くしている。
「それはつまり……俺とカイさんがつきあって、二人が傷つくってこと?」
「馬鹿か」
「ないない」
瞬時に否定が入る。
「もう少し詳しく視たいので、お名前を教えてもらってもいいですか?」
「陽です」
止めたかったが遅かった。個人情報の意識が緩すぎる。
「ハル……ちょっとしっくりこないですね。……あ、もしかして、お二人の世界には独自の文字があります?」
何がしっくりこないのか分からない。だが、漢字があることは事実なので俺たちは頷いた。
「へぇ、面白い。書いて見せてくださいよ」
「いいですけど……」
陽は紙もペンも持っていないので、ポーチから手帳を出してやる。最後のページを開いて、ペンと一緒にテーブルの上に置いた。陽は「ありがと」と、そこに名前を書いていく。癖字だった。
「これで、佐藤、陽って読みます」
「へ~、全然違う字だ。面白い。この字、意味があるんじゃないですか?」
「あ、はい。佐藤のほうはわかんないですけど、陽は太陽の陽。まさに俺って感じでしょ?」
「だから金髪にしてるんですね~。陽君……視えてきましたよ~。ほう、おお」
水晶に両手をかざし、何やら演出が始まった。
「これは! 陽君、あなたは英雄になれます! 将来、女の子にもモテモテです!」
「すげ~! 俺、勇者だもんな! 世界救っちゃうもんな!」
目も当てられない。陽は自分から情報を漏らしている。占い師の口角が上がった。
「それは素晴らしい! でも、今あなたがつけているペンダント。とても嫌な感じがします。もしかしたら呪われているかも……」
「えっ」
雲行きが怪しくなってきた。
「だけど安心してください。勇者様の旅が無事終わり、好きな女性と結ばれるご利益があるこのペンダントを今なら」
「行くぞ陽」
きれいな詐欺の手口だったので、俺は陽の腕を掴んで腰を浮かす。
「あぁぁ! ちょっと待ってください。ごめんなさい、冗談です! つい騙されやすそうだったんで!」
占い師は慌てて立ち上がり、青いペンダントを握った手を制止するように突き出した。
「そちらのお兄さんにはもっとすごい占いをするので、最初だけでもいいから聞いてください!」
必死過ぎてうさんくさいが、ここまでつきあったのだからと腰を下ろす。気に食わなかったらお代を払わず去ればいい。
「ささっ、こちらにお名前を」
書きたくなかったが、先に進まなそうなのでしぶしぶ書く。
「三上、流希だ」
「ほうほう。意味は何です?」
「希望が流れる」
「い、いい意味ですよね?」
占い師の困惑した顔と、二人からの視線が刺さる。変な空気が流れた。
「で、では。改めて占わせていただきますね」
占い師は切り替えて名前が書かれたページから視線を上げた。作り物の笑みだ。縁が太く大きな眼鏡の奥で、青い瞳が怪しく光る。視線は俺の頭の上から顔、そして胸へと降りていく。
「これは……」
すっと、占い師から笑顔が消えた。
「ひどい魂ですね」




