18.ユグラを後にし
それから3日間はクエストを受けて路銀を稼ぎ、食料に回復薬など必要な物資も買い込んだ。次の石碑がある町は火山の山頂にある。そこまで前勇者の情報を集め、クエストをこなしながら進むことになった。
早朝に馬車に乗り出発し、一時間ほど経ったころだった。馬車の中ではすることがなく、俺は隣に座っているゼインが広げていた地図をのぞき込む。
「次の石碑までどれくらいの町がある?」
目的の町は地図の左上、北西にあった。ユグラから、ひたすら北上することになる。
「そうだな……ざっと、20以上。地図にない村をいれるともっとある。……全部回るのか?」
「そうしたいがさすがに現実的じゃない。ユグラで見た前勇者は旅を急いでいたし、最短距離を取った可能性が高い」
「じゃあ、ポイント絞って、名物を食べ歩いて、観光して、きれいなお姉さんがいるお店にも行かなくちゃ」
ゼインの右に座っていた陽ものぞき込んできた。すっかり夜遊びにはまっている。元凶であるゼインに視線を向ければ、目で「悪い」と謝られたが止める気はなさそうだ。
今日の宿を取る町までは半日かかるということで、暇つぶしに他の乗客に情報収集をする。何気ない会話を装いつつ、黒髪の旅人、ソーマ、勇者について話を振るが有益な情報はない。これ以上ここで得られるものはなさそうだと見切りをつけ、俺はポーチの中から手帳を取り出した。情報を書き留めるために一昨日買ったものだ。
「それ、初めて見たな」
「今までの情報を書いているだけだ。記録は大事だから」
「すごい、流希几帳面」
二人の興味をひいたようで、仕方なく手帳を見せる。俺が書き忘れていることもあるかもしれない。
「うっわ、やっぱきれいな字だ。お前実は勉強できるタイプ?」
「なんも読めねぇ。これお前らの国の字か」
思わぬゼインの反応に、俺たちは顔を向ける。俺たちがこっちの文字を読めるから、ゼインも読めると思っていた。
「日本語って言うんだ。てことは、俺と流希しか分かんないのかぁ。秘密の暗号文ができるじゃん!」
目を輝かせる陽を無視して手帳を引っ込める。異世界人に読めないなら、情報の秘匿性が上がっていい。ほどなく、昨日も飲み歩いていた二人が肩を寄せて眠りだし、俺は今までの情報に見落としがないか見返していった。
目的地に着けば、勇者の情報を集め、手頃なクエストがあれば受けて路銀を貯める。そして次の村、次の町へと移動した。運よく馬車を捕まえられればいいが、徒歩のことも多かった。陽は相変わらず「地味」だの「つまらない」だの文句を言っていたが、不満が募っているのは俺も同じだ。最大の目的である情報集めに進展はなく、ユグラの町で影が見えただけに落胆も大きい。
ユグラを出て1か月、大きな山の麓まで来た。黒っぽい土に変わり、火山地帯であることが分かる。この辺りは火の魔力の影響が強いため、気温が高くなってきた。頂上の石碑がある町までは緩やかな山道で、途中に町や村がいくつかあるらしい。俺たちは補給場所を中腹にある小さな町に決め、馬車の強くなる振動に耐えるのだった。
「なんか、雰囲気が独特だな」
町の門を見た感想がそれだ。木彫りの動物がアーチになっている。簡素な検問を抜けて通り、反対側を見れば無数のお面で埋め尽くされていた。まるで呪いのような圧迫感だ。家々の装飾や人々が身にまとっている服の柄も、今までの村や町とは毛色が違った。
「ここは今では町だが最初は山間部族の村で、狩猟と交易で大きくなったらしい」
「なんつーか、エキゾチックってやつ?」
町の風景を観察しつつ、冒険者ギルドに向かう。露店で売られているものは果物やきのこが多かった。獣肉が塊のまま吊られていて、串焼きを売っている店もそこら中にある。ユグラとは違う肉肉しい香りが漂っていた。
「夜は焼肉か串焼きの店に行こうぜ~」
「いいな」
ここ最近は海辺の町で魚が続いていたので、すかさず同意する。干し肉も多めに買っておきたい。
「ルキ、魚嫌いだもんな。好き嫌いすると大きくなれないぞ」
「別に……」
嫌いではない。おいしいと思わないだけだ。言い返すのも面倒くさくて、俺は魚のおいしさを語り始めた陽に、適当な相槌をうつ。
大通りを抜けると噴水がある広場に出た。石畳が美しく、露店がにぎわっている。冒険者ギルドは広場の先にあるらしい。
「あの店、鳥の丸焼き売ってる! うっわ~、かぶりつきてぇ」
食べ物に目が移り駆け出しかねない陽を、ゼインは腕を掴んで引っ張っていた。まずは冒険者ギルドだ。
噴水の石細工も凝っていて、その周りでは足を休めている人や、雑談をしている人がいた。地面に絨毯を広げて雑貨を売っている人もいる。
「そこの旅人さんたち、占いをしていきませんか?」
噴水の横を通り過ぎようとした時、声をかけられた。顔をむけると少し離れたところで、フードを被った人が広場の椅子に座っていた。周りが色彩豊かな服を着ているため、紺色ローブの女性は逆に目立った。石のテーブルの上にはこれ見よがしに水晶が紫色の座布団に乗せられている。
怪しいな。関わりたくない……
足早に通り過ぎようとしたら、腕を掴まれた。掴んだのは陽だ。
「面白そう! やろう!」
「はぁ? 俺たちは急いでるだろ」
占い師はこちらに顔を向けた。フードで目元は見えない。
「まあまあ、そう急がずに。私、魂を視て占いをするんです。仕事、恋愛、失せ物、探し人、今日のご飯まで、なんでも占えます」
「占いは信じないんで」
「あら、いいんですか? 私の占い、けっこう当たるって評判なんですよ? 例えば……」
俺は陽の手を振りほどいて歩き出そうとする。
「――二人は違う世界から来たとか」




