12.出立
旅立ちの日が来た。王に謁見するため、俺たちは待合室に集まっている。
「お、流希の服かっけ~。やっぱ闇の勇者だな。中二病って感じ」
「黙れ、ウロボロスの剣出してるお前に言われたくない」
俺の服は“闇”と言われたように、暗めの色が基本だった。フード付きのコートは黒に近い濃紺で、裏地に青が入っている。シャツとパンツは質感と動きやすさ重視で、色は黒。装飾っぽいものはベルトぐらいだった。
「見てよ。モテモテの未来しか見えない」
陽は両手を広げて新しい服をアピールしてくる。赤い袖なしの上着、丈の長い白シャツは太めのベルトで締めてこげ茶のパンツを履いている。その場でくるりと回ると、ベルトから垂れた若草色の布がふわりと広がった。
「しかも、髪が伸びてプリンになってたけど、魔法で染めてもらえたんだぜ。すげぇよな。伸びても金髪のままだって!」
鏡を前に生え際を気にする陽はおもしろかったが、服装と明るい茶色の目に金髪はよく似合っていた。
「……二人とも勇者という感じがしないんだが」
若者のファッションにはついていけないと顎を撫でているゼインは、不精髭を剃ったのが落ち着かないようだった。
「おっさんは髭があったほうがくたびれ感があってよかったのに」
「悪いな。女の子の視線は全部俺がもらってやる」
「いや、モテるのは絶対俺だね!」
ゼインは小隊の隊長をしていただけあって、陽の扱いをすぐに掴んでいた。身軽さを重視した軽鎧で旅に慣れている感じがする。色も落ち着いた茶色系で、酒に酔って女性に絡んでいたゼインとは別人だった。
ほどなくドアがノックされ、玉座の間に案内される。大きな扉の向こうは見事な刺繍の絨毯が敷かれた大広間で、凝った装飾の柱が王までの間に何本も立っていた。俺たちは前へと進んでいき、数段高いところに座っている王を見上げる。
「すげぇ……」
陽が小さく感嘆し、目を輝かせていた。王の隣にはカイもいて、優しく微笑んでいる。
ゼインだけは自然な所作で片膝をついて頭を下げていた。ゼインが俺たちに顔を向け、小声で「膝を付け」と言ってきたので、仕方なくそれに倣う。
「勇者二人と、騎士ゼイン。顔を上げよ」
若い王の静かな声が広間に響く。顔を上げ、王と視線を合わせるが特に表情は読み取れない。王は淡々と言葉を続けた。
「いよいよこの世界を救う旅が始まる。国からの支援として当面の資金のほかに、空間魔法を付与した鞄を一つ贈るゆえ、役立てるがいい」
それらはすでに昨日受け取っていた。さすが異世界というべきか、重い荷物問題を解決するのが空間魔法だ。上限はあるが、普通のリュックに見えても馬車一つ分ぐらいの荷物が入るらしい。そこに三人分の必要なものを入れ、ゼインが背負うことになっていた。俺たちは必要最低限のものだけ入れたポーチだ。
「そして、勇者に万が一のことがあっては世界の危機である。そのため、二人には特別に蘇生ができるペンダントを贈る」
「生き返れるってことですか!?」
考えるよりも先に言葉が出た。自分でも驚くほど声が上ずっていた。
「……そうだ」
「すげぇ、ゲームだ」
隣で陽が声を弾ませていた。カイが黒布の敷かれた銀盆を持って近づき、手で俺たちに立つように促した。
「ペンダントをつけて」
赤黒い透明な石がついたペンダントを指先でつまみ上げ、表、裏と確認する。普通の石にしか見えず、持っても何も感じない。本当にこれで生き返るのか疑わしい。
「これで無敵じゃん」
陽はさっそく首にかけ、見せびらかすように石を指で遊ばせていた。俺はペンダントを手にしたままカイに顔を向ける。
「なあ、これは死んだらすぐ生き返るのか? 代償とかはない?」
「え?」
カイは虚を突かれたような顔になり、代わりに王が答えた。
「死ねば術が発動し、数分で蘇生する。代償は――ない」
間が気になったが、死んだらすぐというのはありがたい。
「本当に蘇生できるんだろうな」
「……本当だ。そのおかげで、俺はここにいる」
答えは意外なところから返ってきた。ゼインは胸元から細いチェーンがついたペンダントを引っ張り出して見せた。透明な石が台座にはまっていて、戻すときに一瞬見えた裏側には何かの紋章が刻まれていた。小隊か騎士に関係するものかもしれない。
カイはわずかに瞠目し、すぐに視線を落とした。
「それで、貴方だけが……」
前に全滅したと言ったのは言葉通りだったらしい。経験者の証言は有力だ。これで少し無茶をしてでも前勇者を追える。
ペンダントを首にかける。知らず知らずのうちに、口角が上がっていた。
「だが、蘇生できるのは一度だけだ。そして貴重で高価な品でもある。ゆめゆめ忘れるな」
一度だけか……いや、一度で十分だ。必ずこの手であの男を……
気を引き締め、俺たちは頭を下げる。
「終わりの時が迫っている。勇者たちよ、5つの石碑を巡って力を注ぎ、神殿にてこの世界を救ってくれ。そして、前勇者を討ち取れ」
「任せてください!」
「必ず」
これで謁見は終了となり、俺たちは玉座の間を後にする。そこから各自荷物を持って、王都の門に集合した。俺たちは長旅とは思えないほどの身軽さだ。門にはカイもいて、見送りをしてくれるようだ。
「あ~あ、もっと派手に見送ってほしかったなぁ。俺たち勇者なのに」
「国民は勇者のことを知らないし、10年前のことがあったからね……」
カイは陽を宥めると、ゼインに向き直る。
「ゼインさん、ハル君とルキ君を頼みます」
ゼインに向けて頭を下げるカイに、陽は寂しそうな視線を送っていた。
「カイさ~ん! 会えなくなるの寂しいいい……ぐえっ!」
半泣きで抱き着こうとして、ゼインに上着の後襟を引っ張られた。カイはおかしそうに口元に手を当てて笑っている。なんだかんだ、二か月近くお世話になった。
「カイ、今までありがとう」
軽く頭を下げると、カイは目を瞬かせ零れるように笑った。
「ルキ君はいい子ね」
不意打ちのような言葉に、返事が詰まった。
「カイさん、俺は!? 俺と離れるの寂しいですよね!?」
「ハル君はそんな顔しないの。……石碑がある町に着いたら、私に連絡して。瞬間移動で行くから。石碑に力を注ぐサポートをするのも私の役目だから必ず呼ぶのよ。絶対勝手に石碑に力を注いじゃだめだからね」
勝手に動いた前科があるからか、念押しをされた。
「もちろん、町に着いたらすぐ連絡します! 一緒にその町のおいしいもの食べて、観光しましょう!」
一人方向が違う気がするが、陽らしい。俺は門の先へと視線を向ける。
やっとだ……。必ず勇者を見つけ出して、この手で殺す
俺は決意を新たに、カイに見送られて3人の旅を始めたのだった。




