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十二月

 ガラス窓の向こう側で、軽やかな粉雪が踊っています。

 こんな日はさすがに外に出るわけには行かず、王様はテラスではなく部屋の中、暖かな暖炉のそばに腰かけておりました。床屋は静かに微笑みながら、王様の髪をさらさらと梳いています。暖炉の中で薪がはぜて、ぱちん、と音を立てました。


「……そう言えば、お前は聞かないのだな」

「何を、でございますか?」


 しゃきん、と涼やかな音がして、鋏の先から王様の肩に、細い髪の毛が落ちました。


「いや、……僕の耳が、どうしてこうなってしまったのかを」

「理由など知ってなんになりましょう。大切なのは、それをどう受け止めるか。私は、そう考えます」


 しゃきん、と鋏が輝いて踊り、はらはらと雪より軽い髪の毛がケープの上を滑ります。王様は鏡の中、床屋の顔を伺いましたが、笑みを湛えた口元しか見ることが出来ませんでした。


「それに、王様のことでしたら、他にもっと大切なことを知りたく思います」

「なんだ? もっと大切なことって」

「好きな食べ物や、好きな星座。はじめて描いた絵の話、ずっと遠くの夢の話」

「…………」


 床屋の声はこんなにも穏やかなのに、心臓が激しく揺さぶられてしまうのはどうしてでしょう。


 王様はぴくぴくと小刻みに耳を震わすと、大きな瞳を潤ませ、そっと静かに伏せました。窓の外ではしんしん、しんしん、耳に届かない声を立てて雪の子たちが笑っています。


「……神を、怒らせたんだ」


 雪の音にすら負けそうなほど小さな声で、王様がぽつり、呟きました。床屋は何も答えずに、ただ、次の言葉を待ちました。

 王様は俯いたまましばらく逡巡しましたが、やがてぽつりと、これまで誰にも話したことの無かった秘密を打ち明けました。


「神々が、音楽の腕競べを行ったのだ。僕はその場で、判定に不平をぶつけたのだ――どうしても、大差をつけた勝者が納得ゆかなくて」


 王様はくっと唇を結ぶと、ぱっと元気に顔を上げました。そうして出来るだけ明るい声で、からりと言い切ってみせました。


「そういう訳だ。この耳は、良い音楽を聴き分けられない、役立たずの耳という意味なのだ」

「素敵な耳ではありませんか」


 即座にきっぱり言い切られて、王様は息を飲みました。床屋は細かに鋏を動かしながら、いつもの笑みを浮かべたまま、淡々と続けました。


「神よりも自分の感性を信じて貫く、正直で勇敢なお耳です」


 王様の心臓が、どきんと跳ねました。


 白い雪が包み込む、しずかな、しずかな午後でした。けれど王様は、寒いとは感じませんでした。空気はりんと凍えているのに、何故だか王様の胸はぽかぽかとして、ちっとも寒いとは思わないのでした。


 床屋はにこり微笑むと、鏡越し、王様に向かって語り掛けました。


「それよりもっと知りたい事があると申し上げたではありませんか。王様の得意な鹿狩りの話や、お母様との懐かしい思い出。好きな歌や、好きな鳥。いろんな貴方を、私は知りたい」

「床屋……」

「ほくろの数や下着の色や、うなじの匂いや寝巻きの素材、

「大臣。打ち首だ」

「御意」

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