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十一月

 月が欠けるその前に、床屋がお城に呼ばれました。床屋はいつもの涼しい顔で、柔らかい革布の上に仕事道具を広げました。


「王様。なんだか最近、散髪に召される間隔が徐々に縮まっている気がするのですが?」

「き、気のせいではないか?」

「いえ、実際、お髪もまだそんなに伸びて……」

「あ~、その、床屋! 最近、町の様子はどうだ!?」


 王様はぎくしゃくと背筋を固くして、耳をぴくぴくさせながら、突然話を切り替えました。そんな王様の態度にも床屋は顔色ひとつ変えず、穏やかな声で王様の質問に答えました。


「はい、城下町は収穫祭を前に賑わっております。……ところで王様」

「な、なんだ?」


 床屋に話題を返されて、王様は再びぎくりとしました。


「王様。王様のこのお耳は、やはり他の者よりよく聞こえるのでしょうか?」


 突然の質問に、王様はすみれ色の瞳をぱちりと見開きました。それから大仰に腕組みをすると、親指で小さなあごの先をこすりました。


「? ……どうだろう。考えた事も無かったな」

「よし、それでは試してみましょう! いいですか? 私があの端から小声で囁きますから、なんと言ったか当ててください」


 大人びていつも落ち着いた床屋が、こんな風にはしゃぐのは珍しいことです。うきうきは王様にも感染して、彼の長い耳をぴんと立たせました。王様は瞳をきらきらと輝かせると、小さな脚をぷらぷら揺らして、こくりと大きく頷きました。


「うむ。いいだろう!」


 床屋はにっこり笑みを濃くすると、小走りにテラスを横切りました。そうして一番端まで来ると、口元に手を当て、大きな声で呼び掛けました。


「よろしいですか? では、参りますよ? えー……」


『……王様、あいしてる』


「…………」


 王様はぎゅっと唇を結んで、目を見開いて俯いています。赤く染まったほっぺの横で、長い耳がふにゃりと垂れています。


 床屋は屈めていた腰を正すと、もう一度大きな声を上げました。


「聞こえましたか?」


 その問いにびくんとすると王様は、肘掛をぎゅっと握って慌てて椅子に座りなおし、お耳をぴんと伸ばしました。


「あっ、いや、聞こえなかった! も、もう一回頼む!」

「はい。それでは……」


『……王様、あいしてる』


「今度はどうですか?」

「……あ、その……。……もう一回、頼む」

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