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十月

 高い高い梢の上に、渡り鳥たちが北の国から帰ってきました。季節は秋、お城にももうじき今年の葡萄酒が納められることでしょう。床屋と王様の掛け合いも、家来の間ではすっかりお馴染みとなっていました。


「理髪師様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 案内を受けるまでも無く、すでに王様の西の私室なら迷うことなく到着できるのですが、床屋は侍女に会釈をすると、笑顔で「ありがとう」と告げました。すると楚々とした侍女の頬がぽっと赤らみ、途端にもじもじし始めました。

 そんな彼女を前にしても床屋はあくまでのうのうと構えており、規則正しい靴音を響かせ、離宮への渡り廊下を進むのでした。


 いつものように、広い広い石造りのテラスで、床屋が髪を整えます。爽やかな秋晴れの午後、黄金色の木漏れ日が、銀の鋏にきらきらと降り注いでおりました。

 床屋がすらりとしなやかな手つきで髪を整えていく様は、まるで華麗な手品のようです。いつもはいかめしい王様も、この時ばかりは心地良さそうに目を閉じています。そうしていると、彼はただの、一人の無邪気な少年のようです。


 王様は大きな椅子の上でそのお御足をぷらぷら揺らしていましたが、ふいに膝の上に何かの気配を感じ、そっと瞼を開けました。見れば白いタイツの膝小僧の上に、金色の葉っぱが一枚、舞い降りていました。王様はそれをそっと摘まみあげると、指先でくるくると弄びました。


「そう言えば床屋、お前も僕の専属になって随分経つな」

「はっ。光栄に存じます」


 床屋の声はあくまでも落ち着いています。王様だけがただひとり、すべすべとしたビロードのような耳の先を、ぽかぽか熱くしているのでした。

 王様は唇を尖らせると、所在無さげに視線を落とし、らしくもなくもごもごと口ごもりました。


「まぁ……僕も……そ、その、次々床屋を変えて秘密を洩らすわけにはいかないからな! こ、これからも、お前だけを専属として……って、おい、こら床屋! 何が可笑しい!」


 くつくつと肩を揺らす床屋に向かって、王様が鏡越しに怒鳴りつけます。床屋は穏やかな笑みを湛えたまま、何気ない調子で答えました。


「いえ……なんでもございません。ところで王様、王様にはしっぽは生えてらっしゃるのですか?」


 途端に王様の耳が、ぴん!と真っ直ぐ立ちました。王様は拳を固く握り締めると、激しく声を荒げました。


「なっ! ばっ、馬鹿にするな! そんなモノ生えている訳無いだろう!」


 けれど床屋はしれっとして、いつも通りの食えない笑顔で、叱られたにも関わらず、尚も言葉を続けました。


「しかし、お耳がお耳ですし……」

「くどいぞ無礼者! 人をロバ扱いする気か!」


 王様は既に椅子から腰を半分浮かせ、今にも立ち上がって床屋に掴みかからん勢いです。けれどもやっぱり床屋の方は、澄ました顔をしているのでした。


「まぁ、見てみない事にはなんとも……」

「よしわかった、そこまで言うならしっかりと見るがい……

「はい! 拝見します! 早く、早くお尻を! さあ! さあ早く!!」

「……大臣」

「はっ。打ち首にございますね?」

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