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ロバルト、最低最悪の所業

 俺は舞依を抱えて、涼子ちゃんとトレイシーの元へ戻ってきた。


「舞依! 大丈夫? 怪我してない!?」


 涼子ちゃんが舞依を抱き締め、全身をくまなく見回す。


「大丈夫だよ涼子! 大丈夫だからっ! それより、ティアラさんは…………」


 舞依が訊ねた瞬間、観客の悲鳴があがった。俺は舞依を抱えたまま身を乗り出し、戦いの様子を見た。

 ティアラとジェシカは、フィールドの中央で折り重なるようにして、仰向けに倒れていた。しかし、実際はジェシカがティアラを一方的に組み敷いていたのだ。

 半開きの口端からよだれをチラつかせ、目が剥きかけているティアラの苦悶の表情を見て、トレイシーが堪らず叫ぶ。


「もうやめてくださいっ!」


 ジェシカは右足でティアラの右手を押さえつけ、なおかつ自分の右手でティアラの右足を抱えることで自由を利かなくしている。

 更に左足をティアラの股に挟むことで両足を広げさせ、左手で彼女の襟を引っ張って首を絞めていた。

 これは柔道の寝技――片手絞(かたてじめ)だ。


「かはっ……ぁぁ、ぐっ……えぅ…………」


 ティアラは下半身をガクガク痙攣させながら、なんとかもがいて抵抗している。しかし、ジェシカの技を解けない。手足をじたばたさせても、全てジェシカの四肢にがっちりホールドされているので、ピクピクと僅かな動きにしかならない。

 絡み合った2人の体の隙間から、ティアラの胸が漏れ出ている。開かれた足の間から、あられもない部分が晒されかけているが、スカートの裾がギリギリのところで奥を覆い隠している。

 ジェシカの技が、いかにきつくティアラを絞めているかが、俺には分かった。


「お姫様のお漏らしタイムまでー、33〜22〜11〜――」


 ジェシカが秒読みを始め、四肢に力を込めて更にティアラを絞め上げる。

 ティアラは、とても女の子がしてはいけない顔になって、微かに呻く。

 まずい、オちる――俺は境界を越えてフィールドに入り、手をかざした。


「ブラスト……!」


 俺の放った無属性魔法が、2人を軽く吹き飛ばした。かなり手加減したため、どっちも強い風を受けた程度の衝撃のはずだ。

 俺はティアラに駆け寄り、彼女を抱き起こした。


「ティアラ、大丈夫か? ごめん、遅くなった…………」


 ティアラは深く呼吸しながら咳き込むと、俺を見た。目には涙が溜まっている。それは、喉元を絞められたからなのか、それとも不安のせいなのか。

 ティアラは俺に抱きついて、顔を胸元へ埋めた。肩が震えてる――苦しかったよな…………俺はジャケットを脱いで、ティアラの頭に被せた。

 観客の視線から庇うようにして、舞依や涼子ちゃんの元へ戻る。


「ティアラさんっ、大丈夫!?」


 舞依がティアラの元へ駆け寄る。ティアラは、目元が赤いからか、少し顔を伏しがちにして頷いた。


「大丈夫です……マイさんこそ、お怪我はありませんか?」

「全然平気だよ……! ティアラさんの方が…………」


 マイは、どこか負い目を感じているようだった。


「不正行為だ!!」


 すると、フィールドの反対側が騒がしくなった。ロバルトだ。審判のジョージさんを呼びつけて、何やら抗議している。


「第三者の戦闘介入による試合妨害だ! 違反者と、それから対戦者のティアラは失格にするべきだ!」


 俺は我慢ならなくなって、ロバルトの元へ向かった。


「お前はどうなんだ」


 その声音は冷ややかというより、腸が煮えくり返っているように、自分でも聞こえた。


「人の妹を拐っといて、なにが不正だ」


 観客がザワついた。ロバルトが――Sクラスがチームマッチで不正行為。波紋のように、生徒たちのひそひそ声が拡がる。


「ケイスケくん、それはどういうことだい?」


 ジョージさんも、俺の告発に食いついた。


「こいつらはジーナに妹の舞依を拐わせて、俺を誘い出し、試合を有利に運ぼうとしたんです。俺は3戦とも出場するつもりだったから、それを警戒して。調べれば俺の問い合わせ履歴が残ってるでしょう。

 それに、舞依を連れ去った古い寮が、森の奥にあります。そこに痕跡だってあるはずです」


 俺は、ここぞと冷静に話した。事実を正確に伝えれば、当たり前だが話の辻褄が合う。辻褄の合う話を冷静に話せば、信憑性が強まる。

 結局、こういうスポーツの類いは審判がルールだ。敵の不正を認めさせるには、審判に信用してもらう他ない。

 一方ロバルトは、まだ余裕そうに見える。これ以上なにか策を巡らせているのか……?


「ジーナ……? なら彼女に聞いてみようか」


 ロバルトは我が意を得たりと言わんばかりの、勝ち誇った笑みを浮かべた。そんなロバルトの後ろには、なんとジーナがいた。

 戻っていたのか……。ジーナはロバルトに呼ばれ前へ出てくるが、さすがに後ろめたいらしく、俺と目を合わせない。


「ジーナ? 今の話、本当なのかな?」


 ロバルトは彼女に訊ねる。もっとも、答えは分かりきっている。見え透いた汚い手だ。

 ジーナは一瞬ロバルトを見て、伏し目がちに淡々と話した。


「…………そんなこと、してません。私は試合中、ずっとニコールやジェシカと一緒にいました」

「嘘です!」


 トレイシーが俺たちの方へ走ってきた。


「私、見ました! 姿を消す魔法で、舞依さんを連れて森の方へ歩いていくのを!」


 すると、ロバルトが高笑いした。


「嘘はそっちだろう? 今その綻びを自ら晒したのに気づいてないのかい? 姿を消す魔法で誘拐……? なら、君はどうやってその現場を目撃したのかなぁ!?」


 たしかに、それは俺も気になっていた。隣にいたティアラや涼子ちゃんが気づかなかった舞依の不在に、どうしてトレイシーだけが気づけたんだ?

 トレイシーは、ゆっくりと眼鏡を外した。


「私の眼鏡は、人を惑わす種類の魔法を看破する魔眼鏡(まがんきょう)です。検知した魔法も、直近72時間以内なら記録されます。どうぞ、調べてもらっても構いません」


 トレイシーが、魔眼鏡をジョージさんに手渡した。そうか、だから唯一、ジーナが舞依を拐ったと証言できたのか……。

 その時。遠くの方で別の騒ぎがあった。強面(こわもて)の男性教員が、数人の生徒を校舎へ引きずっていく。

 あれは…………森で俺を襲った奴らだ。


「まったく、森の奥は立ち入り禁止と校則に書いてあるだろう! おおかた、古い寮の廃屋があると知って、イタズラでもしようとしたんだろうが!

 Sクラスともあろう生徒が、情けない!」


 会場の少なからぬ注目を受けながら、教員と生徒たちは校舎の中へ入っていった。

 ジョージさんも当然、それを見ていた。教員の言葉を聞いて、ロバルトとジーナの方を向く。


「……状況証拠は、ケイスケくんたちの主張を肯定しているようだが…………」


 懐疑的な目が、ロバルトに集中した。観客も、俺たちを信じる方向へ傾倒していくのが分かった。

 ロバルトも、それに気づいたのだろう。さすがに少し表情が引きつる。しかし、あくまで平然を装っている。

 すると、ロバルトはジーナの方を向き直った。




パシィンッ!




 なんと、ロバルトはジーナの頬を、平手で叩いた。


「ジーナ……こんな勝手なことをして、僕が喜ぶと思っていたのか!? 僕がこういう卑怯で姑息な手段を一番嫌うことは、君もよく知っているだろう!」


 ロバルトの怒号が響き渡る。ジーナは、呆然とそれを聞いていた。

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