3人目
「……審判。正々堂々の真剣勝負に、このような事が起きてしまい、申し訳ありません。全ては、彼女が独断でやったことです。僕を想うあまり、ジーナは…………」
ロバルトは、悲痛な表情をして、嘘を吐き続ける。ジーナは、ロバルトの指示でやったことだと、俺にハッキリそう言った。
なんてやつだ――自分のために汚れ仕事を成し遂げたジーナを、こんな残酷な形で切り捨てるなんて。
ジーナは肩を震わせて俯いた。それから、ジョージの方を向いて、更に頭を下げる。
「……ごめんなさい…………全部っ、私がやりました…………」
そんな…………まだこんなやつを庇うなんて。ジーナ、どうしてそこまで――。
ジョージさんも、腑に落ちない様子ながら、審判席に戻る。
「判定――本件の真相究明は、後ほど厳粛に執り行う。一先ず、試合は続行。
試合妨害を行ったケイスケ選手、ならびに幇助を受けたティアラ選手は失格とし、以降の出場を禁止する。ロバルトくんも、不正行為の共犯と見られるため、出場停止とする。
マイクくん。実況はいいから、ジーナ選手を見張っててくれ。これ以上の不正行為は許さない」
「えぇ!? あ、はい…………」
実況・解説のマイクが立ち上がり、ジーナを連れて行った。目の届くところで、監視するということだろう。
俺とトレイシー、ロバルトも各々の待機場所へ戻った。
「ごめんなさい、みなさん……私がっ、負けていなければ…………」
「ティアラさんのせいじゃないよ! こんなことになったのは、マイのせいだよ…………」
2人とも、すっかり落ち込んでしまっている。俺も励ましたいが、かける言葉が見つからない。
「ニコール……僕のためにここまでしてくれたジーナのためにも、必ず勝ってくれ!」
「まかせて……もちろん、あらぬ疑いをかけられたロバルトのためにもね」
一方、ロバルトたちはこの期に及んで、まだ芝居がかった演技を続けている。
ジーナたった1人に罪を着せて、なぜあんなことが平気で言えるんだ……俺には到底、理解できない。できなくていい。
すると、舞依が勢いよく顔を上げ、フィールドの方へ歩き出した。
「お兄ちゃん、ティアラさん、大丈夫! マイ、絶対負けないもん! 見てて、あの卑怯者、タダじゃおかないんだから! …………あっ!」
しかし、舞依はふらっと倒れ込んでしまう。俺は慌てて抱き留め、なんとか地面との激突を防ぐ。
「舞依……やっぱり、まだ体が…………」
気絶させられていたせいか、舞依はまだ本調子じゃないようだ。それに、さっきのティアラとの対戦でジェシカがしたように、また卑劣な戦法を使ってこないとも限らない。
ただでさえ、ティアラを出場させて辛い目に遭わせてしまったんだ。この状態の舞依は出せない。しかし、俺とティアラは審判からレッドカードを食らってる。
状況は最悪だ。こっちには、3戦目に出られる人材がいない。俺が失格になってなければ――。
「私が出ます」
万事休する状況の中で、涼子ちゃんが言った。
「そんな……無関係の涼子ちゃんを巻き込めないよ。それに、異世界の戦いも知らないだろ? 無茶だ――」
「お兄さんや舞依は出られませんよね? 無茶かどうか以前に、私が出ないと負けちゃいますよ」
涼子ちゃんの言うことはもっともだ。たしかに、このままじゃ負ける。
「そっ、それなら私が出ますよ! 私なら武器も魔法も使えますし、こう見えても委員長ですからっ!」
トレイシーが手を挙げて俺たちの間に割って入る。すると、涼子ちゃんはその手をぐいと下げた。
「やらせてください。お兄さんや舞依が困ってるなら、私が助けたい。私がやりたいんです。お願いします」
涼子ちゃん…………舞依やティアラのために……。涼子ちゃんは確固たる決意を持った目で、俺を見つめていた。
誰も危ない目に遭わせたくない。俺の思いは、今も変わらない。けど、結局ティアラも舞依も、被害を受けてしまった。そのうえ涼子ちゃんまで危険に晒すのか――。
だけど、このままじゃティアラは、ロバルトと望まぬ婚約を結ばされてしまう。俺はやむを得ず、『絶無』と『マインゴーシュ』を涼子ちゃんに渡す。
「…………仕方ない。けど、辛かったらすぐギブアップするんだ。そこから先は、俺が何とかする。ルールを破ってでも、みんな守るから」
「ありがとうございます。でも、心配いりませんよ。私、勝ちますから」
苦渋の決断だった。涼子ちゃんは頼もしいことを言ってくれるが、相手は英才、涼子ちゃんは異世界に来たばかりで武器も魔法もろくに知らない――その差は明白だ。
俺は結局、理想には程遠い。涼子ちゃんに頼らざるを得ないくらい、今は何も出来ない。ジーナの頬もぶったし。女の子を悲しませない、なんて親父との約束…………守れてないじゃないか。
そんなことを思いながらも、俺は戦いへ赴く涼子ちゃんの背中を見つめた。
「待った。君は事前に参加者リストとして名前が登録されていない。登録されてない選手の出場は一部の例外を除いて――」
ジョージさんに呼び止められるも、涼子ちゃんは毅然とした態度を崩さない。
「既に例外中の例外が起きてるのに、言ってる場合ですか。あなたは、戦いもままならないチームが自動的に負けるのを良しとする嗜虐心の持ち主なんですか?」
涼子ちゃんの痛烈な指摘に、ジョージさんは少し考えて、席に着いた。
「君、名前は?」
「……涼子。真弓 涼子」
ジョージさんはマイクに目配せして、涼子ちゃんとニコールを交互に見た。
「――リョーコ選手の参加を認める。これより、第3回戦……最終試合を開始します!」
涼子ちゃんとニコールが対峙する。
「アンタ誰? こんな敗北が確定してる連中の助っ人に選ばれちゃうなんて可哀想だけど、同情はこれっぽっちもしないわ。自分の地位と人脈を恨みなさい。
私みたいに生まれながら相応の地位にいて、より高い階級の人間と人脈を形成していれば、恥をかくこともないのだから」
ニコールは鞭を取り出し、バチンと地面を打ち鳴らしながら言う。あれが彼女の武器らしい。
涼子ちゃんは、開幕早々の煽りに大きな反応を見せず、俺の渡した『マインゴーシュ』の柄に触れた。
「人間、自分のコンプレックスを誇張して良く見せようとするって聞いたことがあるけど、あなたを見てると本当みたいね」
「…………ならアンタはこれから、自分の顔面を誇張しなきゃいけなくなるわね」
既に戦いは始まっているようだった。




