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My dear 舞依

 ドアを蹴破ると、そこにはロバルトの取り巻き――ジーナと、壁際で気を失ってる舞依の姿があった。


「舞依!」


 駆け寄ろうとすると、ジーナが立ち上がって俺の行く手を阻む。


「おっと、せっかく感動の再会に浸りたい気持ちも分かるけど、チームマッチが終わるまで待っててくれる? 大人しくしてくれたら、さずかにこの子は傷つけたりしないから」


 ジーナは懐からナイフを取り出して、舞依に突きつけた。


「……舞依を拐ったのは、あんたなんだな」

「だったらなに」

「……殺されたって文句言うなよ」


 半分は脅しだが、もう半分は本気だ。妹を拉致されて、あんな刃物まで出されたら、誰だって憎しみに駆られる。

 ジーナは俺の顔を見ると、少し怯んだ。


「こ、この状況で何言っちゃってんの? これは親切ではなく警告なの。命令するのは私で、あんたは従う側。黙って言うこと聞いて、ロバルト様が勝つまで待ってればいいの」


 今度は、俺に向けてナイフをかざす。なるほど……どうやら俺のことを全く警戒してないわけではないらしい。俺に注意を向けさせれば、舞依に危害が及ぶリスクを下げられる。

 けど、あまり悠長にしてられないのも事実だ。今もティアラは俺のために頑張ってくれているし、そもそも舞依が拐われたのも俺がロバルトとの戦いに時間をかけ過ぎたせいだ。

 ちょっと強引な手だが、やるしかないな。


「どうやって舞依を拐ったんだ。あんなに大勢の前で、近くにはティアラや涼子ちゃんもいたのに」

「私は補助魔法が得意なの。自分や相手の姿を見えなくするくらい簡単。ロバルト様が今回、私に大役を任せてくださったのもそれが理由」

「どうしてこんなことするんだ」

「馬鹿なの? ロバルト様は特級貴族……勝負に挑んだら、結果は勝ちなのよ。たとえ1%でも勝ちを揺るがす危険性があれば排除する。生まれ持って勝利を約束された高潔な一族の後継者として、当然のことをしたまで。その重大な宿命を私に委ねてもらえたこと、私は誇りに思うわ」

「…………人の気持ちをとやかく言うつもりはないけど、俺は自分の大事な部分を他人に任せるような男は信用できないな」

「…………は?」


 ジーナの態度が変わった。俺の一言が、明らかに逆鱗に触れている。


「自分が背負った宿命が本当に大事なものなら、それを誰かに押しつけたりしない。自分でやり遂げるはずだ」

「だから、そんなに大事なものを私に任せてくれたって話でしょ。ロバルト様は私を信頼してくださって――」

「違う。ロバルトは、どんな勝負にも勝たなきゃならない。今回だってそうなんだろ。けど、あいつはもしこの勝負に負けたとしても、あんたのせいって言い訳が出来るんだ。

 そうやって、自分に逃げ道を作るのにあんたを利用してる」

「何言って……そんなわけないでしょ!?」

「しかも、あんたがロバルトに言われて今やってることは、明らかにチームマッチや学園のルールに反してる。もしロバルトが勝利の宿命を正面から受け入れてるなら、そういう汚れ仕事こそ自分でやるはずだ。

 失敗すれば取り返しがつかない、成功しても褒められたりしない…………そんな役割を誰かに押しつけた時点で、あいつは高が知れてるんだよ」


 ジーナの怒りが頂点に達し、もはや俺しか見えていないのが分かった。


「はあ!? お前にロバルト様の何が――」

「ブラスト!」


ドゴォン!


 激昂した瞬間の隙を突いて放った俺の魔法は、ジーナに直撃して吹っ飛ばした。彼女の体は柱を砕き、壁に激突して床に転がる。

 俺は舞依に駆け寄った。どうやら怪我はないらしい。早く連れ帰って、ティアラを安心させてやらなきゃ……。

 俺は舞依を抱えて立ち去ろうとしたが、呻きながら起き上がろうとするジーナを振り返った。やっぱり、どうしてもそのままには出来ず、彼女の方へ近づいた。


「……私は謝ったりなんかしないわよ。後悔もしてない。悪いなんてこれっぽっちも思ってない。ロバルト様のお役に立てて、幸せだもの。

 気が済むまで痛めつければいいじゃない…………」


 彼女がロバルトから与えられた役割は、俺の足止め――時間稼ぎだ。ジーナ自身も、それを分かってる。

 だから、そんな挑発には乗ってやらない。彼女のロバルトへの気持ちを踏みにじるつもりもない。

 だけど、1つだけ最後に聞いておきたかったんだ。


「――もしロバルトが拐われたら、あんたはどうする。相手に傷つけるつもりがないと分かっていたとして、許せるか?」


 ジーナは、初めて負い目を感じたように目を伏せた。


「……ぶん殴ってやりたい。たとえ最初から怪我させるつもりはなかったとしても…………私から大切な人を奪ったら、許せない」


 俺はジーナの答えを聞いて、その頬を平手でひっぱたいた。


「俺もだ」


 一番悪いのは、ロバルトだ。けど、それでも舞依を拐ったジーナを許すことは出来なかった。初めて、女の子に手をあげた。

 俺は熱く痺れるような感触の残る掌で、舞依を抱えて部屋を出た。後ろで、ジーナが項垂れているのに気づいていたが、俺は放っておいた。

 外へ出てしばらく小走りで森を抜けていると、舞依が俺の腕の中で、もぞっと動いた。


「ん…………」


 どうやら目が覚めたようだ。こんな悪路を結構な勢いで駆けているから、仕方ないことではあるが。


「おはよ、舞依」

「あれ、お兄ちゃん……マイ、いつの間に…………」


 まだ寝ぼけているようだが、すぐにハッと目を見開く。


「お兄ちゃん、勝負は!? ここ会場じゃないし、一体どうなってるの!? なんでマイ寝ちゃってるの!? なんか、お兄ちゃんがロバルトと戦ってて……途中から、思い出せない…………」

「落ち着いて。多分、熱中症だと思う。今、医務室へ連れて行くから」

「でも、それじゃチームマッチが……! マイ、会場に戻る!」

「ダメだ。マイは安静にしてないと――」

「でも、今ティアラさんが戦ってるんでしょ!? マイのせいで、お兄ちゃんが参加できないから……マイだけ休んでるなんて出来ないよ!」


 舞依は、強い意思を秘めた眼差しで俺を見つめる。こんなに頑なに俺の意見に反抗するなんて、いつぶりだろう……。

 たしかに、舞依の気持ちも分かる。この状況でジッとしてられないのは、舞依の良いところでもある。それを、俺が頭ごなしに否定するわけにはいかない。


「――分かった。一緒に戻ろう。でも、気分が悪くなったらすぐに言うんだ。いいね」

「うん!」


 最近、爽華先生に似たようなことを言われたのを思い出した。


「ごめんね……ううん。ありがとう、お兄ちゃん。いつもマイの傍にいてくれて」

「どうした急に」


 森を抜けていると、舞依がしおらしいことを言った。


「授業参観の時も、三者面談の時も。お兄ちゃんはマイがいてほしい時、いつも来てくれた。今も、マイのために試合を抜け出してくれてるでしょ? だから…………」

「当たり前だろ。マイは俺の妹なんだから」

「……うん……そうだね…………」

「…………ていうか、いつの話だよ。それ」


 俺たちは、束の間の談笑に興じながら、ティアラの元へ急いだ。

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