負ける気などありませんわ ☆ティアラ視点
舞依が拐われた――俺が、ロバルトと戦っている隙に。俺は懸命に思考をフル回転させる。
舞依を見捨てるなんて、出来るわけがない。けど、ここを離れれば、ティアラが望まぬ婚約を強いられてしまう。
どうすればいい…………。
「ケイスケさん!」
すると、ティアラが走ってきた。隣には、委員長のトレイシーもいる。
「ティアラ、舞依は?」
「トレイシーさんが、ジーナさんと一緒に歩くマイさんの姿を見ていました!」
端的なティアラの説明に、トレイシーが激しく頷く。
「妹さんがジーナさんと一緒に、今はもう使われてない古い寮の建物へ向かうのを見ました! おかしいなと思ったから、よく覚えてます!」
トレイシーが森の生い茂った方を指差す。あそこに、舞依が…………。
「トレイシー……いつも君はそうやって、僕をイラつかせたがるねぇ…………」
ニコールに介抱されながら立ち上がり、ロバルトが忌々しげに言う。
「けど、問題の本質は変わってない。さあ、ケイスケェ……この状況、一体どうするんだい?」
ロバルトの言う通りだ。チームマッチを抜け出し、舞依を助けに行ってティアラ婚約のリスクを高めるのか。
それとも、舞依を見捨てて2勝し、ティアラの将来を守るのか。次の対戦を速攻で終わらせれば、こっちの方が分が良いかもしれないが、舞依がどうなるか保証できない…………。
すると、ティアラが俺の手を握って、胸のあたりに持ち上げた。
「行ってください。ここは、私が戦います」
「ティアラ…………」
まっすぐで力強い眼差しが、俺を見つめている。
信じろ、と。
「ケイスケさんは勝ってくださいました。最悪ここで私が負けても、まだ後があります。怪我はしませんから、大丈夫です。
……それに、もしかしたら私が勝ってしまうかもしれませんし!」
ティアラは、ドヤ顔で息巻いてみせた。まだ、武器も魔法も扱いに慣れていないのに――。
けど、背に腹は代えられない。舞依とティアラ、2人とも守るためには、そうする他ないだろう。
俺は、すれ違いざまにティアラの肩に手を置いた。
「無茶するなよ」
「もちろん。元気な姿で、元気な舞依さんと再会します」
短いやり取りを交わし、俺は森の廃屋へと走った。
――――――――――――――――――――
ケイスケさんが走り去る後ろ姿を、私は見つめていました。
どうか、マイさんが無事でありますように――。
「ティアラ……分かったろう? あの男は君より、自分の妹ごときを優先させるんだ。所詮、下民は下民……僕ならもっとずっと、ティアラを大事に、大切にすると思うな」
ロバルトさんが言いました。ああするのは私のため、こうした方が王族に相応しい――もう、うんざりです。
「あら、別に私は大切にしてくださる方だからケイスケさんと仲良くしているわけではなくってよ」
私はキッパリと本音を言い放ちました。この、王家だからと強いられてきた言葉遣いとも決別したいところですけど、まだ時間がかかりそうです。
「なら、どうしてだい? あの下民の存在が君の家徳に利益をもたらすとは到底思えないな。僕の方がティアラに相応しい。考えてもごらんよ。王族と特級貴族との婚姻……国民にとってもこの上なく幸福な――」
「うるせー!」
私は、マイさんから教わった言葉を遣いました。『なんかよく分かんないことをごちゃごちゃ言う人』には、こう言えばいいのだ、と。
ロバルトさんもお友達も、みんな驚いた顔をしています。
「ティアラ……言葉まで低俗になっているよ…………よくないなぁ。僕が再教育してあげるからね」
「教員の免許はお持ちですの?」
免許がなければ、教育を施すことは出来ません。
教育とは、それに値する教養を持つ方が行うべきですから。
ロバルトさんは狼狽えています。これは、免許を持っていませんね。
「もういいよ、ロバルトきゅん。早く終わらせよ。なんかシラケちゃった」
すると、ジェシカさんが私の前に、無気力そうに出てきました。どうやら、彼女が中堅のようです。
「ジェシカ、分かってるね。くれぐれもティアラの体に傷をつけないように。王族の肉体だ、清廉潔白であるほど品格が保たれる。君も今日を最後に家を没落させたくないだろう」
「わーってるし。だからこそ、寝技・関節技を極めたあーしがお姫様の相手なんでしょ?」
ジェシカさんは柔軟な体を見せびらかして、私を威圧してきているようです。まるでゴムみたいな手足です……。
それに、お化粧や装飾が派手で少し苦手意識を持っていましたけど、とても顔立ちの整った可愛らしい方です。お肌の手入れも、すごく丁寧に見受けられます。
私も美容には少し興味がありますから、今度お話を聞いてみたいです。
「お姫様、悪いけど骨抜きにしてあげるから覚悟してね」
「負ける気などありませんわ。あくまで私の目標は優勝ですもの」
私とジェシカさんは、戦いの舞台へ上がり、互いを見合います。私は腰から細剣を抜いて構えますが、ジェシカさんは先ほどの宣言のように、武器を持っていません。
手が震えます。武者震いです。私は今まで、こういう競技に憧れてきたのですから。もう、王族や身分など気にせず、私は自由に進む道を決めていくのです。
痛い思いをさせてしまうのは心苦しいですけれど、これも私が自分らしく生きていくための、やり方の1つとして学ぶ勉強の一環です。
「では、2回戦……開始ィィィ!」
審判の方が大きな声で宣言し、私の戦いが始まりました。
――――――――――――――――――――
遠くで歓声が聞こえる。きっとティアラの2回戦が始まったんだ。早く舞依を連れ帰って、安心させてやらないと……。
トレイシーの言っていた廃屋を目指して、足場の悪い森の中を走っていると、数人のSクラス生徒が立ちはだかった。
これも、ロバルトの差し金か――。
「おっと、そこで止まるんだ」
「下等な平民がロバルト君の計画を邪魔できるなんて思わないことだ」
「終わりだよ。Sクラスがこんなにいる中で、たかがNクラスの君が抵抗しても――」
「どけ」
俺は『絶無』を抜刀すると同時に、一瞬で刺客たちを蹴散らした。ドサササァ、と無言で気を失い倒れる音が聞こえる。
やがて、木々の間から古びた建物が姿を現した。俺は躊躇うことなく、壊れた正面口の隙間から中へ入った。
目の前の老朽化した階段を駆け上がり、最上階の一番奥の部屋へ向かう。ドアは閉じている…………イチかバチかだ。
俺はそのドアを、思い切り蹴破った。




