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本当の狙い

 俺は短剣――『マインゴーシュ』を逆手で構え、ロバルトと対峙する。その刃には、複雑な紋様が彫られている。


「なるほど……極端に間合いの短い武器なら、僕のエクステンデッド・ナックルに対応できる。下民のくせに知恵の回ることだ」


 ロバルトが手の関節をポキポキ鳴らしながら言う。当然、俺は褒められた気なんて欠片も持たなかった。


「けど、チョイスミスだ。僕に勝ちたければ、逆に間合いの長い武器を選ぶべきだった。なぜなら――」


 再び、ロバルトの姿が消えた。直後、やはりロバルトは俺の目の前に現れ、高速のラッシュを繰り出す。


シュシュシュシュシュシュシュシュ……!


 怒涛の連続パンチを、俺は左右の『マインゴーシュ』でいなした。


「僕のエクステンデッド・ナックルは、使用者のスピードを急激に高める! 僕に接近を許した時点で、君の敗色は濃厚必至なんだよ! ほらほらほらぁ!」


 俺は『マインゴーシュ』で、ロバルトの拳の軌道を僅かに逸らして攻撃をかわしていく。まだ1発も当てていないにも関わらず、ロバルトは勝ったつもりでいるらしい。

 けど、たしかにこのままじゃ埒が明かない。俺は足に力を入れ、今度は自分からロバルトの懐へ潜り込んだ。

 瞬間。ガラ空きの胴体に、『マインゴーシュ』を斬り上げる。


ズシャッ!


 浅いが、俺の短剣がロバルトの皮膚を斬り裂いた。


「なっ……!?」


 ロバルトは慌てて転びそうになりながら後退する。破れた服、滲み出る血を見て、呆然と俺を見る。


「たしかに速いな。でも、俺の『マインゴーシュ』にはそんな特殊効果はないけど、攻撃速度はSだ」


 さあ、反撃だ――俺は最高速度でロバルトの周囲を動き回り、撹乱した。接近して斬りつけ、距離を取り、また斬りつける。

 超高速のヒット&アウェイを、ロバルトは完全に追えておらず、俺が距離を詰める度にパンチを繰り出すが、全て空振りに終わる。

 俺はロバルトの徒手空拳に捕らえられることなく、腕や足を次々と斬り裂く。


ザシュザシュザシュザシュ……!


 1つ1つの傷はあえて浅くつけているが、それでも戦いのペースを掴み、ロバルトの体力を消耗させる狙いは確実に成功している。


「このぉ!」


 ロバルトが躍起になって、大振りの一撃を繰り出した。今だ――終わらせよう。

 その時。俺は体に、青白い闘気が迸るのを感じた。これは、ルドルフと戦った時と…………【EXアーツ】と同じだ。

 俺は跳び上がって、ロバルトの腕を蹴り、真上へと高くジャンプして背後を取った。両手の短剣に、闘気が宿る。


「【ベノムファング】!」


 俺はロバルトの両肩に、逆手で持った『マインゴーシュ』を突き刺した。筋肉と筋肉、骨と骨との隙間。損傷しても後遺症の残らない、僅かな部位だ。

 ここに確実に一撃を入れるために、ロバルトの大きな隙を待っていたんだ。俺は短剣を抜き、ロバルトの裏拳を避けながら距離を取った。


っ…………小癪なぁ…………っ!?」


 ロバルトは再び俺に殴りかかろうとしたが、ガクッとぎこちない動きで片膝を着いた。


「かっ、体が……何を、したぁ…………!?」


 ロバルトが怒りの形相で俺を見上げる。


「麻痺毒だよ」

「麻痺っ……毒ぅ!?」


 俺が今回、この短剣――『マインゴーシュ』を2つ目の武器に選んだのには、様々な理由がある。まず、『絶無』の弱点である至近距離での戦闘に対応するため。

 次に、性能だ。チームマッチでは相手に致命傷を与えずとも、戦闘不能の状態にすれば勝ちになる。いくらロバルトでも重傷を負わせたくない俺にとって、最低レベルの威力かつ最速の攻撃スピードを誇る短剣は、まさにうってつけの武器だ。

 更に、この麻痺毒。『マインゴーシュ』の刃には、麻痺魔法を付与する魔法紋が刻まれている。さっきの【EXアーツ】は、その効果を最大限に発揮するものだ。


「ダメージが少ない代わりに手数の多い攻撃で、麻痺毒を蓄積し、【ベノムファング】で一気に体の自由を奪う。俺の狙いは最初からこれだったんだよ」


 【EXアーツ】の発現と効果は想定外だったけど――ロバルトは、それまで保っていた貴族の品格を、一切取り払ったような表情を浮かべて俺を睨む。

 いくら怒ってるとはいえ、それはちょっと人間がしていい顔じゃない。


「……体を麻痺させたから、僕に勝ったとでも言いたいのか?」


 ロバルトから魔力が発せられるのを感じた。さっきのアイス・ウォールとも、サンダー・スピアとも違う。

 これは――。


「驕るなよ家畜以下の虫けらがぁ!!」


 ロバルトの周囲の地面が抉れ、砕けて無数の杭状となり浮遊する。それらは全て、尖端を俺に向けている。

 ――土属性魔法か。


「グランド・スパイク!」

「ブラスト!」


 俺も対抗して無属性魔法を放つ。魔力の塊と無数の杭が衝突する。だが、俺の魔法は弾かれ、形を失って霧消してしまった。

 複合属性と渡り合うには、まだパワーが足りないか――俺は即座に『絶無』を抜刀し、オーラを纏う。

 さあ、終わりにしよう…………俺は『絶無』を掲げ上げ、【EXアーツ】をぶっ放した。


「【バスタースラッシュ】!」


 斬撃はグランド・スパイクを粉砕し、ロバルトへと一直線に伸びる。


ドゴゴゴゴオオオオオォォォォォォォ!


 ロバルトは慌てて土魔法で大地を割り、壁のように垂直にせり上げ盾とした。


「グランド・シールド!!」


 しかし、俺の【バスタースラッシュ】はそれを難なく粉砕し、ロバルトに直撃した。およそ学生同士の決闘とは思えないほど、凄まじい衝撃が巻き起こり、観客も悲鳴をあげる。

 土煙やオーラの余韻が晴れると、ロバルトが倒れていた。あまりの威力で痛そうに呻いているが、服はボロボロだ。

 しまった。もう少し加減しないといけなかったか――思っていると、審判のジョージが安否を確認する。


「ロバルト、戦闘不能とみなす! よって1回戦……勝者、ケイスケェェェ!」


 判定により、俺の勝ちが確定した。


「ロバルト!」

「ロバルトきゅぅぅぅん!」


 瞬間、ニコールとジェシカがロバルトへ駆け寄る。心配する声や労る声が聞こえてきた。


「お兄さん!」


 すると、涼子ちゃんも仕切りを越え、俺の方へ走ってきた。

 しかし、その表情は険しい。なにか焦っているようだ。


「大変……舞依がいなくなっちゃったんです!」

「え!?」


 舞依がいなくなった……? そんな、どうして…………。


「今ティアラさんが探してるんですけど、まだ見つけられなくて――」


 すると、堪え切れず漏れ出たような笑い声が、後ろから聞こえた。

 俺が振り返ると、ロバルトが立ち上がって、フラフラと俺たちに近寄ってきた。


「困ってるようだねぇ……それはそうだ。君が僕との戦いに没頭している間に、大事な妹が行方不明になったんだからねぇ……」


 その邪悪な物言いと顔から、すぐに分かった――こいつらの仕業だ。


「探しに行かなくてもいいのかい? あぁ、でもここで妹を探しに行ったら、間違いなくティアラは僕と婚約する運命を辿るねぇ……。

 けど君が、妹がどうなってもいいと考える薄情者とも思えないし……この窮地を君はどう乗り切るのか、すっごく興味があるなぁ…………!」


 くそ……俺が長期戦をしていたから…………まんまとハメられた。


「さあ、選ぶんだ! 妹を助けてティアラを僕と婚約させるか! それとも妹を見捨ててティアラを守るか!

 2つに1つだ! 僕を完全に怒らせてしまったことを悔やみながら、どっちを諦めるか決めるがいい!!」

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