40、交渉
爽やかな朝日で目覚めると、窓の外には巨大な白の建物が三つ並んでいます。それぞれ、自由の塔、権利の塔、裁きの塔と呼ばれているそうです。夕方に着いてからまた宿探しで、朝から観光となりました。私のせいで、出発が遅くなりました。すみません。しかも夜に話してくださいましたが、暴動の可能性がまだ残ってるとのことです。
すでに大きな公園らしき広場で、朝早くから演説が始まってます。
「北の工場に関しての労働環境の改善に賛同の方はこちらに署名を!!よろしくお願いします!」
署名活動もやっているようです。
「…ナムさんをみつけた。」
キース様が囁きます。
「また君たちか、俺たちはもう止まれないんだ。放っておいてくれ。」
「連邦政府の交渉の切り札を持ってる。」
ナムさんは渋った顔をしながら、ある店へ連れていきました。密会にふさわしい雰囲気です。
「だとしても、北の奴等も一緒に決めてもう動いてんだ。今更変えらんねえよ。」
北と合同での暴動ですか。それはかなり大規模になりそうです。想像だけでゾッとします。
「それに、俺も一度交渉したんだよ。だがな、敗戦州のくせに生意気なこといってやがるって一蹴さ。だったら北を巻き込んでやろうとな。俺たちは自分達の生活のために立ちがあるんだ。自由と権利を掴むために。」
「連れていってくれ。交渉に役立つ。」
ピリピリした空気です。交渉はすでに決裂してたようです。キース様?暴動の中へ一緒にいくつもりですか?
「…っちっ。そっちのモーアのオーナーはお前の婚約者だろ?関税が高くなると困るんじゃねぇの?キースさんとやらも暴動止めるとか言ってるけど心配だろぅ?なぁ、婚約者さんよ」
どうやら身分を証してキース様は交渉しているようです。で、あれば、私も。
「はじめまして、ナムさん。モーアのエリーナと申します。むしろ、自国を守るためには関税を上げるのもやむ無しではと考えますわ」
私は冷静に答えます。前世の知識を含めても自国の発展のために、必要なことだと思います。キース様が残ることには賛成してませんけれど。
「…面白れぇ嬢ちゃんだな。だがな、覚えときな。戦いの後の敗戦州は未だに蔑まれて、おんなじ仲間としてみてくれない時があるようだぜ」
かつて南と西の州と北と東の州で争っていたと歴史上学んでおりました。しかしながら、世間の敗戦州へ視線は厳しく、どんなに成果をあげても変わることなく一定数蔑む心は残されてしまっていたことを歴史学の中では知らされていませんでした。
「西の農業の豊作はつい最近とか言ってるけど、実際は連邦政府へのおべっかだぜ。賄賂で、黙らせてたらしいかな。中央州は腐ってやがる」
「もう止まらないか?」
キース様が、確認します。
「…ああ。止まれねえな」
ため息とともに覚悟を決めた目付きでキース様を睨みつけます。しばらく重く静かな時間が過ぎます。
「エリーナ、すまないが、最悪の展開になりそうだ。先に帰ってくれ。近くにいたら危ないかもしれない。タイナー、頼むぞ。」
駄々をこねても仕方ないですが、私は明らかに足手まといです。キース様が心配です。見つめる私にキース様が微笑みます。きゅっと胸が苦しくなり、そばにいたい気持ちが溢れてきます。泣きそうな自分を隠すように抱きつきました。
「エリーナから抱きついたのは初めてじゃないか?嬉しい。頑張れそうだ。」
おでこにキスして、キース様は穏やかに手を離します。行かないで。不安でいっぱいの私はもう涙が止まりません。しっかりしなさい。エリーナ。
暴動を止めるためには連邦政府に状況を説明しなきゃなりません。そのためには信書を持ったキース様しか行くことはできません。もしものために持たされていた連邦政府本部の中枢のなかでもトップの三人に会うための信書だと、昨夜話をされてました。
最悪の展開です。私には何もできないのでしょうか。
「っくそっ。勝手にしろよ。明日朝六時から再交渉だ。と言っても武装してすでにストライキだがな。続々と集まってるところだ」
「規模は?」
「わからねえ。不満を持ってるやつらが集まってるとは聞いたが、最初の規模からはだいぶ増えてんじゃねぇかな」
「もうすぐ夕方になるか。エリーナ、できるだけ国境まで急いでくれないか?安心できない。明日には暴動が起こる。ここは安全じゃない」
夜に馬に乗ったことなんてないのですが、緊急です。タイナーさんの後ろにくっついて、出発です。
「愛してる」
「私も、愛してます。ご無事で」
暗闇の中、タイナーさんの揺れる背中にしがみつきながら朝を迎えました。砦のところはすでに人がいます。まだ日も昇り始めたばかりのこんな朝早くです。よっぽど急いでいるのでしょう。
「まだか?門をあけろ!」
恰幅の良い、神官っぽい服を着たかたが偉そうに門番へ声をかけます。
「おかしくないですか?なんで中央の州の人が、こんな朝早くからここにいるんでしょうか?」
先に気づいたのはタイナーさんです。
確かにおかしいです。この情報を掴んでいるとすれば関係者かもしれません。しかも逃げてるようなので、もしかしたら責められるようなことをした負い目があるのかもしれません。
「ラッキー!捕まえましょか?」
そっと呟いたのは小柄の茶髪の男性です。知らない人です、よね?
私の疑問が顔にでてたのか、
「ああ、キースさんからあんたの護衛をこっそり頼まれた隠密仲間やで。それより、西の賄賂受取ったズブズブの主犯レベルのやっちゃで。あいつ」
「捕まえましょう」
即答しました。暴動の中は怖いけれど、キース様の交渉の糸口になるのであれば、連れていきます。




