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38、出発

「荷物はこれで全部かしら?」

「エリーナお嬢様、こちらはいかがされますか?」

 一緒に行く予定のタイナーさんがいつも描いているデザインのスケッチブックを持ってます。いよいよ旅行が始まります。藍色のつやのある髪を一つに纏めた爽やか侍女のタイナーさんは護衛も兼ねてマナサルト伯爵家の中で選ばれました。


「私としてはデザイン思いついたらすぐに描いてほしいのですが、キース様と一緒ですし、無理でしょうね。」

「…無理でしょうね。」


 西の連邦国へは王都から、7つの領地を通って向かいます。四日間ほどで、国境付近に到着します。馬車の中ではキース様と人様には言えないようなことをしてしまいました。乱れた髪と服を急いで直して馬車からおりるのが大変でした。最後までしてないってキース様はおっしゃるけれど、あんなことやこんなこと、前世でも経験がないので、本番が心配です。たまに乗馬練習もさせてもらえて、穏やかな旅になってます。


 国境は円満に婚約破棄したあのカップルの伯爵家です。朝から慣れた様子でさくさくと出入国手続きを進めてくれます。


「目的は?」

「新婚旅行です。」

「ブランドモーアの新規出店の視察です。」

 ちょっとキース様、浮かれすぎです。連邦国は全部で五つの州があり、独自に発展してきたところをグループ化していって大きくなったと言われています。州同士の間は管理なく自由に行き来でき、公用語と公用通貨もあります。

 連邦国の西側にあるウーガル州は農産物、北側のロックス州は工業関係で有名です。今回は、商業が盛んな私達の国のすぐ隣に接するサナール州と、四つの州に挟まれた連邦政府本部がある中央のクルミナ州へ向かいます。


 出国すると、かつて緩衝地帯の森の間に作られた狭い道を馬で進みます。私だけキース様の後ろに乗せてもらいます。ちゃんと頑張りましたよ。スピード出すのは間に合いませんでしたが、一人では乗れるようになりました。初めて乗馬した時は前に抱っこされましたが、今回は後ろから抱きつく形でのスタイルです。盗賊などがここが一番出やすいとのことで、ここだけ護衛を雇いました。すぐに逃げられるようにスピードを出すときはくっついていればいいと言われました。護衛の人が活躍することなく、森の近くの道を通り抜けると、明らかに発展しているとわかる砦があります。夕方前にここまでにたどり着かないと野宿だそうです。まだ日が沈む前で良かったです。


 門番が身元を確認しています。護衛の皆さんはここでお別れです。キース様、私、タイナーさん、ラクナさんの四人の小旅行です。あ、間違えました、視察です。

「モーア」という言葉に門番の眉がピクリとあがります。

 お、知ってますか?ありがとうございます。


「嬢ちゃんがモーアのオーナーさん??嫁さんが下着買ったよ!嬢ちゃん、支店よろしくなー」


 …軽く、そして親しげです。こちらは身分制度はないのでこんな感じなんですね。イメージ前世に近いかもしれないです。


 門を抜けると石畳のしっかりした道路が四方に散らばってます。

「まずは宿をとりましょう。あと、ここからは貴族と分かったら面倒に巻き込まれるので、街中では様付けは無しでご容赦ください。」

 そう言うと、さくさくと進んでいくラクナさん。慣れてますね。明日から街を探索して、モーアの支店を出せるかの検討をしていきます。


 宿につくと夕食です。ラクナさんが前にも来たことがあるとこのとで、おまかせしました。

 肉料理がメインでなかなか素材を活かしたワイルドな料理が多いようです。

「北のほうはもっとがっつり系があります」

「ちょっと失礼」

 タイナーさんがメニュー表を見て、

「もっとあっさりしたものや、女性向けのものも頼んでください」

 と、クリームソースのグラタンやオニオンスープなどが追加されました。ラクナさんの好みでしたか。

 食事の後はキース様とラクナ様は別行動で聞き取り潜入捜査へ入るそうです。部屋へ戻る前に、

「エリーナ、俺のことも、キースと呼ぶんだぞ?」

 いたずら顔してキース様が話してきました。

 キース様、キース。

「…キース。」

 小さな声で練習してみました。大丈夫、いけそうです。

「!!っつ!!ああ!!もう一回呼んで!!」

 聞き取れたようで、キース様が抱きついてきました。

「部屋は別です。あくまで婚約者ですので。あ、エリーナさんは私と同室ですから、寝込みを襲うことはできませんので。」

 ベリっとはがしますタイナーさん。奥様にきっちり私の乙女を守るよう言われているようですね。


「隠密行動が試されますね・・・。」

 ちょっと、ラクナさん。それは言わないでください。



 *****

「おはようございます!」

「おはよう、エリーナ。私の天使、今日もかわいいね」

「早速街をまわってみたいと思いますけど、よろしいですか?」

 男性陣の二人は夜遅く帰ってきたみたいです。キース様のテンションがおかしいです。私への変態度が上がるとストレス度数が高いと伯爵家では言われているそうです。タイナーさんが冷たい目で見てます。ちなみに私の夜は長旅が一段落してにホッとしたのか、熟睡してました。元気も準備も万端です。

 街の流行やモーアの支店になりそうな場所、初の外国進出ですので、しっかり見ていきたいと思います。刺激をもらって良いアイデアやデザインがでてきそうですしね。わくわくします。




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